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どこか儚げな美少女 Ver34

 ___加担者、それは"協力者"にして"加害者"にして事の発端の"提案者"だ。  門は既に開かれた、次に訪れるは誰も救えぬ橋の上、被害者のように泣き喚く加害者の姿がそこにはあった。  〇〇者の橋、未だに訪れぬ者を待つばかり……  質問なんだが、皆は使ってる枕が普段と変わると寝付きが悪くなるタイプ?、俺は結構気にする方なんどけど、今回の枕に関してはかなり寝心地が良くてさ。  なんというか、フワフワ?、モチモチ…??、いや……むしろムチムチで肉厚な枕って感じだな?  ……というか、なんか温かい?、まるで人肌に触れているみたいな触り心地でめちゃくちゃ最高なんだよ。  ……枕に顔をうずめる。  ___ムニュ……!  「フウシャン、見かけによらずスケベさんアル」  んっ?、桃(タオ)の上擦った声が聞こえた気がする。しかし……俺はまだ眠い、という事で寝相を変えようと伸ばした両腕で枕に触れる。  「ひゃっ!、フウシャン!、そこはダメだアルよ!」  なんだよ桃?、さっきからずっと慌てて……??  ___俺は、おもむろに眠い目を開けた。  ___パチクリ…  「………へっ??」  知らない天井………、だと思ったら誰かの乳袋のせいで天井が見えない…!というか、胸デッカ!?  「フウシャン、ようやく起きたアルか?」  胸越しに顔を覗かせた桃が俺を見下ろす。そして俺は気づいた、これはただの枕じゃねぇ!、桃の膝枕だ!?  ___いやいやいや、これはきっと夢だろう。  という事で俺は静かに瞳を閉じた、そうすれば次に目覚める時は自室のベッドの上に違いない。  「フウシャン、もう起きるネ!」  今回の夢、やけにリアルだな。ずっと体を揺すられている夢だ。  「もー、ならば受けるがよろし!、中華屋"白白(ぱいぱい)"の秘奥義、目覚めのパイパイ攻撃アル!」  豊かに実りし胸部、それら禁断の果実が俺を窒息死させようと顔にのし掛かる。いや待て!、死ぬ死ぬ死ぬ!、あっ…でも、これはこれで悪くないかも………  「むっ、意外と起きないアル。それじゃあ、もっとサービスするネ」  桃の更なる荷重、もとい幸福……あっ、ちょっと待って!、そろそろ本当にヤバいかも!?  息が……、できない……!?  ___ガバッ…!?  酸欠気味に飛び起きたフウタロー、どうやら店の床に寝かせられていたらしい。おもむろに俺が振り返ると、床に座ってる桃の姿があった。そして、今しがた俺の反応がツボに嵌ったのか笑いが止められず俺の顔を見て爆笑していた。  「アハハ……!、ビックリしすぎネ、そんなに私のおっぱいが良かったアルか?」  華奢な両手指で自身の大きな胸を揺らしてみせる桃、しかし俺は惑わされないぞ!  「ま……、まぁまぁだったかな」  「フウシャン、嘘は良くないアル!、そう言っている割に顔が真っ赤ネ、本当はまんざらでもなかった表情ネ、だったら私に感謝するのがよろし!」  桃からの指摘、たしかに感謝は人としての礼儀だよな……!、俺は心の中で一連の出来事に対してありがとうございましたッ!、と感謝の言葉を述べつつ、されど己の小さき尊厳を守る為、さりげなく話題を変える事にした。  「というか桃、なんか酒臭くない??」  鼻先を刺激するは高濃度のアルコール臭。その流れを辿ると行きつく先は桃の赤ら顔、つい先程までは色々とありすぎて気づけなかったが、今なら分かる。何が面白いのか完全にお酒に呑まれて笑っている桃の姿、なるほどコイツって酔うと笑い上戸になるのか……。  「ってか、店長とあの不良少女の喧嘩はどうなったんだよ?」  桃に聞く、すると笑いの止まらない指先を一点に向けた。指し示された方向を向くと店の奥、厨房で誰かが酒を飲み明かす音が聞こえる。  ___ダン!  「プハー!、この瞬間のために労働があるってもんよ」  豪快な飲みっぷり、店長の"玥(ユェ)"さんと、もう一人は……  「酒だ!、もっと酒を持ってきな!」  不良少女、なんでお前もいるんだよ………。  というか、どういう状況……??  飲んだくれが二人、いや…桃を含めて三人か  んっ?、というか不良少女!、お前って見た目的に未成年だよな??、もしかして俺より年上だったりする?  色々と考えが巡る中、仕方なく考える事を諦めて店の倉庫から酒瓶を何本か持ち寄った。そして、厨房の床に散乱する空っぽに飲み干された空き瓶を両腕いっぱいに抱きかかえて、それら全てを拾い上げては店裏の回収箱に一本ごとに綺麗に並べておいた。  ___店内に戻る、第一声……  「おい童貞!」  不良少女の声、俺はムッ…とした表情で言い返す。  「俺はフウタロー!、ちゃんと親から貰った山田風太郎って大切な名前があるんだよ!」  「あー?、フウタロー…?」  酒の回った思考、不良少女は己の耳で聞いた名前を脳裏で反復させる。  「そうか!、そんじゃあフウタロー!、そっちが名乗ったのなら、うちも名乗り返すのがワルの礼儀ってやつだ!」  そして、不良少女は改めて名を告げる。  ___"膝元 暴羅(ひざもと あばら)"  ニカッとした笑顔、不良少女こと暴羅(あばら)は続けて告げる。  「そんじゃあ、そういう事なんで、そこんところ夜露死苦」  そうやって、少女は自身の名前を名乗ってみせた。  ___というか、名前がイカつ過ぎる!?、なんだよ暴羅(アバラ)って??、親のネーミングセンスを疑うぞ!  すると、暴羅は呟く。  「よしフウタロー!、そういう事だからお前はうちのために適当になんか作れ!」  ビシッ…と、こちらに向けられた指先、暴羅の腹部から空腹を知らせる音がする。  ___グゥゥ〜……!  すると、背後から酔い潰れた桃の声。  「フウシャン、私もなんか食べたい〜!」  ___なんと、酔っ払いが加勢してきたぞ!?  「おっ、なんか作るのか?」  店長の声、さらに追加で厄介な酔っ払いが釣れたぞ!、周りに釣られて"玥(ユェ)さん"も口を付けていた酒瓶を片手に降ろし、こちらを向く。  「よしフウタロー!、これは店長命令だ、何か作れ!」  そう言って再び酒瓶を飲み干していく玥さん。  ___ダメだ、俺の周りには酔っ払いしかいねぇぞ!  ___仕方がない、やるか…!  「はぁ〜、分かりましたよ。何か適当に作ればいいんだろ?」  俺は自分の腰に手を回し、己の緩んだエプロンの紐を引き締めた。  そんな俺に、店長の声……、  「安心しろ、不味かったら店長である私自らお前をぶん殴ってやるからよ!」  と言って笑う店長、俺は引き攣らせた顔で無理に笑ってみせた。今の発言が冗談である事を願うばかりである。  真夜中の0時を過ぎた頃、俺はクタクタになりながらバイト先の戸口を閉めた。結局のところ三人と自分の分を作った後、酔っ払い三人衆を介抱しつつ店の片付けやら明日の仕込みやらで時間がかなり過ぎてしまっていた。  欠伸を一つ、冬の夜空に白亜の吐息が微かに光を帯びた。月明かり、暗い夜道に目を凝らす。  ___たしか、愛と最初に出会った日もこんな夜遅くの帰り道。このバイト先からトボトボと歩いて帰っていた時の事であった。そんな事を思い出し、俺は歩き出そうと前方へ踏み出した。  しかし、少し歩いた先で、背後からのクラクションに俺は足を止めて振り返る。  「オウ!、晩飯の礼がてら一走り付き合え!」  少女のかけた眼鏡が月明かりに反射する、先程まで店のトイレで吐いていた"暴羅(あばら)"の姿がそこにはあった。  エンジンを蒸した単車、というか常識的に考えて飲酒運転だよな…?  「………俺をブチのめすんじゃなかったのか?」  慌ててはいない、非常に冷静な思考で目の前の少女に問いかけた。  暴羅は、ふと考え込むように眼鏡の縁に自身の指先が触れる。数秒後、彼女は呟いた。  「細けぇ事はどうでもいいんだよ!、今はスッゲー気分が良いからよ」  ニカッとした笑顔、彼女の手が俺の肩に触れた。どうやっても逃がす気はないらしい。  帰り道、森深くに整備された一本道を爆走する物陰が一つ……。  「おい!、もっとスピードを落とさないと危ないって!」  俺は必死だった、かっと飛ばしたバイクから振り落とされないように死に物狂いで運転主にしがみついていた。  「うっせぇ!、うちの走りに文句があんなら山奥に置いてくぞ!」  相変わらず暴羅(あばら)の体から放たれる酒の臭い、その小さな体から溢れる強烈な臭いに俺は幾度も車酔いに近似した症状に苦しめられていた。  しかし、ふと俺は徐々にバイクの速度が低下している事に気づき、どうしたのかと暴羅に問いかける。  「どうした…?、ガス欠か??」  ___ピタッ……  ある地点でバイクが停まった、よく見ると暴羅(あばら)の肉体が震えている事に気づく。  「お、おい…?、本当に大丈夫か?」  ゆっくりと暴羅がこちらを振り返る、涙の溜まった瞳がこちらを見つめて、静かに口を開く。  「やばい…、吐きそ……」  「えっ……!?、マジ…?」  少女は、ふるふると首を縦に小さく振った。  「ぅ……え…、ぅ……うぷっ!……おぇ…」  バイクを停車し、俺ら二人は道路から少し離れた物影に隠れるようにして腰を深く曲げていた。  苦しげに吐くヤンキーの後ろ姿、少しでも吐きやすいように俺はその背中を優しく摩っては幾度か言葉で少女に対して吐く切るように促した。  「うぅっ……、いくら吐いても吐き足りねぇな……」  それについて、俺は無理もないなと思った。過剰飲酒後に食事を摂り、その上で猛スピードで運転まで行ったのだ。それら全てが重なり、この少女の体に大きな負担をかけたのだろう。  吐瀉物が落ちる音、最初は俺が作った中華料理が滝のように何度か飛び出したかと思うと、今では固形物の混じっていない胃液と水分だけが地面に何度もピチャピチャ跳ね回るようにして流れ落ちていく。  再び少女の全身に力が入る、胃袋を刺激しようと肩から腹部にかけて力が入った。汗だくの表情、その顔はひどく蒼白としていた。暴羅は、息も絶え絶えにズレた眼鏡を指先で掛け直した。ガクガクとした足腰、吐き疲れて一人で立っている事も難しい状況である。  荒い呼吸、胸部が肺を酷使するように何度も繰り返し膨らんでは萎む。額からの汗が頬を伝って、真下にある吐瀉物へと静かに垂れ落ちていく。  この様子を見ていて、俺はふと思った事がある。  ___なんだろう、美少女の吐く姿も悪くないな。  整った顔立ちが苦しげに歪む。ふらふらと視点の定まらない瞳、少女がこちらを振り向いた。  ___グイッ……!?  予想外の事態、俺の掴まれた襟首が少女に引き寄せられるままに前方へと傾く。  ___チュ…!  少女の唇と触れ合った、口内に溢れた胃液のせいかキスの味はとても苦いものであった。  ___ちょ、待てよ!、どういう事だってばよ!?  俺は状況の理解できないまま少女に後ろの方へと突き飛ばされた、暴羅(あばら)は口元をグイッ…と乱暴に拭うと、呆気に取られた俺を見下ろした。  「なんだよ、うちに文句でもあんのか?、さっきのはただの吐いた後の口直しだかんな!、勘違いすんなよ!」  そう言うと暴羅は、唾を吐き捨てて元来た道を歩いていく。しかし、俺は未だ呆気に取られた表情で彼女の背中を見送るばかりだ。  暴羅は立ち止まり、そして叫んだ。  「おい童貞!、サッサっと立ちやがれ!、じゃなきゃ置いてくぞ!」  「お…、オウ……!」  俺は叩き起こされたかのように不恰好な姿で立ち上がり、遠く離れていく暴羅の背中を追いかけて小走りに駆け出した。 https://ai-battler.com/character/a3c3c98f-24e3-476c-89bd-fade4f975844