「はぁ"っ……??」 "膝元 暴羅(ひざもと あばら)"は分からない。 ___目の前で何が起きたか分からなかった。 ___己の身に何が起きたのかを理解する事が出来なかったのだ。 「うち……、確かさっきまで…どこか儚げな美少女を追ってたよな?」 真夜中の屋外、片腹にはヘルメットを抱え、もう一方の手はバイクのハンドルを握ってエンジンを蒸していた。まるで、先程までの出来事が嘘のようである。 「…………??」 ハンドルを握る、その手を恐る恐る見下ろした。確かにこの腕は先程まで脱臼し、そして痛みで動かす事すらままならなかった筈だ。それがどうだ?、まるで狐に摘まれた白昼夢のように真夜中の月下にいるのは己のみ。そして、肩は無事に繋がっていたのである。 「んぅ………?」 先程までを振り返り、最後の場面を思い出す。たしか、謎の少女にフウタローの居場所を聞かれたが、当然うちに答える気は無かった。そして、それを察してか、不意に向こうから少女がおもむろに接近を始め、何かの言葉と共に脱臼した肩を強く掴まれた瞬間までは、どうにか覚えている。 しかし、その記憶は今尚も朧げになりつつあり、まるで先程までの全てが嘘であった、あたかも以上が己の妄想の中で繰り広げた与太話であったとでも言いたげに、私の中で渦巻く記憶と実感の結び目が大きく乖離していた。 「くそっ……、何がどうなってやがる…!」 己の額に触れた瞬間に眉間に深いシワが寄っているのを自覚した、あれは一体何だったのだ?、アイツは一体全体どういう馬鹿げた存在なんだ?、己の中の疑問は決して絶えない。今までに修羅場に修羅場を重ねて己一人で乗り越えてきた、自分自身にも一端の強者としての"自信"があり、自覚があった筈だ。それがどうだ、吹き出した自身の汗、それは冷や汗だ。あの少女を殴れなかった事を悔やむのではなく、どこか心の隅であの少女と戦わなかった事を安堵し、心無しにも"良かった"と感じている自分に反吐が出る、そして歯を食いしばる。 ___ギリッ…! そして、乗っていたバイクから降り立ち、抱えていたヘルメットを地面に投げ捨てた。己の顔に掛けた眼鏡を外して特攻服のポケットへと忍ばせる、己は拳を握り締めた。 「歯ぁ、もっと食い縛れよ」 己に対して告げた、これから起こりうる事柄に向けて告げたのだ。己の拳が、自分自身の頬骨を穿った。 ___ドガッ……! 片方の頬に被弾した一撃、己のタイミングで殴ったにも関わらず頬に伝わる衝撃に視線が上を向き、視界が思わず白濁を帯びる。頬骨から頭蓋骨、頭蓋の天辺から脳の頭頂葉、そして側頭葉を貫き伝わった衝撃が脳幹と小脳の二箇所に振動という大ダメージを与えた。 脳が震える、いわゆる脳震盪の症状、一種の意識障害を引き起こして己の肉体が転倒を始める感覚に襲われる。真下へと向かう目線の先にコンクリで固められた地面が見えた、それは時間が停止したかのように遠く離れた錯覚が感じられる。しかし、実際は今もなお己の肉体は転倒を継続している、己の脳に問いかける。 ___うちは怖いのか? ___あの少女が怖いのか? ___うちの心は、敗北を認めたのか? ___うちでは決して勝てないと思ったか? ___………。 ___…………。 ___……………、、、 ………否ッッ!!? ___ダンッ…! 倒れかけた肉体、硬いコンクリの地面に顔面から転ぶ寸前に踏み耐えた足腰。その両脚は恐怖を否定する、その心はあの少女を"ぶっ倒せ"と己を鼓舞している、その声は高らかに夜空へ向かって心情を吐露していた。 「覚えてやがれ!、コンチキショーッ!!」 ヤンキー少女の叫び、夜空を覆った。 ___ヨシ! 「あー、なんか叫んだらスッキリしたな」 鼻から深呼吸、その全てを肺に溜め込むと口から一気に吐き出した。 「うっし、今日は帰るか…!」 どこか儚げな美少女には逃げられるは、新たに現れた謎の少女とは因縁ができるは、今日という散々な真夜中を過ごしてきたが、こういう日は『寝てたらこれ以上は悪くはならない…!』って昔からジイさんが言ってたからな、うちは寝るぞ! そうして、地面に投げ捨てたヘルメットを拾い上げては頭に被り、自身の所有するバイトへと颯爽と跨った。 ___ふと、疑問がよぎる。 「ってか、何であの童貞野郎の居場所を聞いたんだ?」 少女の問いかけを思い出した、あの少女とフウタローの関係性はなんだ?、まさかフウタローの妹か? いやいや、あの童貞に妹がいる訳がないな、どう見たって一人っ子だろ!、それに童貞野郎がどうなろうと、うちには関係がない事だしな。 ___って事で、気に留めない事にした。 そしてバイクを走らせる、それは猛スピード。見事なコーナーリングを決めて更なる加速を遂げたうちに恐いものなんてない、そのまま直線ストレートで車道を爆走するぜ! と、思っていたのだか……、、、 「なっ___ッ!?」 ___キキキ……ッッ!!! ブレーキの踏まれたバイクが凄まじい物音を立てて車道を滑走する、視界に見えた物体を避けようと急ハンドルを切って回避する。あわや横転の危機に瀕してハンドルを右往左往させるが、どうにか無事にバイクを停車する事ができた。 そんな事よりも………っ!? ___バッ…! 過ぎ去った背後を振り向く。確かに己は見た、この目で確かに目撃し、目視し、絶句したのだ。 「どこか…、儚げな美少女……!」 車道の真ん中、先程に己が焼き残したブレーキ痕の直ぐ真横、そこに血を流した状態で"どこか儚げな美少女"が倒れていたのであった。 「嘘……だろ…。」 "暴羅(あばら)"の声、夜風に流され、静かに押し消されていくばかりだ。 https://ai-battler.com/character/0ac9be7f-e687-46de-9bc9-e33a354f5b8f