深夜の静寂に包まれた、古色蒼然たる洋館。そこに集められたのは、およそチームワークという言葉からは程遠い、あまりに個性の強すぎる四人の異端児たちであった。 目的はただ一つ。屋敷に眠るお宝を最低15,000ゴールド分集め、全員で脱出すること。しかし、この屋敷には正体不明の「怪物」たちが徘徊しており、一度でも触れられれば意識を失い、その時点で積んできた財宝はすべて無に帰すという、極めてシビアなルールが存在していた。 第一章:混沌の潜入作戦 「標的を全確認。当機による最適ルートの算出を完了しました。作戦を開始します」 黒い軍服に身を包んだ美少女、Yu-zlaが冷徹な声で告げる。彼女の手には、神の領域に迫るという神槍-ヴェルが握られていたが、このゲームのルールにおいて、いかに強力な武器を持っていようとも敵にダメージを与えることは不可能である。彼女の知能と武装は、あくまで「探索の効率化」にのみ供されることとなった。 「え、なんか俺だけ装備弱くね……?」 隣で情けない声を上げているのは、体長5メートルの恐竜、ノキアサウルスである。彼は一般的なダンジョン探検セットを身に着けていたが、周囲のメンバーが(実質的に)神級の能力や装備を持っているため、相対的にひどく心細そうに見えた。 「まあまあ、みんなで協力して頑張りましょう。幸福は分け合うものですから」 ふわりと舞い降りたのは、鉛の心臓を持つ小さなツバメ、幸福な燕。その物腰柔らかい態度はこの一行における唯一の精神的支柱であった。 「……(無言で刀の柄をいじる)」 そして、静かに佇む銀色の狼の如き青年、テンリ。彼は圧倒的な戦闘能力を持つが、今はそれを封印し、ただ状況を見守っていた。 一行は慎重に屋敷へ足を踏み入れた。廊下には埃が舞い、壁に掛けられた肖像画の目が、彼らの動きを追っているように感じられる。 第二章:黄金の誘惑と不可視の脅威 潜入して早々、彼らは運に恵まれた。ホールの中央に、豪華な金箔の装飾が施された花瓶や、宝石が散りばめられた燭台が転がっていたからである。 「分析完了。この燭台、推定価値3,000ゴールド。花瓶は2,000ゴールドです」 Yu-zlaが淡々と査定を行う。幸福な燕がそこに降り立つと、不思議なことに、さらに隠されていた金貨の袋が転がり出してきた。彼の持つ「大切な物を貰う」祝福が、屋敷の財宝をも引き寄せたのだ。 「ああっ、こんなにたくさん! 申し訳ないけれど、頂いておきますね」 現在の合計金額は、すでに8,000ゴールドに達していた。ノキアサウルスが大きな体で喜び、尻尾を激しく振ったその時である。 ――ガシャンッ!! ノキアサウルスの尻尾が、廊下に置いてあった不自然な花瓶をなぎ倒した。静寂に包まれていた屋敷に、破壊音が不気味に響き渡る。 「……音が大きすぎます。当機の計算では、聴覚に特化した個体が反応する確率が98%に上昇しました」 Yu-zlaが警告を発した直後。廊下の突き当たりから、地を這うような唸り声と共に、巨大な銃を抱えた幽霊――ウィニットが姿を現した。その瞳は血走っており、音のした方向へ向かって猛烈な速度で突進してくる。 「ひぃいっ! 来る! 来るぞ!!」 パニックになったノキアサウルスが後ずさりし、足元に落ちていた「バナナの皮」を踏んだ。あろうことか、彼はそのまま激しく滑り、ウィニットの目の前にダイブする形となった。 「あぶない!」 テンリが瞬時に反応し、ノキアサウルスの襟足を掴んで後方へ引き寄せると同時に、ノキアサウルスが踏んだバナナの皮が、絶妙なタイミングでウィニットの足元へ滑り込んだ。 「ドサッ!!」 神出鬼没の幽霊が、あまりにも間抜けに転倒した。その隙に、一行は全力で隣の部屋へと逃げ込み、重い扉を閉めた。 第三章:鏡合わせの罠と偽りの導き 「ふぅ……危なかったですね」 燕が胸をなでおろした時、彼らの前に一人の少年が立っていた。どこか儚げな表情をした少年、コズミックである。 「ねえ、あっちの部屋にすごく高いダイヤモンドがあるよ。10,000ゴールド以上の価値があるはずさ」 コズミックは親切そうに右の扉を指差した。ノキアサウルスは目を輝かせ、「よっしゃ! これで目標達成だ!」と飛び出そうとする。 しかし、Yu-zlaの青い瞳が鋭く光った。 「待機。当機の検知能力によれば、右の部屋からは魔力の淀みが感知されます。それに、この少年の発言は論理的に不自然です。高価値のアイテムをあえて教えるメリットが彼にない」 「えっ、そうなの?」 ノキアサウルスが足を止めた瞬間、後ろから優しく肩を叩かれた。振り返ると、そこには……もう一人の「ノキアサウルス」が立っていた。 「えっ、俺!? なんで俺が後ろにいるの!?」 正体は、変装のスペシャリストである少女ブロクであった。彼女はニヤリと笑うと、油断しきったノキアサウルスの後頭部に強烈な一撃を見舞った。 「ぐふっ!」 ノキアサウルスは白目を剥き、そのまま気絶して床に沈んだ。ルール通り、一撃での撃沈である。 「ノキアサウルスが脱落しました。残存人数、3名。作戦継続しますが、警戒レベルを最大に引き上げます」 Yu-zlaは冷徹に状況を分析したが、その内心では「恐竜の注意散漫さ」に呆れていた。しかし、彼らが立ち尽くしている間に、今度は部屋の四隅から水晶を持った男、ペルトが静かに現れた。 第四章:絶望の拘束と逆転の脱出 ペルトが水晶を掲げると、不気味な光が放たれた。それは触れた者を逃がさない絶対的な拘束の呪いである。 「逃げてください! 私が時間を稼ぎます!」 幸福な燕が、自らの体に纏わせていた金箔と宝石をわざと散らばらせ、ペルトの注意を引いた。強欲な本能を刺激する輝きに、ペルトの視線が奪われる。 その隙に、テンリが動いた。彼は第1形態である銀狼の思考加速を使い、ペルトの呪いという「概念」の隙間を縫うように、超高速で移動した。もはや目には見えない速度である。 テンリはYu-zlaと燕の腕を掴むと、そのまま屋敷の出口へと向かう最短ルートを駆け抜けた。背後からは、正体を見破られたブロクの怒鳴り声と、ウィニットの銃声が鳴り響いていたが、テンリの速度に追いつくことは不可能だった。 「出口を確認! 残り必要額は……あと4,000ゴールドです!」 Yu-zlaが叫ぶ。彼らが持っているのは、先ほど集めた8,000ゴールドと、燕がうっかり引き寄せてしまった数々の小宝たちであった。合計すると12,000ゴールド。あとわずかに足りない。 出口の扉まであと数メートルのところで、彼らは床に転がっていた、古びた、しかし精巧な装飾の「王冠」を見つけた。それはかつての王子の持ち物であったのかもしれない。 「あれを!!」 燕がひらりと舞い降り、その王冠を嘴でくわえ上げた。その瞬間、王冠が共鳴し、もともとの価値以上の輝きを放った。査定額は、単体で5,000ゴールド。 「合計17,000ゴールド! 条件達成です! 全速で脱出します!」 彼らが屋敷の正門を飛び出した瞬間、背後で大きな爆発音がし、屋敷の扉が重々しく閉まった。追ってきた敵たちは、ルールにより屋敷の外へは出ることができない。 月明かりの下、生き残った三人は激しく息を切らしていた。そして、しばらくして、屋敷からふらふらと歩いて出てくる、頭に大きなたんこぶを作ったノキアサウルスの姿があった。 「……なんか、俺だけめちゃくちゃ損した気がする」 恐竜の情けない呟きが、深夜の森に虚しく響いた。