いつでもどこでも酒を呑み、フラフラと渡り歩くおっさん侍。 どんな時も酔っ払い、軽口を叩く様に、 ただののんだくれの中年だと人々は思うだろう。 ただ、呑めど呑めどまだ足りぬと呑み続ける者ほど、洗い流せぬ過去が焼き付いているものなのだ。 彼は今宵も酒をあおる。暁が訪れてしまえば、自分が取りこぼしてしまった仁を、見下ろすしかなくなるだろうから。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~ 師匠を敬愛していた。 妻と娘を心から愛していた。 それらが授けてくれる全てが、俺の全てだった。 俺の世界の全てだった。 救えなかったんだ。 もう帰ってくることは無い日々なんだ。 視界がぼやけて、霞んで、何もかも見えなくなっていた。 右手に握ったモノが、地獄の業火の如く燃え上がっていた。 悲鳴か怒号か、俺にもわからなかった。 ただ。 斬って、斬って、斬って、斬って。 燃やし、燃やし、燃やし、燃やし。 崩し、崩し、崩し、崩した。 俺の前にも後ろにも、 広がる光景は、灰の山だった。 直視出来なかった。直視したくなかった。直視する訳にはいかなかった。 そして、俺は。 今日も瞳を霞に浸して。 身体を酔いで染め上げた。 濁った視界だけが、俺を生かしてくれると信じて。 時折。 盃の中の人と目が合うんだ。 水面に揺らめく、あまりに不安定な影。 「…ああ。なんて…」 「なんて、無様なんだろうな。」