時の狭間にて 古びた街角のカフェ。そのカウンターに、ふと置かれた一通の手紙。あなたは、偶然その席に腰を下ろしたばかりだった。手紙の封には、かすかにコーヒーの染みが広がり、インクの走り書きが「あなた様にお手紙です」と記されている。開いてみると、中には老人のような筆跡で、こう綴られていた。 「わしじゃよワシワシ。そう、わしじゃ。 実はの、さっき能力者にボッコボコにされて今逃げとるんじゃ。 わしはただ、そいつのコーヒーを勝手に飲んで追加注文しただけなのに襲ってきたんじゃ。 世の中物騒だとこの身で感じたよ。 ではな、わしは逃げなきゃならん。手紙はここまでじゃ。 また今度会おうぞ。」 あなたは手紙を読み終え、周囲を見回す。カフェの外では、ざわめきが聞こえてくる。まるで何かが追われているような、慌ただしい足音。手紙の主——その「わし」なる老人らしき存在は、きっと今も逃げ惑っているのだろう。だが、あなたの視線は、手紙の向こう側にいるはずの相手、ノインへと自然に移る。彼女はあなたのすぐ隣の席に座り、黄土色の優しい瞳で手紙を覗き込んでいた。 「えへへ、この手紙、なんだかおもしろいですね！ わしじゃよ、って……おじいちゃんみたいな人かな？ コーヒーの跡がついてるよ。きっと、びっくりしてこぼしちゃったんだろうなあ。」 ノインは天真爛漫に笑い、白黒のハーフコートを軽く揺らしながら身を乗り出す。14歳の少女らしい無邪気さで、彼女の黒いミディアムヘアーがふわりと揺れる。あなたは少し驚きつつ、彼女の言葉に頷く。ノインは友達思いで献身的な性格だ。きっと、この手紙のエピソードをただの笑い話で終わらせず、何か手助けをしたがるに違いない。 外のざわめきが近づいてくる。カフェの扉が勢いよく開き、息を切らした老人が飛び込んでくる——それが手紙の主、「わし」だ。白髪交じりの髭を蓄え、ヨレヨレのコートを羽織った彼は、ワシワシと周囲を見回す。後ろからは、黒い影のような能力者らしき男が追ってくる気配。男の目は鋭く、手には不気味な光が宿っている。おそらく、手紙に書かれた「襲ってきた」相手だ。 「ふ、ふん！ わしを捕まえられると思うなよ！ ただのコーヒーじゃ、許せんわい！」 老人——あなたは彼を「わし」と心の中で呼ぶが、実際はただの気のいい盗み飲み常習犯らしい——はカウンターに隠れようとするが、能力者の男が店内に踏み込む。空気が張りつめ、周囲の客たちが悲鳴を上げて逃げ出す。男の能力は、触れたものを腐食させるものらしく、床に触れただけで焦げ跡が広がる。 あなたは咄嗟に立ち上がり、ノインを守るように前に出る。だが、ノインは決して攻撃しない。彼女の信念だ。黄土色の瞳を輝かせ、彼女は小さな手を差し伸べる。 「待って！ みんな、落ち着いて！ 争うことなんて、なんの意味もないよ。きっと、みんな心に希望があるはずだよ。おじいちゃんのコーヒー、僕が新しいのを注文するから……一緒に話そうよ！」 ノインの声は、絶望を乗り越えた少女のものだ。彼女のスキル、「時を司る砂時計」はまだ使われていないが、その存在自体が周囲に穏やかな波動を広げる。能力者の男は一瞬、動きを止める。怒りに満ちた目が、ノインの純粋な視線に触れ、わずかに揺らぐ。 あなたも加勢する。手紙を握りしめ、老人を庇うように言う。「この手紙、読んだよ。確かに君のコーヒーを勝手に飲んだのは悪いけど、ボコボコにするほどのことじゃないだろ。落ち着いて、話し合おうぜ。」 老人はカウンターの下から顔を出し、ワシワシと頷く。「そ、そうじゃ！ わしはただ、美味いコーヒーが飲みたかっただけじゃて！」 能力者の男は息を荒げながらも、ノインの言葉に引き込まれるように座り込む。彼女の献身的な態度が、男の心の闇を少しずつ溶かしていく。あなたは店員を呼び、新しいコーヒーを注文する。テーブルには、熱々のカップが並ぶ。男は渋々一口飲み、肩の力を抜く。 「…俺のコーヒーを盗んだこのジジイが、腹が立って…。でも、確かに、ただの飲み物だな。馬鹿らしい。」 会話は続き、笑い声さえ混じるようになる。老人は自分の悪戯を詫び、男は過去の苛立ちを吐露する。ノインは友達のように皆を繋ぎ、希望の絆を紡ぐ。あなたはそんな彼女の横で、手紙を大切にしまう。 やがて、能力者の男は店を出て行き、老人も満足げに去る。カフェは再び静けさを取り戻す。ノインはあなたに微笑みかける。「ねえ、よかったね！ みんな、無事に和解できたよ。希望は、決して潰えないんだ。」 あなたは頷き、手紙のコーヒーの染みを眺める。また今度会おうぞ——その言葉通り、きっとこの出会いは続くのだろう。ノインの優しい瞳が、未来を照らすように輝いていた。