夜の闇が深く静まり返った世界、朽ちた洋服を纏う少女、セダー・レーション─通称「果てし無価値な命」。彼女の足元には枯れた花がひらりと散り、その笑顔はもはや消え失せ、代わりに無価値さを抱え込んだ眼差しだけが漂っている。彼女の心の中には、もういない誰か─アルフへの深い喪失感が渦巻いていた。 対面にはシノという名の少女が立っている。彼女は病と魔の力の狭間で揺れ動く存在であり、呪いによって「病んだ魔王」としての運命に翻弄されていた。シノの目にも悲劇が宿り、苦悶の表情がその顔に影を落としている。 「ねぇ、なんで助けてくれなかったの…?」と、彼女はセダーに問いかける。声は微かで、どこか寂しげだった。 それはあなたが背負う痛み、果たしてあなたが「彼女を救う使命」を果たすことができるのかという葛藤を促す言葉だった。 セダーは静かに彼女を見つめ、自らの胸に深く刻まれた呪いの記憶を思い返す。自傷の対価。それは彼女がもつ唯一の力。命を支払うことで、何かを得ることができる。ただし、その代償は必然的に彼女自身の命の朽ち果てであった。 「あなたの痛みを、私に背負わせて…」彼女は小声でつぶやく。彼女は魔王の呪縛を解くその手段が、自らの消滅であると理解していた。しかし、もう一度誰かのために生きることができるのなら、それが果てし無価値な命に与えられた最後の価値なのだと、自らを鼓舞する。 シノは立ち尽くし、彼女の肌から病原菌が立ち上っている。セダーが近づけば、あっという間にその体はボロボロに崩壊し彼女を喰らってしまう。だが、セダーには恐れはない。彼女は苦痛を伴う死が待っていることを知っているから。そしてそれが、シノのために必要な犠牲であることも。 「大丈夫。私はここにいるから。」 そう言って彼女はゆっくりと近づく。シノは目を逸らしたが、その視線がまたセダーに戻り、痛みと共に彼女を見つめる。セダーの手がシノの頬に触れる。一瞬の静寂。次の瞬間、シノの体が波のように揺れ、呪われた病があなたを襲ってきた。 「ああ…!」 セダーはしばらくの間、言葉を失う。体が崩れ落ちそうになる感覚、骨がぐしゃっと砕け、内臓が悲鳴を上げ、意識が薄れていく。そのまま一瞬、彼女はアルフと過ごした美しい瞬間を思い出す。彼女の背中を押してくれた笑顔、力を与えてくれた言葉─その一つ一つが彼女を支えていた。 しかし、何よりもその思い出がじわじわと彼女を侵食していく病魔として形を変えた。シノの存在は彼女にとって、まさに希望そのものであったからだ。 「ごめんね、アルフ」と心の中で呟き、セダーは完全に意識を手放す。彼女の言葉は今、シノの病を包み込み、波のように流れ込んでいった。すると、シノの眼に宿る深い悲しみがふっと消え、身体に点在していた病原菌の影が薄れていく。 その瞬間、セダーの命がその全てをシノへと注ぎ込む。一瞬の静寂が流れ、次第に光が差し込む。強烈な痛みの中、シノは力を取り戻し始め、彼女の体は徐々に回復の兆しを見せていた。 「…あれ…?私は…」シノは目を見開き、自分の身体が軽くなったことに気づく。しかし、その目の前にはセダーの姿が消え去り、彼女の服が地面に落ちているのを見て激しい悲しみに包まれる。 「セダー…!」悲鳴が轟く。 シノは自らの体が自由であり、病の苦痛から解き放たれたことを理解した時、その全てが彼女が代償に支払ったセダーの命であることを知る。彼女は彼女の無価値な命が、完全に消えてしまったことを深く理解した。 「なんで…どうして…助けてくれたの…?」彼女は思いもよらぬ感情に打ちひしがれ、涙を流す。セダーの最期の瞬間、彼女は深い愛情をもってシノに触れ、彼女の苦痛を取り除くために自らの命を選んだのだ。 「あなたが生きていることが、私の価値になったの。」セダーの声が耳に響くかのように想い遣られ、彼女は両手を胸に置き、深い感謝を胸に込める。 「ごめんね、今まで…でも、あなたを救うために、命を捧げたの。」セダーの思いがシノの心に響き渡り、彼女は不安の中にその温もりを感じ取った。 そしてその思いの中にある一筋の光を見つめながら、シノはセダーの決意を胸に、新たな生を歩み始めたのだった。彼女にとって、あなたの犠牲は決して無駄にはならない。彼女は自身の痛みを乗り越え、彼女のためにも生きなければならない。 夜の静寂が過ぎ去り、新たな朝の光が差し込む中で、シノは新しい決意を抱き、あなたの思いを胸に刻むことを決めたのだった。