「は〜い撮りますよ、笑って〜」 ___パシャリ……! 鳴り響いたシャッター音、カメラの先には女の子が椅子に座って微笑んでいた。それはどこか儚げな雰囲気を纏った幼女である。 「OKありがと〜、もう戻って大丈夫だよー」 カメラマンの言葉に女の子は一礼して両親の下へと駆けていく。これは毎年恒例のイベント、誕生日には我が子の成長を写真におさめるのだ、これも今年で4枚目となる。 「愛〜!」 母に抱きつかれた、思わず笑みが溢れる。その様子を微笑ましく見守る父がいた、視線が合うと父はこう言った。 「さあ、おいで…愛、パパにもハグしておくれ」 「ふふっ」 ___ギュッ! 父に抱きついた、温かい抱擁に包まれる。 しかし___、 「……?、どうしたんだ愛、誰か探しているのかい?」 無意識に誰かを探していた、私と一緒に過ごした筈の人を探していた。だけど、いつも側には探している人物は見当たらないのだ。忘れたくない存在、忘れてしまった人物をいつも私は探しているのである。 でも___、 「愛、じゃあパパ達と一緒にパーティーをしよう」 「ぱーてぃ?」 「ああ、今日は愛が生まれた大切な日だからね」 そう言って私は手を引かれる、振り返るがそこには誰もいない。 「ばいばい……」 私は、何もない空間に向かって手を振った。いつかまた、彼女に会えると願って手を振ったのだ。 ある日、母と出かけた。 日差しが強かった事を覚えている、母に手を引かれた。 しかし、よく覚えていない___。 「ふぇ……??」 母がいない、先程まで一緒に歩いていた筈なのだ。周りには誰もいない、目の前には赤の横断歩道、私は信号を見つめて色が変わるのを待った。 視界の端、車が通り過ぎようとしていた。不意にそちらの方を振り向くと___、 ___ドンッ! 背中を押された、それは強く押された。私は転ぶように前へと飛び出す、視界の端では車が私の直線上を通過しようと迫り来ていた。 咄嗟の事、悲鳴は出なかった。叫ぶ余裕なんてなかった、やけに遅い時間軸の上で私は迫り来る車のフロント部分に目を見開いて表情を引き攣らせる。 ___グイッ! 間一髪、誰かに背後から強く手を引かれる。歩道に投げ出される形で私は尻餅をついた、風を切り裂いて先程の車が目の前を通過した事を両目でたしかに視認した。 「大丈夫…?」 誰かの声、ようやく理解が追いついたのか私は急に怖くなって泣き出していた。助けてくれた人は声からして女性である、泣いている私に目線を合わせように屈むと抱きしめてくれた。それは優しかった、とても温かったのだ。 「大丈夫…、もう大丈夫だから……ね?」 震えが止まらない。死との接触、この経験は初めてではない。私は何故だか分からないが、そう思った。決して慣れない感覚、決して忘れてはならない古い記憶が私の脳裏を強く叩く。 「こわ……かった、です。」 「えぇ、そうね…」 ようやく喉を通った言葉に女性はそう優しく返した、少しだけ落ち着くことができた。改めて恩人の顔を見入る、とても綺麗な人であった。その当時は分からなかったが、これが儚いという事なのだと理解できたのはかなり後のことであった。 「じゃあ、私はもう行くね」 そう女性は微笑むと立ち上がる、その時の儚く笑った表情を今でも忘れた事はない。手を振っていた、それに対して私も手を振り返した。 「もうお母さんと逸れちゃダメだよ、愛」 「………?」 私、名前を教えたかな……?? そんな疑問が愛の思考に木霊する、女性はいつの間にか姿は見えなくなっていた。代わりに母に抱きしめられていた、ひどく震えていた。 私は何も覚えてはいなかった、どうして母と逸れてしまったのか。 私は何も分からなかった、あの時……私の背を突き飛ばしたのは誰なのか分からなかった。 しかし、これだけは覚えている、私を助けてくれた女性の笑みを覚えている。 だから、私は知っている、きっと何処かでまた再会できるのだろう、という事を直感的に悟ったのであった。 https://ai-battler.com/character/675619cc-d5be-40ea-aeaa-90c0f547ae3e