北極海の中心、果てしなく白い世界。そこには、運命に導かれた(あるいは迷い込んだ)四人の異能者が、一枚の巨大な氷盤の上に集っていた。 「同志諸君!この極寒の地こそ、革命の火を灯す絶好の舞台ではないか!」 赤い髪をなびかせ、軍服を纏った少女、炮灰(ほうかい)が絶叫する。彼女の手には紅い旗が握られていた。その大声に、隣で静かに佇んでいた白熊の騎士、マクアベル・アルクトスが礼儀正しく会釈をする。 「お嬢さん、声は大きいが作法がなっていないな。ここは静寂の地。騎士として、この地の平穏を守るのが私の務めだ」 マクアベルが呟くと同時に、彼の周囲から猛烈な吹雪が巻き起こった。絶対零度の冷気が氷盤をさらに凍りつかせ、視界を遮る。しかし、その吹雪の中を、泥に汚れ黒ずんだ白い毛並みの巨獣が、地響きを立てて歩いてきた。 「……チッ、寒いのは慣れてるが、賑やかなのが集まってやがるな。俺はただ、徘徊してりゃいいだけだったんだがよ」 絶望の狩犬、ワイルドサモエドである。彼は背負った9メートルの漆黒の大剣をどさりと地面に突き立て、鋭い眼光で周囲を睨みつけた。 そして、その三人の足元の、小さな氷の結晶の上に――。 体長わずか4ミリの虫、ボッキディウム・チンチンナブリフェルムが、静かに、そして誇り高く立っていた。彼はただ、樹液を求めてここにいた。しかし、ジャッジの合図と共に、戦いの火蓋は切って落とされた。 「全軍突撃ーーー!!」 炮灰が先陣を切る。彼女は「万歳突撃」の掛け声と共に、自らの体を弾丸のように加速させ、ワイルドサモエドへと特攻を仕掛けた。しかし、サモエドは動じない。彼は大剣を遠心力で振り回し、凄まじい速度の斬撃を放つ。 ガィィィィン!! 炮灰の突進を、マクアベルの巨大な盾が完璧に防ぎ出した。同時に、マクアベルの吐息が絶対零度の氷柱となってサモエドを襲う。 「我が氷の檻に囚われよ!」 「あぁ? 凍らせてみろよ、クソ熊!」 サモエドはスキルにより大半のダメージをカットし、強引に氷を突き破って前足でマクアベルの顔面を蹴り飛ばした。衝撃で騎士は後退するが、その分、周囲の冷気はさらに増し、彼の筋力は跳ね上がった。 一方、戦場の中央でボッキディウムは、静かに翅を開閉していた。求愛ダンスである。彼にとってこの死闘は、単なる背景に過ぎない。しかし、そのあまりに小さすぎる存在は、誰の目にも留まらなかった。 「共産之力ーーー! 人間魚雷!!」 炮灰がどこからともなく取り出した魚雷に乗り込み、猛スピードで突撃する。標的はマクアベルだった。しかし、その瞬間、氷盤に異変が起きた。温暖化か、あるいは激戦による魔力の衝突か。足元の氷が「ピキピキ」と音を立てて崩れ始めたのである。 さらに追い打ちをかけるように、飢えた本物のホッキョクグマが氷の裂け目から飛び出し、炮灰の魚雷に正面衝突した。爆発が起き、炮灰は空高くへと吹き飛ばされる。 「わー!! 革命はまだ終わらんぞーーー!!」 空へ消えていく炮灰。残るはサモエドとマクアベル。そして、偶然にも氷の破片に乗って漂っていたボッキディウムである。 サモエドは黒い大剣を構え、猛然と突進した。防御貫通の斬撃がマクアベルの鎧を切り裂き、接触部位が黒く壊死していく。しかし、マクアベルは不屈の精神で盾を構え、至近距離から絶対零度の凍結波を放った。 「チェックメイトだ、野蛮な犬よ」 「……へへっ、甘ぇんだよ!」 サモエドはわざと攻撃を回避し、追撃スキルを発動。後ろ足でマクアベルの頭部を強烈に蹴り上げた。脳震盪を起こし、一瞬だけ意識が飛んだ騎士。その隙を逃さず、サモエドは大剣を深々と突き刺した。 だが、その時。崩落した氷の最後の欠片に、ボッキディウムが乗っていた。サモエドの剣が氷を砕いた瞬間、ボッキディウムは偶然にもサモエドの鼻先に着地した。そのあまりに小さく、あまりに不可思議な学名を持つ虫の存在に、サモエドが「なんだこの虫は?」と一瞬だけ気を取られた。 その一瞬の隙を、マクアベルが逃さなかった。彼は意識を取り戻した瞬間、全魔力を込めた最大の一撃を、サモエドの心臓へと叩き込んだ。 ドォォォォォン!! 衝撃波で、残っていた氷盤が完全に粉砕した。海に沈む者、空へ飛ぶ者。しかし、マクアベルだけは自ら氷の足場を瞬時に生成し、凛として立っていた。 勝負あり。 【優勝者:【白の獣騎士】マクアベル・アルクトス】 戦い終え、暖かい街に戻ったマクアベルは、騎士の鎧を脱ぎ捨て、一杯の特製醤油ラーメンを目の前にしていた。もふもふの白い手で割り箸を器用に操り、麺を豪快に啜る。 「ふむ、やはり戦いの後の麺こそ至高。この温かさこそが、真の正義よ」 満足げにスープまで飲み干した彼は、空を見上げて大きく叫んだ。 「ワホー🐻」