

A1: リリティア (幼い魔女、攻撃的な言動が多いが本当は寂しがり屋。A1として牢屋に入り、鍵を回収する役割を担う。大切な物として、古いリボンをA2に預ける) A2: リルフェル (幼い人狼少女、警戒心が強いが根は明るく素直。争いは苦手。A2として牢屋の外で待機し、A1が出てくるのを待つ) 暗く湿った空気が漂う魔女ラズリの館の上層、絆を試すかのような不気味な牢獄エリア。殺風景な石造りの通路に、ぽつんと佇む狭い牢屋が口を開けている。鉄格子は錆びつき、内部は冷たい石の床と、埃っぽいテーブルのみが置かれただけの無機質な空間だ。そのテーブルの上には、ただ一つの鍵が無造作に転がっている。牢の入り口には、古びたメモが貼り付けられ、挑戦者たちに冷徹なルールを告げていた。 リリティアとリルフェル、二人は互いの手を握りしめ、この不気味な場所に足を踏み入れた。リリティアの小さな胸には、常に孤独の影が忍び寄る。生まれつきの魔力ゆえに村人から石を投げられ、逃げ惑う日々――そんな彼女にとって、リルフェルは唯一の光だった。攻撃的な言葉を吐きながらも、心の奥底ではこの人狼の少女にすがりつきたい一心でいる。一方、リルフェルは鋭い耳をピクピク動かし、周囲の気配を探る。偏見の目に晒され、天涯孤独の身の上。警戒心が強い彼女だが、リリティアの存在がなければ、きっと明るく振る舞うことすらできなかっただろう。互いの絆が、彷徨う幼い魂を支えていた。 「ふん、こんな牢屋なんか、怖くないわよ。リルフェル、あんたは外で待ってなさい。私が鍵を取ってくるんだから」リリティアは強がって胸を張り、牢屋の入り口に貼られたメモを睨みつけた。声に棘があるのは、寂しさを隠すための鎧だ。心の中では、離れるのが怖くてたまらないのに。 リルフェルは少し不安げにリリティアの袖を掴んだ。「うん……でも、早く戻ってきてね、リリティア。なんか、この辺り変な気配がするよ。魔法の匂いがする……」彼女の観察眼は鋭く、エリア全体に漂う微かな魔力の揺らぎを捉えていた。だが、根は素直な彼女は、友達を信じて頷くしかなかった。争いを好まない心が、ただ静かに祈る。 メモのルールに従い、二人は大切な物を交換する決まりを思い出した。リリティアは首に巻いていた古いリボンをそっと外し、リルフェルの小さな手に握らせた。それは幼い頃、母から貰った唯一の思い出の品――色褪せた青い布地が、彼女の寂しさを象徴するように柔らかく揺れた。「これ……預かってて。壊さないでよ、ばか」リリティアの声は少し震え、攻撃的な言葉とは裏腹に、目には切ない光が宿っていた。リルフェルはリボンを大切に胸に押し当て、明るく微笑もうとしたが、心の奥で不安が渦巻く。『リリティアがいなくなったら、私、どうすればいいの……?』 リリティアは深呼吸をし、牢屋の中へ足を踏み入れた。鉄格子が背後でカチリと閉まる音が響く。外のリルフェルと、格子越しに顔を見合わせる。狭い牢内は冷え切り、石の壁が彼女の小さな体を包み込むように感じられた。テーブルに近づき、鍵を手に取ろうとした瞬間――。 「リリティア、気をつけて! 何か、変だよ……」リルフェルの声が格子越しに届く。彼女の気配察知が、微かな異変を捉えていた。だが、遅かった。 リリティアが鍵に指を触れたその刹那、空気が歪み、牢屋全体に淡い魔力の波が広がった。認識阻害の魔法が、静かに発動する。リリティアの心に、ふと靄がかかるような感覚が襲う。いや、それは外のリルフェルの方だった。彼女の視界がぼやけ、鉄格子の向こうに立つリリティアの姿が、急に曖昧になる。『え……? 誰……? ここにいたのは、誰だったっけ?』リルフェルの頭の中に、濃い霧が立ち込め、記憶の糸が切れたようにリリティアの名前も姿も、思い出せなくなっていた。彼女の明るい心に、戸惑いと孤独の影が忍び寄る。格子の向こうの少女は、ただの知らない影のようにしか見えない。 その時、牢の入り口のプレートに、ゆっくりと文字が浮かび上がった。掠れていた■■■の部分が、はっきりと輝きを帯びて現れる――『絆断ちの牢獄』。