___管理者… ___管理者……… ___私は管理者、私こそが管理者である。 ___私は、息を吐き出す……、、、 「はぁ…………、、、」 一歩を踏み出す、そして地面を踏み締める。爆発的な加速を伴って私の肉体が眼前の敵へと迫りゆく。 ___キッ…! 歩行者の眼前、そこで再び地面を踏み締めたと同時に背中から肩、肩から拳へと加えられた力を"殴る"という極めて横暴で乱暴な暴力行為に際して一気に全てを解き放った。 ___ダァン……! 拳が直撃したかに見えた直前、歩行者の伸びた片腕が私の一撃を被弾寸前で真横に受け流す。行き場を失ったエネルギー、それが歩行者の頬の側を通過して彼女の耳元に壮大な風切り音を轟かせる。その瞬間にもう一方の手、歩行者の余った片腕が構えた拳を握って即座に放たれる。 ………管理者の視界、不可避の速攻が迫り来る。 ___ズバァン……ッッ!!! 「グッ……!?」 頬に被弾、視界がボヤける。管理者の肉体が体勢を保てずに崩れ落ちていく。意識の混乱した脳内、どうにか体勢を立て直そうと地面に伸ばした片腕で地面を跳ねる。後方へ体を捻って一回転、着地と同時に冷や汗を垂らすと少し遠くに離れた歩行者を視界に収める。 ___んっ……? 膝が震えている。ふと自分自身の両膝が笑ってしまい、このままでは上手く立っていられない状態にある事に気づく。 あぁ、そうか……。私の肉体は理解している、この歩行者という存在、彼女には決して勝てないという事実。この先に待ち受ける結末が"敗北の二文字"で塗り潰された現実を嫌でも私は理解していたのだ。苦虫を噛む、そして私は深呼吸と共に眼前へと一歩片足を引いて拳を構えた。 対峙した敵は未だ健在、ならば私の選択肢は最後まで抵抗する事のみである。 ………不意に視界がボヤけた。 ___グラッ…!? 意識が一瞬だけ揺らいだ。私の頭部、その奥に響くのは言い表せない程の激痛、頭がカチ割れたという錯覚すら感じられた痛みが脳みそを激しく叩き割る。 管理者の頭部、黄金に輝いた髪色が更なる光沢を帯びた。 ___視界が再び激しく揺らぐ。 頭を抱えたまま私は数歩ほど後退した。黄金に視界を支配される感覚、黄金が私を染めていくという事実を理解する。 私の意識、それらに意志はなく、自由はなく、自己はない。 ___瞳を閉じた、、、 そして、ゆっくりと目を開ける……。 私の瞳、その色が黄金へと変化した。私の黄金に彩られた瞳、その瞳が目の前に佇む敵を見据えた。 ___黄金とは、呪いだ。 そんな歩行者の言葉を最後に思い出す、私は黄金が支配される。"管理者"の名の下に代替的な意思が私という傀儡を恣意的に行使する。この暗転とした空間に最果ての管理者たる私が問いかける。 「つかぬ事を伺いますが歩行者…、貴女は夢を見ますか…?」 ___その言葉に意志はない。 「んっ?、夢じゃと??」 管理者だった者の視界。その視界、瞳の奥に埋め込まれた虹彩が怪しく輝いた。角膜と水晶体の間にある薄い膜に歩行者の姿が反射する。歩行者が見せる表情は、とても理解が出来ないと言わんばかりの表情、そんな顔でこちらからの視線を見返していた。そんな彼女の反応に対して、私は己の胸に静かに手を当てて、その瞳をゆっくりと閉じていく。 ___その行為に自由はない。 「私は……、毎晩のように夢を見ます。もはや、今この瞬間さえも夢ではないかと疑ってしまう程に鮮明な夢を見るのです。」 閉じた瞳を開く。そして、瞬きをすると、その一瞬ごとに切り取られた"視界"という名のパノラマに歩行者の表情が何枚に重なって映り込む。彼女の内面に浮き上がった感情、それは先程の言葉に対する興味半分、残りの半分は管理者に対する疑念の感情によって飾られていた。 ___その夢に自己はない。 ………管理者は、さらに口を開く。 「___"私"は、死にます。毎晩のように死にます、夢の中で死んでいく"私"を私自身が直視します。それは夢であり現実、これは事実であり私の身に起きてはいない"物語"の総称、それを私は夢と呼びます。」 丸い瞳孔がパカリと大きく広がった、まるで暗闇の中で周囲の光を一心に取り込もうとするように瞳孔が歩行者を見つめる。 しかし、歩行者はその様子を笑う___。 「随分と詩的な表現じゃの?、まさか詩人の才能もあったのか」 そんな風に管理者を揶揄うような笑い声を掻き鳴らす。しかし、管理者の瞳に映っているものは別の事象、手前の暗闇に燃え盛る灼熱の業火の姿である。 ___管理者は呟いた。 「"私"は肺に、大量の灰を吸い込んで死にました。この時は火事でした、"私"はどうにも出来ずに呆気なく死にました。」 一つの焼死体が、管理者の眼下で横たえている。 「"私"は轢き殺されました、この時は交通事故でした。青に変わった横断歩道、それが一瞬のうちに赤く染まりました。」 赤いペンキが視界の直ぐ真下を染め上げる。それを無感情に見つめる愛の瞳、その瞳に鮮やか赤色が反射した。聞こえた悲鳴、ひしゃげた自分自身を傍観する。 ___管理者は語った。 「"私"は……、"私"という存在は幾度も"虫"に喰われました。"私"の肉体、その全てを確かに食べられてしまったのです。最初は背骨、まずは尾骶と仙骨を噛み砕かれました。」 ___バギッ…、メキメキ……ポキッ…。 管理者の耳元、その直ぐ側で軟骨を思いっきり噛み砕いた時のような歯応えなある咀嚼音が聴こえた。 ___管理者は述べた。 「次に"私"は、この腰椎を圧し折られました。それは、とても入念で、あまりにも一瞬の出来事でした。」 管理者は自身の脇腹、その少し下の骨が張った腰あたりに触れる。 ___バキリ…! 気づくと腰から腹部にかけて痛みに貫かれたと錯覚、激痛が走る。腰が砕けて立ち上がれない"私"、そんな"私"を私自身は黙視しているだけである。 「最後に頚椎から胸椎にかけて上から順番に食べられてしまいました。それはそれは、その時の"私"はとても痛かった事でしょう。」 不意に首元に伸びた管理者の指先、その先っぽが首筋に触れた。そして、首筋から始まり徐々にゆっくりと頚椎の上から順番に流れを沿うように降りていく、その指先が静かに皮膚を撫で下ろしていく。首元から次に鎖骨まで到達した、その時点で声帯を噛み潰された"私"は声が出せなくなる。 ___"私"は、思わず吐血した。 更には下部、続く鎖骨から計24本の肋骨が対を成して並ぶ胸部を撫で下ろす。まずは鎖骨から始まる第一胸椎、その次に順番に沿って骨ばからの皮膚の上を静かに滑り降りていく。その道中、その過程で胸部の中心、管理者の心臓が埋め込まれた場所に指先が触れる。すると、"私"の肺が機能を停止した。 ___"私"は、強く胸を押さえて倒れ込んだ。 ___そんな、夢を見た。 ___そうだ、これは夢なのだ。そして、この夢には未だ続きがある。 ゆっくりと指先が静かに落ちていく。第一、二、三、四胸椎と終わりを数えるように管理者の指先が"私"の胸部を撫で下ろしていく。最後の第十二胸椎まで来た時、管理者の指先の動きがピタリと止まる。 ___そして、管理者は言った。 「"虫"は言いました、お腹が空きましたと……」 最後の1番下、腹部の丁度真ん中に位置する第十二胸椎を差していた。その奥、その皮膚の向こうに深く埋まった胃袋が呼びかけてくる。 「"私"は言いました、お腹が空きましたと……」 "私"は食べました、自分自身を食べました。それは極度の飢餓状態、最初に噛みついた手首から滲むような赤黒い血が溢れました。しかし、足りません。けれど、空腹が満たされませんでした。 管理者は、静かに自身の腹部へ両手を当てた。 「"私"は、お腹が空きました……」 管理者は自分自身の腹部を見下ろす。そして、更に強く手首を噛み締めると鮮やかな血飛沫が栓の抜けたボトルワインのように"私"の瞳を強烈に赤く染め上げた。 「"私"は、まだまだ空腹でした。」 足りません、足りません、これでは足りません、これっぽっちでは足りません。 「※/※は言いました、お腹が空きました。」 手首という名の前腕遠位部を食べ尽くし、ズタズタに切れた血管を舐めるように次は橈骨部分に齧り付きました。勿論、食べにくい尺骨も忘れたりなんかしませんよ。肘の前、その前腕近位部で腹ごしらえをしていきましょう。肘を越した尺骨神経溝を啜る時には既に口元が血で溢れて閉まりません、そこで口元に溜まった肉を飲み込もうと"私"は自分自身の腕から顔を離して口に残った物体を咀嚼する。まるで肉切り包丁と化した歯で咀嚼すると前歯の口輪筋では噛み切れない肉体の僅かな切れ端を奥歯へと器用に運び入れていく上唇を動かした小頬骨筋、その真下に位置する大頬骨筋が口角を引き上げて笑みを形成した。すると、どうだろうか……、"私"の唾液を含んだ血液が口内だけでは収まり切らずにボタボタと口元から床に垂れ落ちていく。 ___ふふっ、おいしい……♪ 「私/虫はお腹が空きました、だから……」 管理者の言葉を遮るように伸びた歩行者の手、ほんの目と鼻の先に迫り来る影を目視する。管理者の顔面を流れるように鷲掴んだ。 「ふん……!」 すると、力が込められた歩行者の腕が管理者の頭部を簡単に宙へと浮かせる。そして、急速に落下運動を開始した肉体が地面へと思いっきり叩きつけられる。 ___ドッシャァン……! 管理者の頭頂部、それが地面にメリ込んだ。歩行者は手を離して立ち上がる。そして、管理者へと笑いながら呟いた。 「どうじゃ…!、これで目が覚めたじゃろ?」 ___そんな言葉、しかし…… 眼前に倒れ伏していた筈の管理者の肉体が消えた。まるで霧霜、そして吹き荒れた砂塵のように跡形もなく目の前から消え去ったのだ。まさか、今までの管理者の姿は幻覚か?、それとも…… ___歩行者は呟いた。 「なんじゃ?、今度はかくれんぼなのじゃ?」 そんな呟き、それと同時に歩行者の視線が背後へと反転する。己の背中へと振り向いた瞬間、その視界に管理者の姿を捉えた。繰り出された拳、それは歩行者に当たる射程圏内、その視界の真ん中に映り込んだ拳が歩行者を直撃する。 ___バァアン……ッッ!!! 立ち込める衝撃___、 しかし、歩行者は立っている。 「管理者、わしにそこまでして勝ちたいのか……?」 受け止められた拳、それを掴んでいる歩行者の手。対する管理者、その表情はどこか苦痛に歪んでいた。 ___歩行者は考えた。 「記憶の汚染……いや、この場合は"黄金の侵食"と言ったところじゃな」 ___歩行者の声、管理者は目を見開いた。 その瞬間、管理者の脳内に駆け巡る過去に見た夢の数々、有りもしない実体験が彼女を蝕み、そしてその全てが恐怖と憎しみを糧に管理者に力を与えていく。彼女の金髪が更なる輝きを見せる、歩行者の瞳に眩い黄金が反射する。 「管理者よ、黄金とは呪いじゃ……一時的な力に流されるではないぞ!」 歩行者の声、しかし既に管理者には届かないのである。管理者の瞳、その狂乱に塗れた瞳が嬉々として歩行者を見つめている。 「___管理権限{ 大典 }」 空間が歪む。管理者の肉体から発せられた波動が大気を揺らして歩行者の頬を撫でた。歩行者の視界、その中心に佇んでいた筈の管理者の姿が忽然と消えた。 管理者は駆けている、そして欠けている。もはや何も分からない、栄光も祝福も加護も庇護も幸運も僥倖さえ見えない脳で思考する。今はただ、眩いばかりの光に脳を差し出そうではないか。 管理者の肉体が加速する、音速を遥かに超えた速度で歩行者の周囲を駆け回る。私は、私が、私だから、私だけが…… 管理者の瞳が歩行者へと狙いを定めると音速を遥かに超越した速度で対象へと突き進む。空間に亀裂が入る。しかし、対する歩行者は溜息を溢す。 「はぁ〜……、わしに速さで挑むとは呆れたのじゃ」 歩行者が一歩を踏み出す、そして消え去った。先程に放たれた管理者の一撃、それは無念にも空振りで終わった。管理者は不可解な状況に周囲を見渡す。しかし、歩行者は決して見つからない。すると、管理者の背後で歩行者の声が聞こえた。 「わしは此処じゃよ」 ___バッ…! 管理者は背後へ振り向きざまに極端に姿勢を低く下げた、繰り出された足払いの蹴り一閃。しかし、何もない虚空を掠めて蹴りが空振りする。肝心の歩行者の姿、どこにも見当たらない。この時の管理者は呆気に取られて注意が分散してしまっていた。 ___近道。 歩行者が現れた。管理者は視界の先、見えた時には己のすぐ懐で構えた歩行者の姿だけが見えていた。 ___夜道。 構えられた歩行者の腕、その掌が大気を大きく揺るがせる。放たれた掌底、管理者の腹部に被弾した一撃が敵の肉体を激しく吹き飛ばす。それは刹那にして必然、一瞬にして当然の破壊音を周囲全てに轟かせた。 ___ドォオン……ッ!! 管理者の肉体が遥か彼方に吹き飛んだ、その衝撃で内臓全体がズタボロに破壊されていく。あまりの衝撃に血管を流れる体液が急速に沸騰していく感覚。加えて、全身の骨が軋みを挙げた瞬間、白濁と混じり合った意識が悲鳴を挙げていた。吹き飛ばされていく肉体が徐々に旋回を始めていき、どうにも他へ逃がし切れない衝撃の余波が更なる痛みとなって管理者の肉体を容赦なく破壊していく。その瞬間、管理者は何度も地面を跳ねて全身を打ち付けられた。 ___ガシャンッ……! 見えない次元の壁に激突した感覚、思いっきり背中から衝突したのだ。空間に更なる亀裂が入る、ガラスの砕けたような音が聞こえた。そして、殴り飛ばされた時の勢いはようやく止まったのだ。しかし、それと同時に管理者の息も止まっていた。 ___ピク……! 「カ……ハ…、…ヤ……」 息を吹き返した虫の息、全身に負傷を抱えた肉体の痛みに思わず管理者は両膝をついていた。血が垂れ落ちていく。浅い呼吸、白目を向いた意識が限界を訴えるかのようにクラクラと頭部を揺らす。 ___歩行者は呟いた。 「勝負はもう終わりじゃ、諦めて大人しくするのじゃ」 そんな歩行者の声。しかし、今の管理者には決して届かない。歩行者の瞬きにも満たない時間の狭間、管理者の肉体が忽然と姿を消していた。そして、歩行者の周囲に伝わる表現しがたい殺気の荒波。溜息を漏らすと、歩行者は落ち着きを払って静観する。それこそ正眼し、慧眼し、己の心眼に耳を澄ませたのだ。 「………そこじゃな」 歩行者の視線が一点を見つめる。そして、彼女が一歩を静かに踏み出すと、それと同時に周囲の空間が歪み、次に視界の先で見聞きしたものは管理者の驚いた表情と、自身の握り締めた拳から発せられる爽快なまでの暴力的な快音を響かせた。 ___ダァン……ッ!! 管理者のこめかみ。つまりは耳の上、その髪の生え際にある物を噛むと咀嚼に応じて筋肉が連動する箇所に加えられた歩行者の一撃。それが管理者の耳介を殴り、その奥にある外耳道に伝わる衝撃が鼓膜を破壊する。鼓膜の奥、内耳蝸牛をズタズタに引き裂いた衝撃に管理者の脳内に痛みが走った。 ___ズキッ…! 耳奥で知覚した痛み、ボヤけて輪郭を失った雑音だけが聞こえる。悶えた表情、管理者は一瞬だけ痛みに怯んでみせた。だがしかし、それで立ち止まるだけの防衛本能は今の状態の管理者にはほとんど機能していなかった。 ___ダンッ…! 踏み締めた一歩、爛々とした瞳が目の前の歩行者を凝視する。そして、管理者は大きく歯を剥き出して笑った。拳を握り、打ち出された拳が躊躇なく歩行者を襲う。それは単純にして愚直、ただ一点のみを破壊する脅威的な一撃である。管理者の拳が、その眼前に見える歩行者へと雄叫びを挙げた。 「歩行者___ッ!!」 管理者の拳が迫り来る。しかし、その拳は歩行者の肉体を呆気なくすり抜けた。狙いを大きく外れて歩行者の直ぐ真横、その頬の真横にある空間を無意味に殴ってみせたのである。 ___スカッ…! 管理者の呆気に取られた表情。歩行者は一歩も動いてなどいない。ただの空振り、管理者はそんな理解が出来ない状況と感覚に足元をすくわれ、大きくバランスを崩して地面へと派手に転倒した。 ___ズサッ…! 倒れた肉体、黄金の気配が霧散する。管理者の瞳から黄金が溶け落ちた。先程まで黄金に輝いていた髪色も元の白髪へと戻っている。管理者は目を覚ます。そして、横たわる己の肉体を知覚する。先程に目覚めたばかりの意識、管理者は未だこの状況を飲み込めてなどいなかった。半分パニックになりながらも立ち上がろうと両腕に力を込める。しかし、実際には全く立ち上がれなかった。管理者の傷ついた肉体では起き上がる事はできず、再び地面に倒れ込む。 ___何故…??、上手く体が動かせない? 痛む肉体、まともに指先すら動かせない状況。 「管理者、今宵の死闘はこれで終わりとするのじゃ」 歩行者の声。ふざけないで下さい!、私はまだ___! 「管理者、己の置かれた状況を見るのじゃ」 歩行者は、思いっきり片足を振りかぶる。 ___メキャ……! 歩行者の蹴りが脇腹を穿つ。その足先で肋骨を簡単に蹴り砕かれてしまった。あまりの痛みに管理者は呻く。 「ぐっ……!?」 今ので肋骨が何本か折れていた。折れた肋骨、その幾本かが肺に深く突き刺さる。肺を突き破った痛み、体外へと飛び出した肋骨が胸部から顔を出していた。滴った血が地面に垂れた。 「お主の肉体はその現状を未だ理解できておらぬ。だから、ちゃんと自分自身の置かれた状況を己の目で確かめ、そして早く理解するのじゃ」 しかし、管理者は未だに諦めてはいなかった。 私は、まだ戦えr___! ___バキッ……!? 左足を一蹴りで圧し折られてしまった、痛みを発する左足から伝わった痛みに私は苦悶する。開け放たれた口元から痛みによって唾液が溢れた。次の瞬間、私は声にならない叫びを挙げていた。 「ア"ァァァァァァァァ"ア"______ッ!?」 唾液を周囲に散らし、必死に煩雑な叫びを挙げて己の折れた脚部に手を伸ばす。本来とは逆方向へ折れ曲がった左脚、それを己の視界で認識するかどうかの絶妙なタイミング、そんな瞬間に管理者の顎先に炸裂した歩行者の蹴り一閃。 ___ボガッ…! 「グフッ………、うっ……」 仰け反った視界、先程に何が起きたか理解の出来ない衝撃に大きく天を見上げる。真後ろに頭部からそのまま倒れ込んだ管理者。その鼻先からは血が垂れており、先程に顎先から伝わった衝撃に彼女の鼻の粘膜を傷つけ、奥にある血管を破裂させたのだ。管理者は鼻血を流していた、管理者は痛みに抗いながら顔を上げる。そして、顔を上げたと同時に垂れた鼻血が管理者の着用する衣服に染み込み、その周囲に赤黒い水溜りを形成していく。 ___ふいに歩行者と視線が交わった。 「管理者、敗けを認めるのじゃ」 「だ、誰がそんな事を……」 ___ドガッ…! 管理者の片頬を穿った歩行者の蹴り。辺りに血が大きく跳ねた、今の一撃で切れた口元から盛大に血流が垂れ落ちる。荒い息遣い、地面を赤く染め上げる。 「管理者、降参するのじゃ」 歩行者の声、それは低く沈み込むような重たい声色であった。管理者の瞳、震える視線が歩行者と再び搗ち合った。震えた肺が上手く呼吸を繰り返せない。段々と早まる心臓部、そこには色を増して刻まれていく"恐怖"という二文字があったのである。 「ひっ……」 管理者は恐怖する。怖かった、恐かった、怕かった。目の前に突き付けられた"理不尽"という一つしかない選択肢。その逃れる事が出来ない恐怖に己の四肢を激しく震わせた。表情を強張らせ、己の感情を押し殺してしまったのだ。 ___しかし、 これは確かに理不尽だ、この状況は間違いなく理不尽である。選択の余地などない理不尽に、私は選択を迫られているのである。 管理者は己の頭で思考する。 ___理不尽……? ___理不尽だと……?? ___本当に理不尽なのか……??? 大きく呼吸する、肋骨が飛び出た肺で呼吸する。痛みに口元を歪めて笑ってみせた。そして、己の思考で咀嚼する。己に突き出された理不尽を咀嚼したのである。私はこの感覚を知っている、この感覚を確かに知っているのである。 ___ピキリ…! 私は、己の埒外を知っている。己の全てが何者かの掌で踊らされている。そんな認識、そんな自分自身がただの傀儡風情に過ぎない存在である事実を知っていたのだ。私はそんな理不尽を理解し、享受し、振る舞うことの愚かさを私は知っていた、私は確かに知っている筈なのだ。 ___だからこそ…! ___私は……、、、 ___私自身は……、、、 ___管理者たる私は……! 貴女は誰だ…?、そう己自身に問いたのだ。 不確かな記憶、されど確かに己は現存する最後の管理者、唯一無二の管理塔、結末の管理人。 その管理者たる私は、最果ての向こうに問いかける。 ___私は誰だ? 私は管理者だ。 ___己は誰だ? 私は管理者、私こそが管理者だ……! ___ならば管理者!、貴様に今更何が出来るッ! 私は笑う。私は告げよう。私は述べる。私は呟き、私が語る。私は話し、私だけが物語る。私は誓う、私こそが高らかに宣言しよう。 ___グルン…! 視界が反転する、脳が回転する、意識が裏返る。 私が反転する、そんな感覚。世界が変わる、そんな瞬間。常識が覆る、そんな展開。私が回る、世界が廻る、全てが周っていく姿を私という存在が繰り返していく。 ___この理不尽を、心ゆくまで謳歌しよう! そして、勝手に口先が動き、身勝手に唇を躍動させた。 ___私は理不尽を押し付ける…っ! 「貴女に理不尽を押し付ける……ッッ!!」 それは眼前に立ちはだかる歩行者に向けて発した言葉である。私はその言葉の意味を知っていた、そんな理不尽の意義を知っていた。 私は微かに笑う。それら全ての愚かな幕引きを過去の"私"は確かに知っている。 ___だからこそ、私は告げよう。 私は立ち上がる、その折れた筈の脚部で立ち上がる。私は呟いた、その赤く腫らした頬で呟いた。折れた肋骨、されど伸びた指先が歩行者を指し示す。 私は立ち上がった、折れた脚部が癒着する感覚。私は笑った、大きく頬を釣り上げて笑った。突き出した肋骨、それらを掴んで躊躇なく肉体から引き抜いて地面へと叩き捨てた。 血に塗れた手、その指先が歩行者を差していた。 ___私は……、私は…! 「私は管理者!、私だけが……私だから、私だからこそ!、最果ての管理人!、その行く末を知る管理者です!」 ___だからこそ……! 「私は貴女をぶっ倒す!、そして前へと進み続ける義務がある!」 ___だからこそ、私には恣意的にして強制的にして圧倒的なまでの力を振るう"権利"があるのだ。 先程に発した言葉、その瞳には確固たる意思を、その肉体には溢れんばかりの闘志を秘めていた。管理者の肉体、死闘に踊る。 歩行者の眼前、そこには最果てを纏いし管理者の姿があった。 ___死闘の果てに、何を得る? ならば私は、この馬鹿げだ死闘に決着という名の最果てを齎そう。 私は理不尽を謳歌する、その全てを私の脳が謳歌する。決着の時は近い、されど最果ての地は程遠い。 死闘の果てに___、#######。 最果ての管理者、今まさに踏み出したのである。 https://ai-battler.com/character/34976558-e1da-4a57-8212-d04d27e5f64f