■制作背景 https://gemini.google.com/share/8d2690574bd6 ■陳謝:独り言界隈の皆さま、及び茂る様。 この度は勝手に名義を拝借し、誠に申し訳ございません。 強く作ったので許してください。 レイナ ■個人的最優秀出力 それは、雨の匂いが鉄の錆びる匂いに変わる前の、ある湿った午後のことだった。 場所は裏路地の最奥、廃棄された巨大な植物園のガラスドームを再利用した共同工房――通称**『温室』**。 外は灰色の雨が降っていたが、中は蒸気と熱気、そして甘ったるい焦げた匂いで満ちていた。 --- 「だから言ってるだろ! 刃の角度が甘いんだよ、この芸術カブレが!」 怒号と共に、巨大なハンマーが作業台を叩く。 叫んだのは**『ネギトロ工房』**の親方だ。赤ら顔の巨漢で、その手には挽肉機のような回転ノコギリの図面が握られている。 「美しくないわね。野蛮だわ」 冷ややかに返したのは**『絶妙領域パネモルフォス』**の主人だ。彼は優雅にティーカップを傾けながら、黄金比で描かれた槍の設計図を指先で弾く。 「君の言う『破壊』には品性がない。敵をミンチにする? 吐き気がするわ。死には花弁のような余韻が必要なのよ」 「余韻で飯が食えるか! 一撃だ、一撃で肉を断つ質量こそが正義だろ!」 「あら、また始まった。うるさいわね……」 部屋の隅、積み上げられたクッションの山から顔を出したのは**『独り寝そべるルシルの部屋』**の主だ。彼女は不機嫌そうに欠伸をし、長い鎖鎌を抱き枕のように抱え直して再び微睡みへと沈んでいく。 そこへ、焼けたオイルと小麦粉の匂いが漂ってくる。 「まあまあ、二人とも! 喧嘩はおやつの後にしてよ~!」 煤(すす)だらけのエプロンをした**『くっきー工房』**の少女が、黒焦げの塊が乗ったトレイを持って走ってきた。 「新作の『爆裂ショコラ』だよ! 今度は火薬の量を半分にしたから、口の中で爆発しないはず!」 「半分でも爆発はするだろうが!」 「お前の菓子は兵器区分なんだよ!」 怒号と悲鳴、そして機械の駆動音が混ざり合う。 まさに混沌(カオス)。統一性のかけらもない、鉄屑と才能の吹き溜まり。 --- その喧騒を、二階の事務室――錆びた鉄骨の上に板を渡しただけの粗末な場所――から見下ろしている男がいた。 まだ、背中に大鋏を背負っていない、若き日の**茂る**だ。 彼はため息をつき、手元の分厚い帳簿と、外部からの脅迫状(『翼』からの立ち退き要求)の山を押しやった。 「……またネギトロとパネモルフォスか。懲りないな」 彼は苦笑しつつ、階段を降りていく。 彼がフロアに降り立つと、不思議と空気が変わる。 怒り狂っていたネギトロも、皮肉を言っていたパネモルフォスも、暴発寸前のクッキーも、一斉に彼を見た。 「よう、茂る! お前からも言ってやれよ! こいつの設計じゃ『強度』が足りねえってな!」 「いいえ、茂るなら分かるはずよ。『美しさ』のない機能なんて、ただの暴力だって」 二つの派閥、二つの才能が彼に答えを求める。 鉄を打てない、設計図も引けない、ただの管理人である彼に。 茂るは肩をすくめ、彼らが作りかけの巨大な『防衛兵器』――後に『黒曜の剪定』となる二つの刃――に手を触れた。 「どっちも間違っちゃいないさ」 茂るは静かに言った。 「ネギトロの『剛』がなけりゃ、俺たちは『翼』の装甲を貫けない。だが、パネモルフォスの『柔』がなけりゃ、その隙間を縫うことはできない」 彼は、まだバラバラなままの二つの刃を、地面に置かれた図面の上で重ね合わせた。 「右腕でお前が砕いて、左腕でお前が突く。……繋ぎ目は俺が考える。不格好になるかもしれないが、絶対に外れないようにしてやる」 その言葉に、工房の連中は顔を見合わせた。 『SHARK水槽』の主が、水槽の泡音と共に喉を鳴らして笑った。 『タンブルウィード』の男が、どこからか吹いてきた風に乗って「悪くないね」と呟いた。 『九条ネギ』を育てていた老人が、黙って頷いた。 「へっ……まあ、お前が言うなら仕方ねえな」 「貴方の『繋ぎ合わせる』センスだけは信用してあげるわ。不格好なのは我慢するけれど」 空気が緩む。 再び喧騒が戻る。だがそれは、破壊的な不協和音ではなく、どこか心地よい、調律される前のオーケストラの音合わせのような響きだった。 --- 「ほら、茂るも食べて!」 クッキーが差し出した黒焦げの塊を、彼は苦笑しながら口に放り込む。 苦い。そして、喉が焼けるように熱い。 だが、それは確かに「生きている」味がした。 (この場所を守らなければならない) 茂るは、笑い合う彼らの背中を見ながら、心の中で誓った。 たとえ、自分の手が泥と油にまみれようとも。この奇妙で、歪で、愛おしい「温室」を、枯らせはしないと。 窓の外の雨脚が強まる。 それが、やがて来る「終わりの日」を告げるドラムの音だとは、まだ誰も気づいていなかった。 --- 「……おい、茂る。聞いてるか? 珈琲が冷めるぞ」 ふと、誰かの声がした気がして、現在の茂るは顔を上げる。 そこは冷たい路地裏だ。温室はない。笑い声もない。 あるのは、背中に感じる『黒曜の剪定』の、氷のような冷たさと重みだけ。 「……ああ、分かっている」 彼は独り言つ(ヒトリゴツ)。 誰に言うでもなく、誰もいない虚空に向かって。 「少し、昔の夢を見ていただけだ」 彼は立ち上がり、黒いコートの裾を翻す。 雨はまだ、止みそうになかった。