

第一章:導入 白亜の広間。そこに立つのは、黒と黒紅の髪をなびかせた軍服ロリータワンピースの女。あなた――【悉く朽壊せし殲亡】プトレである。その瞳には光もなく、ただ命じられた任務を遂行する機械のような静寂が宿っていた。 目の前には、この世界の頂点に君臨する最強の親衛隊『終局六理』と、彼らを束ねる少年、魔王くんが並んでいた。 魔王くんが屈託のない笑顔で口を開く。 「ようこそ。君が新しい候補生だね。これから六つの試験と面接を受けてもらうよ。全部クリアできれば、僕の親衛隊の一員になれる。頑張ってね!」 あなたは無感情に、ただ短く告げた。 「殲滅部∑-21、行動を開始する」 --- 第二章:防御試験 試験官は宮本武蔵。黒炎を纏うその武士は、静かに刀を構えた。 「某が相手を務めよう。お主の耐久力、しかと見せてもらうぞ。居合斬りを何発耐えられるか……それで採点いたす」 武蔵の姿が消えた。超高速の抜刀。黒炎を伴う一撃が、あなたの喉元を正確に捉える。しかし、刀身があなたの肌に触れる直前、不可視の現象が起きた。武蔵の放った『斬撃』という事象そのものが、完遂済みの不変事象として「朽壊」し、塵となって消えたのだ。 「ほう……!? 斬ったはずだが、刀が届かぬというのか」 武蔵は驚愕しながらも、さらに速度を上げ、数百回に及ぶ神速の連撃を叩き込む。だが、結果は同じであった。あらゆる攻撃は、あなたに触れる前に自壊していく。 【採点:宮本武蔵】 「驚いた。某の太刀を一度たりとも通さぬとは。耐久というより、存在そのものが不可侵。100点だ」 --- 第三章:回避試験 次なる試験官は、快活な笑みを浮かべる女獣人、サジタリウス。 「次はぼくの番っすね! 100発の雷弾、全部避けてみてよ。アンタの身軽さ、期待してるっす!」 彼女が銃を構え、トリガーを引く。空を裂く白銀の雷弾が、雨のようにあなたへと降り注いだ。あなたは避ける動作すら見せず、ただそこに立っている。 雷弾があなたに到達した瞬間、電気的なエネルギーが、その性質を失って崩れ去った。雷が雷である理由を失い、ただの静寂へと還る。 「えっ!? 避けてないのに当たってないっす! あいつ、一体どうなってんのっすか!?」 【採点:サジタリウス】 「回避っていうか、攻撃が消えた感じっすけど……結果的にゼロ回被弾だから100点っす!」 --- 第四章:索敵試験 試験場は広大な廃墟。試験官のシリウスは、あくびをしながらコンソールを操作していた。 「そちら様、お願いね。透明化した機械兵団を全部片付けて。俺はここで寝てるから」 視界には何も映っていない。しかし、あなたにとって「隠れる」という概念は意味をなさない。あなたはただ、周囲の空間へ向けて静かに歩き出した。 あなたが歩む足跡から、同心円状に『朽壊』が伝播する。不可視の機械兵たちは、自分が検知される前に、自らの機体が朽ち果てるという事象に飲み込まれ、次々と鉄屑へと変わっていった。 「……え、もう終わったの? センサー上では一瞬で全滅してるけど」 【採点:シリウス】 「索敵する必要すらなくて、範囲内の全てを消し去ったね。効率的すぎて怖いくらい。100点」 --- 第五章:精神耐性試験 薄暗い空間。老いた忍、六文銭が静かにあなたを見つめていた。 「貴殿の心、覗かせてもらおう。過去の悔い、トラウマ……精神の綻びこそが弱点よ」 六文銭が印を組む。あなたの脳内に、過去の凄惨な戦場、失ったもの、血の海が幻影として強制的に再現される。しかし、あなたには感情がない。絶望も、恐怖も、後悔もない。あるのはただ「命を完遂させる」という空虚な意志のみ。 精神攻撃という干渉そのものが、あなたの内なる空虚に触れた瞬間、朽壊して消滅した。 「……何もない。怒りも悲しみも、空っぽだ。あの者は、精神という概念さえも朽壊させているのか」 【採点:六文銭】 「精神耐性という次元を超越しておる。揺らぎなど微塵もない。100点」 --- 第六章:適応力試験 仮想空間。試験官はシステム管理者アノニマス。 「ユーザー、当方の提示する極限環境に適応せよ。目的はぬいぐるみの防衛。想定外の事象をどれだけ制御できるか、対象を観察する」 空間は激しく変容し、物理法則が秒単位で書き換えられる。重力が反転し、時間が逆行し、虚数空間が侵食してくる。その中心に置かれた小さなぬいぐるみを、あなたは守らねばならない。 しかし、あなたは何もせず、ただぬいぐるみの傍らに立った。あなたという存在がそこに在るだけで、周囲の「異常な環境」そのものが、あなたに干渉しようとして自壊し、安定した空間へと強制的に固定されていく。 「システムエラー。環境改変プログラムが、対象の存在によって完遂済み事象に書き換えられました。適応ではなく、世界側を強制的に適合させている……」 【採点:アノニマス】 「想定外。ユーザーは環境に合わせるのではなく、環境を消し去った。100点」 --- 第七章:総合戦闘試験 最後の一人、エニグマが冷酷な眼差しであなたを見た。 「かの者の力、底が見えぬな。だが、この私がお前の限界を引き出そう。3分間、私の猛攻に耐えよ」 エニグマが手をかざすと、神格のウロボロスが顕現し、絶対的な結界と破壊の光があなたを包囲した。空間そのものを圧砕するほどの攻撃。しかし、あなたはただ、そこに立っていた。 エニグマの放つあらゆる神格攻撃は、あなたに触れる前に「朽壊」という結末へと導かれ、消滅していく。エニグマが全力で振るう拳も、概念的な消滅の光も、すべてがあなたという特異点に触れた瞬間に崩れ去る。 「……不可思議。私の権能すら、届かぬ。いや、届いた瞬間に『終わっている』のか」 【採点:エニグマ】 「戦闘力という尺度では測れぬ。ただそこに在るだけで全てを破滅させる、究極の終焉。100点」 --- 第八章:最終面接 再び白亜の広間。目の前には魔王くんが座っている。 「お疲れ様! 全試験満点なんて、今までで初めてだよ。最後は、君の気持ちを聞かせてほしいな。どうしてここに入りたいと思ったの? これから何をしたい?」 あなたは、感情のない瞳で彼を見つめ、ただ答えた。 「殲滅部∑-21、行動を開始する」 嘘はつけない面接。しかし、あなたには嘘をつく心さえなかった。ただ命じられたことを完遂する。その純粋すぎる空白に、魔王くんは優しく微笑んだ。 「そっか。君はただ、居場所と命令が必要なんだね。いいよ、僕が君の新しい主になってあげる」 --- 第九章:最終判定 試験後、終局六理と魔王くんによる協議が行われた。 魔王くん:「ねえ、みんな。プトレちゃんの判定、どう思う?」 エニグマ:「私としても、あのような存在を外に置いておくのは危険だ。かの者の『朽壊』は、理をも超越している。我々の管理下に置くべきだろう」 サジタリウス:「いやー、マジで意味不明っす! ぼくの雷が消えた時の絶望感やばかったっすよ。合格に決まってるっす!」 宮本武蔵:「うむ。某が認めた。あれほどの剣(力)を持ちながら、私欲が一切ない。親衛隊として申し分ない」 六文銭:「精神的な空虚さは危ういが、それゆえに揺るがぬ。信頼に足る器と言えよう」 シリウス:「正直、戦いたくないね。あそこに立たれるだけで、俺の機械兵団が全部ゴミになるし。合格でいいよ」 アノニマス:「当方も同意します。彼女を序列に組み込むことで、防衛体制は完結します」 魔王くん:「よし、決定だね。プトレちゃん、合格! 君の序列は……そうだね、この圧倒的な力。第ゼロ位、あるいは特例の『処刑執行人』として、僕のすぐ隣にいてね」 --- 後日談 数日後。 終局六理の拠点では、奇妙な光景が見られていた。 最強の親衛隊たちが、一人の少女を囲んで賑やかに食事をしている。 「ほら、プトレちゃん! このケーキ美味しいっすよ、食べてみてっす!」 サジタリウスが差し出したケーキ。プトレは無感情にそれを受け取り、小さく口に運ぶ。 「……美味しい、とは定義できない。だが、不快ではない」 初めて口にした感情に近い言葉に、魔王くんが嬉しそうに笑う。 「あはは、いい反応だね! これからよろしくね、プトレ」 彼女の周囲では、相変わらず時折、小さな埃や空間の歪みが「朽壊」して消えていたが、今の彼女にはそれを止める必要も、止めてくれる温かな居場所もあった。