___ヒョイ… 視界の外、そこから伸びた腕に持っていた書類を奪われてしまった。最初に俺は母さんか?、と思って顔を上げてみたが、どうやら違うらしい。 「あんたは…、一体………??」 俺の口元から、そんな疑問が反射的に飛び出した。 「……………。」 書類に目を通すその瞳に宿るは暗い沈黙、一言も喋らない。その胸部まで達した白髪に、その黒いコートを身に纏った姿は間違いなく女性のものである。 「えーと…、こちらのお兄さんのご家族の方でよろしいでしょうか?」 長い沈黙を破るように、苦笑いを浮かべた看護師が女性に話しかける。 「……………。」 だがしかし、それにも再び無反応である。 「あの…、もしもーし?、私の声が聞こえていますか??」 看護師が確かめるように手を軽く振って女性へと近づいていく。そして、ようやく気づいたのか遅れて返事が返ってくる。 「ん……?、私に何か用か?」 今更になって呼びかけに気づいたらしく、その瞳には疑問が宿っていた。 「あ、えと……山田詩さんのご家族の方でよろしいでしょうか?」 改めての問いかけ、すると女性は考え込むように自身の顎先に手指を触れさせる。 「んっ?、山田詩………」 初めて聞いたとばかりの反応、看護師は俺にこっそり耳打ちする。 ___ボソ… 「こちらの方は…、ご家族の方でよろしいですか?、じゃないなら近くの警備員をお呼びしますが……」 ___いや、俺にも何がどうなってるのか理解が追いつかない状況なんだが…… すると、ふいに女性は顔を上げて呟いた。 「あぁ、すまない…少し考え事をしていた、私はあの子の姉で間違いない。そして、そこの青年は私の弟だ」 ___なぬ…ッ!?、姉だと……! 「あっ、詩さんのお姉さんだったんですね。よかったぁ」 そう接客スマイルを浮かべる看護師の瞳が、不意に俺の方をチラッと見てくる。たぶん、俺に家族なのか確認しているのだろう。 「あ、まぁ……俺の姉です、ちょっと普段から変わってる所はありますが…」 この状況について未だ理解は出来ず、そして突如として現れた"俺の姉"と名乗る人物。しかし、少しだけ分かる事もあった、それはまだ何となくではあるが、今回はそれを信じてみる事にしたのだ。 ___看護師の声…… 「では、私はこれで失礼するけど、何かあったら遠慮なく聞きに来てちょうだいね」 そう言って、手を振ってこの場を去っていく看護師の背を俺は見送った。そして、この場所に残されたのは俺と、もう一人…… 「質問がある、あんたは管理塔のメンバーか?」 最初に聞いておかなければならない疑問、俺の視線が目の前の人物に集約される。 「あぁ、そうだ。私は"否定者"、そして私もお前に聞いておきたい事がある……」 否定者の手から、持っていた書類がバラバラと落ちていく。そして、俺へと距離を詰めて、その手は俺の胸ぐらを掴んだ。 ___否定者の声、それは怒気を孕んだ言葉で必要以上に声を挙げる。 「打倒者に何が起きた___!、言えッ!」 掴まれた襟元、あまりの力に引っ張られ、俺は思わず前のめりに引き寄せられる。先程までの"否定者"の無表情とは一転して、その目には怒気を、その表情には"容赦"という二文字が消えていた。 「ま、待て……、まずは落ち着k…」 否定者の手に力がこもり、俺を近くの壁まで押し上げる。そのまま俺は背中から壁に押し付けられ、更には首元が強烈に締め上げられる。 「もう一度だけ聞く、打倒者に何があった……!」 ___グググッ…! 「わ、分かったから!、全部話すから落ち着いてくれ!」 ___ここは誰が見聞きしているか分からない、ひとまずは場所を変える事にしよう。 ___ピッ 自販機のボタンが押された瞬間、少し遅れて該当する商品が音を立てて素早く落ちてくる。 ___ガコン…! それを取り出す夜空の下、俺は近くの病院の外に設置されているベンチの上で、冷えた缶ジュースを一思いに指先でプルタブを開く。 ___カシュ…! 俺は、それをゴクゴクと飲み干していく。味はオレンジだ、人工甘味料の甘ったるさが俺の舌先に伝わり、微かな酸味を残して喉奥へと消えていく。 ___チラッ ベンチに座った俺に反して、否定者は俺を警戒してなのか、少し離れた位置で壁に身をもたれかけている。 ___俺は、口を開いた。 「それで……、打倒者は俺を助けて、そのあとは今の状況に至ったわけだ。だけど、俺も自分の身に起きた出来事を詳しくは覚えていなくてよ、大半は打倒者から教えてもらった情報しか知らないんだ。」 そうして話を止める、そして……、 ___否定者は、考える…。 「打倒者が、お前を……?」 そんな納得していない目で、俺を見る。 「なんだよ、俺の知ってる事は今ので全部話したぞ?」 ___その言葉に、否定者は否定を返す。 「いや、何でもない…。ただ、今の私には……飲み込めない事ばかりだ…。」 少し下に俯いた視線、否定者は溜息を漏らしていた。 「はぁ………、、、、」 否定者の白髪が急に吹いた風に揺らされる、その表情はとても悲しそうである。 ……なんか管理塔って組織、初めて聞いた時の第一印象だと世界を裏から支配する秘密結社みたいな組織を想像していたのだが、その実情は意外と人情味あふれる組織なのかもしれない。 ___俺は、そう思った。 「それは違う……。」 ___否定者は、それを否定する。 「私達は、お前が思っているような世界の"支配者"でもなければ、仲間思いな"仲良しグループ"でもない。今の私に生じたこの感情は、打倒者に対する個人的なものでしかない。」 そう言って、否定者は己の胸に手を当てる。 「それに、まだ……打倒者を助けられない訳ではない。そして、手段が無い訳でも、私は既に諦めている訳でもない。お前は、どうする…?」 否定者の瞳が、俺を見つめる。 「それは、どういう意味だよ……?」 そんな俺の返事に、否定者は微笑みを返した。 「付いてこい、私を打倒者の病室まで案内してくれ」 そう言って、もたれた壁から身を上げて、自身のコートに付いた汚れをパパパっと手ではたき落としていく否定者。そして、俺に振り向くと笑ってみせた。 「ふふっ、よかった…。まだお前に、打倒者を助ける意思があって」 ___えっ……? いや、なんだか俺の心を覗かれたような違和感と同時に、否定者はそう言って俺に背を向けた。向かうは打倒者、やるべき事は救う事、求める結果は成功のみだ。 ___死闘の果てに、何を得る? ならば俺は、その問いの答えに眩いばかりのハッピーエンドを強く希望しておく事にしよう。 ___死闘の果てに、_/@g_@agGv https://ai-battler.com/character/faff7be5-8771-434b-ba99-8267ceb8bac4