こんにちは、小学校の給食とは意外と美味しいものですね。そして、むしゃむしゃと口一杯にパンを頬張っている私は"山田 詩(やまだ うた)"です。 ___ゴクン…! 口に含んだパンを飲み込み、またパンを齧る。食べ物を咀嚼するという事は、単純な反復動作でありながらも繰り返せば繰り返すほどに口全体に疲労感が溜まっていくものだ。そして、私が食べているそれを単なるパンと侮ってはいけない、これは私の口内から水分を片っ端から奪い去っていく食べる事が可能な天然のスポンジだ。そんな恐ろしい食物兵器を口にした私の両頬は、繰り返し噛むという単純作業による疲労感と噛めば噛む程に弾力が増していく"パン"という悪魔的な組み合わせにより、あり得ない程の化学反応を引き起こしていた。 「あれ…?、詩ちゃん大丈夫?、なんだか顔色が悪いよ?」 同じクラスの"引合 火乃香(ひきあい ほのか)さん"が、あまりにもパンに苦戦する私に心配の言葉をかけてくれる。しかし、私の心情はそれどころではなかった。 「ぐっ……、誰か……水を…」 喉に詰まらせたパン、口の中の水分を吸収し、私の咀嚼によって弾力のある生地感へと捏ね上げられたパンの凶悪さたるや、凶器と言っても過言ではない。 上手く飲み込めない、無理に飲み込もうとした矢先、更にパンが喉奥に引っかかる。まずい……、呼吸が…!? 「詩ちゃんしっかり!」 火乃香さんから手渡された小さな牛乳パックを半狂乱に音を立てて飲み干していく。どうにか生命の危機だけは脱せたが、内心はかなりヒヤヒヤとさせられた。今回の事に関しては火乃香さんの賢明な働きに感謝である。 「くっ…、まさか食事という単純作業で死にかけるなんて……」 己の不甲斐なさに辟易する、まさか打倒者である私がパン一つに打倒される寸前まで追い込まれるなんて…、なんて情けないんだと己の未熟さに叱咤した。 手元を見下ろす、そこには先程に飲み干したばかりの牛乳パックが握られていた。仄かに先程に飲んだ牛乳の豊かな香りが私の鼻先を優しく包み込んだ。もはや空となった牛乳パックを見下ろし、私はとある物思いに耽っていた。牛乳など一滴たりとも残されてはいない空箱、これが私を救った救世主の末路である、いくら私を救った恩人……いや、恩牛乳パックと言えども最後には他の牛乳パックと同様にゴミ箱という名の"終焉の地"へと向かう旅路に囚われた哀れな消費財なのである。あぁ、恩牛乳パックよ……せめて貴殿の勇姿だけでも私の瞳に焼き付けておくとしよう。 そして、食べ残していたパンを再び口に含んでは噛む果てなき作業へと私は戻ってきた。言い換えれば、私はパンの咀嚼という肉体労働に従事する雑食生物である。このパンという神が与えし試練を乗り越えない限りは私に"楽園"という名の昼休みは決して訪れる事はないだろう。 ___というか、まだ食べ終わっていないのクラスの中で私一人だけなんですよね。 「くっ、やはり学校とは非効率的な活動の吐き溜めでしかないのか!」 あぁ神よ、私にこんな力無き幼体などではなく、願わくば肉食獣のような鋭い歯並びとペリカンのような飽くなき食欲を授けたまえ。 「詩ちゃん、食欲ないの?、大丈夫??」 やはり火乃香さんは優しいですね、ここにはどうやら神ではなく天使が舞い降りたようです。そして、まだまだ半分以上も残ったスープをひとすくい、私の舌先に広がるコクと味わい深い食材のハーモニー。そして、私はこの時になって改めて感じた事がある。 「すみません、やはり満腹の為、これ以上は残念ながら私では食べ切ることが叶わないようです。」 そう言って私は"残飯"と一括りに名づけられた一群へと先程まで食べていた給食を鍋蓋を開け放ち、大鍋の中へと躊躇なくブチまけた。もちろん、恩牛乳パックへの感謝を忘れる事なく迷わずゴミ箱に放り込んでみせた。 「ふぅ…、やはり何か食べるという行為には未だに慣れませんね。」 そう言って私は自身の腹部を優しくさする。給食時間が始まる前までは平たく肋骨と胃腸に触れる感触があった腹回りが、一変して山のように大きく膨れ上がっては私の満腹中枢を激しく刺激する。 思わず、ウッ……と吐き気が込み上げるが、これも神が与えし試練なのだろう。私は気合いという名のストッパーを用いて吐き気を催した胃腸をキュ…と、締め上げた。すると食道と喉元あたりで吐き気は治まると、静かにゆっくりと元いた場所へと沈み込んでいく。 「人間とは恐ろしいものです、毎回こんな苦しみに耐えているのですから、私はクラスの皆さんが末恐ろしくて仕方ありません……」 そう思った私に一つ疑問が浮かぶ、フウタローの姿。なんとなく嫌な予感がした、何かしらの事件事故に巻き込まれていなければ良いのだが…… でも___、 「まぁ、お兄ちゃんの事ですし、大丈夫でしょう。」 楽観的にそう思った、単純な気持ちでそう呟いた。間違いないと、そう考えたのである。 ___加担者、その名の真意、未だ明かされない。 https://ai-battler.com/character/45cfd60f-fca9-40d4-93a4-bc9790cc9d10