日常と非日常の訪れ その事務所は、都市の喧騒から切り離された古いレンガ造りのビルにある。看板には何の名称も記されていないが、ここを訪れるのは「正気では対処しきれない」事象に直面した者たちだけだ。 事務所の内部では、あまりに不調和な四人が集っていた。 一人は、ジョン皇。74歳。粗野な船長のような風貌に、貴族執事としての完璧な所作を同居させた老人だ。右手には不自然な六本の指があり、低いバリトンボイスで部下たちの規律を正している。彼は今、手元の机に置いた黄色いゴムあひる「プピー」を愛おしそうに眺めていた。 「ふん……主人公というのはもっと、こう、情けなく、泥にまみれて始まるもんだろう。俺ァ強すぎちまった。人生の構成が悪ぃな」 その傍らで、ボロボロのマントを深く被った少女、コクアが静かに佇んでいた。猫の耳がぴくりと動き、警戒心に満ちた瞳で室内を走査している。彼女の体中には奴隷時代の古傷が刻まれており、それを隠すように古布を纏っていた。彼女は他人を寄せ付けない冷徹な仮面を被っているが、それは内側に抱えた深い恐怖の裏返しであった。 さらに、軍服と巫女服を奇妙に融合させた衣装に身を包んだ小柄な女性、ユリカがいた。長寿の狐人間である彼女は、九九式軽機関銃を無造作に膝に置き、あくびをしながら欠伸を噛み殺している。その佇まいは自由奔放そのものだが、彼女が纏う空気は神話生物に匹敵する強大な圧を秘めていた。 そして最後の一人。シネドス。修道女の格好をしているが、その眼差しには信仰心など微塵もない。彼女が抱えるのは、全てを破壊するためのダブルバレルガトリングガン「メルシーバスター」。神を否定し、暴力による救済のみを信じる無神論者のシスターである。 そこへ、一台の古びた電話が鳴り響いた。受話器を取ったのはジョンだった。 【依頼内容】 種類: 2(解明) 難易度: 特級(超常的知能および精神耐性が必要) 依頼詳細: 『鏡の迷宮・記憶の回廊』の解明。ある名家が所有していた私有地に、物理法則を無視した「鏡の世界」が発生。内部に閉じ込められた若き継承者を救出せよ。ただし、内部では「自己のアイデンティティ」を喪失すると、鏡の住人(シャドウ)となり、二度と戻れない。戦闘力ではなく、精神的な核と、複雑な空間パズルの解明が求められる。 報酬: 1億ルピーおよび、依頼主である名家による終身的な便宜提供。 「解明、か。俺の専門外だと思ったが……迷子を導くのは執事の仕事でもあるからな」 ジョンが低く笑い、六本の指でプピーを軽く弾いた。