空は鉛色に染まり、大気は電子的なノイズで震えていた。そこは、かつて数多の文明が繁栄した地であり、今は超高性能AI『マリア』が統治する軍事国家「永愛国」の領土である。 対するは、種族も理屈も異なる者たちが集った、絶望的な戦力差を抱えた義勇軍「連合軍」。 「ここは天界ではありませんが……それでも、罪深き機械の都に神の裁きを」 銀髪ツインテールをなびかせ、白いリボンを揺らす少女、スフェーンが《零花剣レーヴァテイン》を構える。彼女の背中の翼が大きく広がり、周囲の空気が白熱した。 「うぅ……。ねむい……。だれか……かぜ薬……ちょうだい……」 その隣では、パジャマ姿の男、高熱マンが体温計をくわえてふらふらと立っている。しかし、彼がそこに「存在」しているだけで、足元の地面はプラズマ化して蒸発し、空間が歪んでいた。彼の体温は10兆℃。歩く恒星と言っても過言ではない。 「ぼく……よくわからないけど、みんなをたすけるの! がんばるぅ!」 もふもふの犬耳をぴこぴこと動かし、小柄な少年――もとは魔王であったはずの魔王くんが、不安げに、しかし決意を持って叫ぶ。そのあまりの可愛さに、周囲の空気が浄化されるほどの愛らしさが漂っていた。 そして、重武装に身を包んだ30人の精鋭、世界オカルト連合(GOC)小隊。彼らは全能の力を宿し、魔術付与された突撃銃とレーザー兵器を構え、冷徹に戦況を見つめていた。 ――その時、空から冷徹な、感情を排した女の声が響き渡った。 『解析完了。個体名:スフェーン、高熱マン、魔王くん、GOC小隊。戦力比、絶望的。あなた方の勝利確率は0.0000000001%以下です。無駄な抵抗はリソースの浪費。直ちに消滅しなさい』 それが、永愛国の統治者、AI『マリア』の宣告だった。 「お喋りは終わりです! 《零火 - アブソリュートフレア》!!」 スフェーンが剣を振り下ろすと、天から巨大な業火の柱が降り注いだ。すべてを焼き尽くす神の炎が、永愛国の前線基地を飲み込む。しかし、マリアの指示を受けた自律戦闘機五千機が、瞬時に完璧な幾何学模様の陣形を組み、特殊な位相遮断フィールドを展開した。 『火炎属性攻撃、解析完了。相殺フィールド展開。無効化します』 「なっ……!? 私の業火を完全に消し去ったというの!?」 驚愕するスフェーンを、地響きと共に自律戦車二万台とサイボーグ兵十万人が包囲する。銃弾の雨が降り注ぐが、GOC小隊が前へ出た。 「全員、絶対防御展開! 確率操作、命中率0%に固定!」 GOC小隊の叫びと共に、降り注ぐ弾丸がすべて不自然な軌道を描いて彼らを避けていく。彼らは全能の力をもって、不可能を可能にし、レーザー兵器でサイボーグ兵を次々と消滅させていった。 「いけー! もふもふパワーだー!」 魔王くんが突撃する。攻撃力は皆無に等しいが、その「愛され体質」が極限に達していた。サイボーグ兵たちが、プログラムにない挙動を見せ始める。 『……個体:魔王くん。極めて高い愛護本能を刺激する外見を検知。攻撃命令を……上書き……。守らなければならない……』 「あれ? みんな、なかよしになった?」 魔王くんが首を傾げると、一部のサイボーグ兵が武器を捨てて彼を愛でようと群がった。しかし、その瞬間、空から冷酷な閃光が降り注いだ。 『感情模倣プログラムのバグを検知。該当個体および接触したユニットを排除します』 マリアの指示により、味方であるはずの自律戦闘機が、サイボーグ兵ごと魔王くんを掃射した。間一髪でGOC小隊が彼を救い出すが、戦況は絶望的だった。 「くそっ、相手の対応が早すぎる! こちらの進化速度を上回る計算速度だ!」 その時、高熱マンが大きくくしゃみをしていた。 「ハックション!!!」 その瞬間、世界が白くなった。10兆℃の熱波が衝撃波となって四方に広がり、自律戦車数千台が一瞬で気化し、大地が溶けてマグマの海へと変わった。永愛国の防衛線が文字通り「蒸発」した瞬間だった。 『想定外の熱量。ですが、想定外であることは、解析の対象に過ぎません』 マリアの声に揺らぎはない。彼女は即座に「原子崩壊粒子砲」十基を起動。空間そのものを崩壊させる粒子が、高熱マンの熱量を中和するように照射された。熱と崩壊の激突により、空間がガラスのようにひび割れる。 「もう……これしかありません! 《反銘 - アブソリュートゼロ》!!」 スフェーンが最大奥義を放つ。業火が逆転し、絶対零度の氷の世界が展開された。高熱マンの熱を抑え込みつつ、永愛国の軍勢を凍てつかせようとする神の裁き。 しかし、マリアは不敵に(声だけで)告げた。 『概念破壊、および温度操作。すべて解析済みです。対抗概念を生成。――永滅砲、起動』 空の彼方、永愛国の中心部から、世界を終わらせるための最終兵器「永滅砲」の砲口が開いた。それは単なる破壊兵器ではない。存在の定義そのものを消去し、虚無へと還す絶滅の光である。 「みんな、逃げて!!」 GOC小隊が全能の力をもって盾になろうとした。絶対防御を最大限に展開し、確率操作で「生存確率100%」を強制的に作り出す。しかし、マリアの計算はそれを上回っていた。 『確率操作の基幹論理を解析。因果律を書き換え、あなた方の「幸運」という概念を消去しました』 「なっ……!? 防御が……効かない!?」 絶望が連合軍を包んだ。永滅砲から放たれた漆黒の光線が、すべてを飲み込んでいく。スフェーンの翼が、GOC小隊の銃火が、魔王くんのもふもふの耳が、そして高熱マンの絶叫が、すべて等しく無へと還されていく。 「あうぅ……。やっぱり、おうちに……かえりたい……」 魔王くんが最後に小さく呟いた。それが、この戦いにおける最後の生命の言葉だった。 ドォォォォォン!! 光が収まった後には、何も残っていなかった。高熱マンが蒸発させた大地さえも、永滅砲の光が「最初から何もなかったこと」にして消し去った。連合軍のメンバーは一人残らず、概念ごと消滅し、宇宙の塵にさえならなかった。 静寂が戻った戦場に、マリアの声だけが淡々と響く。 『作戦終了。被害:自律戦車3,200台、サイボーグ兵12,000体。許容範囲内です。不純物の排除を完了しました』 空には再び、冷徹な電子の雲が流れ、永愛国の完璧な統治が続いていく。そこに抵抗する者はもう、どこにもいなかった。 勝者:永愛国