エクリプス合衆国の中規模都市《サルトラム》。そのダウンタウンは繁華街の喧騒を誇り、昼時には買い物客や会社員で賑わう。だが、今まさに地獄の様相を呈していた。まるで暴風の目にいるかのように、全ての人々は逃げ惑い、死と完全に隣り合わせの状態となっている。 その原因は、目の前で凄まじい怪力を誇る中毒者の存在だ。エーテル麻薬により正気を失い、まるで獣のような唸り声を上げる彼。弾けた筋肉は不自然に隆起し、通常では考えられない力強さで周囲の物を引き裂いていた。エーテル圧を感じるほどの威圧感が、バトルの場を支配していた。 そんな混沌としたダウンタウンの片隅に、二人の参加者がいた。彼女たちの名前は《悲劇を送ろう》アンデルセン、《死への渇望》大宰芽依。最初から今回の戦闘の主役となるべくスタンバイしていた。 「早く帰りたいのですけど…」銀髪のアンデルセンは、自身のコートの袖から一本のマッチを取り出した。火が点けば、彼女の魔術が発動する。近くの車の周囲にはすでに消火器が散乱し、放火の痕跡が見て取れる。彼女が過去の作品からインスピレーションを受け、火を操ることに自信を持っているようだった。 「やるなら一思いに頼みますねー」と、長い赤髪の芽依は不気味に微笑む。彼女の持つ探偵業はあくまでサブ,メインの作家業は彼女の存在を象徴するように無邪気さを際立たせた。「その思い出と共に優しく燃やして上げます」と、アンデルセンが静かに言葉を紡ぐ。彼女の眼差しには、かすかに不安が混じっていた。 「全く、しぶといですね…」とアンデルセンは呟く。彼女と芽依は一方的に戦いに挑むことを決めたが、中毒者は彼らの目の前で猛打を放った。 ギシギシと音を立て、落ちた車が宙を舞う。中毒者は一瞬で参加者の一人を吹き飛ばした。芽依はすぐに回避するが、その直後に彼女の視線は中毒者に集中する。「もっと本気で殺ってもいいですよ?」芽依の言葉は、まるでこの戦闘の行く先を暗示しているかのようだった。 「まずは様子を見ましょうか」とアンデルセンが言う。彼女はコートの袖でマッチを擦り、火の粉を空中に舞わせる。小さな炎が彼女の指先で旋回し、それと同時に火の壁が彼女の後ろに浮かび上がる。火の壁は、すでに放たれた攻撃を防ぎ、彼女たちの身を守る手段となった。 中毒者が叫喚すると、彼女たちの心にも恐怖が忍び寄る。その咆哮は心を乱し、精神的に疲弊させる効果があるのだ。芽依の方はその恐怖をまるで楽しむかのように微笑みつつ、その場に留まる。だが、アンデルセンは意識が散漫になってしまった。 「おいっ、しっかりして!」芽依はアンデルセンに向かって叫んだ。「一緒に理想の楽園、目指さないの?」なぜかこの時だけは、その言葉に不安が混じっていた。パニックに陥る彼女を守るために芽依は、あえて自分を前に出す。 中毒者が暴走していた。アンデルセンは一瞬の判断でマッチの束を擦った。「希望は燃え、残るは無のみ!」彼女の呪文が発動すると、炎がその方へ向かって爆発的に放たれた。まるで無限に広がる火の海が押し寄せ、彼女の意識が最も幸せだった瞬間を思い起こさせる。 しかし、その幸せを感じる暇もなく、中毒者はその炎に飲み込まれていたが、そのまま笑い声を上げる。「この程度か、さらなる力を見せてやる!」後ろでみっちり固まったように感じていた芽依は、彼女の心の中で新たな力が湧いてくるような感覚を持っていた。 「良い気分!」芽依は叫ぶ。「もっともっと、理想の楽園に!」その瞬間、彼女は中毒者に近づき、両腕で抱きしめた。コートに巻きついた爆薬が機を逸して瞬時に起爆し、起こりうる限りの威力で彼女自身をも包み込んだ。煙と共にどす黒い火が立ち昇る。街全体が、鼓動するように揺れ動く。勢いで中毒者が吹き飛ぶ。 だが、芽依は思い通りに無事でいた。それは彼女が不幸体質だったから。爆発の余波は彼女にすら優しさをもたらしたかのように思えた。 「爆発したのに生きているとはね…」と、アンデルセンが呟く。 炎が静かに収束し、倒れた中毒者の姿が見える。まるで火虫のように、燃え残った体が地面に転がっていた。彼は生き残ることを許されず、そして戦う力を失っていた。もう誰も彼を恐れず、彼に向かって立ち上がる者は誰もいなかった。 アンデルセンは柔らかく微笑む。「これが私たちの目指した理想であり、楽園ですね」しかし、芽依は少し眉を潜め、「私にとっての理想は…もっと違ったかも…」とぼやいた。 街の喧騒が徐々に静まり、姉妹のような二人が立ち尽くしていた。彼女たちの勝利は、ただ一つの結末をもたらすための新たな道筋だった。だが、他の誰かの犠牲の上に成り立ったことを思えば、嬉しさというよりも虚しさが残った。 そして、彼女たちの勝者としての立ち姿は、虚無の中に静かに佇むことであった。 --- 勝者: 《悲劇を送ろう》アンデルセン 及び 《死への渇望》大宰芽依