犠牲者は振り返る。 「管理者?、たしか私が来た時は………2代目だったかな?」 これは犠牲者の物語、管理者と出会うまでの始まりの物語。 私、元々は_@&a#って名前があったんだ。どこか知らない場所、誰かも知らない連中と馬鹿やって過ごしてた。 だから____、なのかな……?? ____私は全てを失ったんだ。 「う………ぅ、ぅう……」 誰かが泣いていた、それは間違いなく幼い頃の私であったのだ。 瞳に映るは炎、思考を掻き乱すのは動かなくなった死体の山。 「みんな……、みんなぁ…!」 アミット…、ウドパト……、アニル………、、 皆んな……、みんな死んじゃったよ…! 私は泣き叫んだ、昨日まで笑い合った。そして、今日まで生きていた者達は死んでいった。 神は平等に人間に対して不平等だ。特別な理由もなく人は死ぬ、平凡な日々が呆気なく終わる瞬間が訪れる。目の前では人々が殺されていく、略奪という蛮行によって村が焼き尽くされていく姿がこの目に焼き付いて離れない。 このカルティケーヤの呪い、愚かなダルシットの集いし地、私はその土地で呼吸する、己の肺を深々と膨らませて立ち上がる。その際、瞳には剥き出しの怒りを、自分自身の手には己の拳ほどの石を血が滲むほどの力で拾い上げた。 そして、怒号が私に接近する。蛮族の刃、私を処刑しようと迫り来る。視界の先、敵の刃先が迫り来ることを知覚する。私は心から叫び、そして己の手に握り締めた小石という名の飽くなき"憎悪"を振りかぶる。 「ア"ァ"ァ"ァァァァァァア"ーーー……ッッ!!!」 直線一閃、敵の目玉を撃ち抜いた小石。その隙を突いて、私は敵を組み伏せようと半狂乱に飛びかかる。しかし、私の幼い肉体では力が足りなかったのだ。そのまま首と肩を鷲掴まれ、崩れかけた家屋の壁に無遠慮に叩きつけられる。 その衝撃で私は頭部と頚椎を強く傷めた。己のボヤけた視界、脳が上手く機能していない事実を理解するまでに時間はかからなかった。 炎の光に反射した刃の輝き、敵の振り上げた剣が私の首から肺を切り刻むために振り下ろされる。 きっと、その時の私は……誰も助けられなかった悔しさと、己が死ぬ事への恐怖に顔を歪ませていたに違いないだろう。震えた唇、恐怖に動かない手足、私は…私自身が許せない!、何も出来ずに殺されてしまう自分自身が許せない! ………クソ!、くそが!、くそがよ…! ____ズパッ…! その刃先は、狙いが逸れて私の頬を掠めた。切り裂かれた頬から流れる血、私は目の前の出来事に目を見開いた。 蛮族のもがく声、その首に伸びた見知った者の両腕が見えたのだ。 「何やってんの!、逃げて!」 ____アニル…! 仲間の声、止まらぬ腹部の出血に構う事なく己の身を賭した最後の抵抗。それに報いようと私は必死にフラつく両足で立ち上がる。恐怖に身をすくめ、この場から逃げようと手足の力を振り絞って走り出す。そんな数歩先、そこで聞こえた小さな悲鳴、反射的に振り向いた視界の先、地面に振り下ろされたアニルの姿。敵の剣がその肉体を捉え、その刃先が心臓を突き刺さそうと放たれる。 私はバカだ、無意識のうちに手を伸ばしてアニルへと走り出す。間に合わないと知っていた、私では助けられない事を理解していた、だけど私は必死に手を伸ばして仲間の名を叫んでいた。こちらの様子に気づいたのか、アニルは己の死ぬ間際というのに、その最後の表情はどこか笑っていた。 「生きて……!」 その最後の言葉、私は驚愕と共にその心臓を貫いた一撃を見届ける事となる。走っていた足取りが一瞬の出来事に絡め取られた。私は転倒する己の姿を知覚する、迫り来る地面がどうにも遅く、そしてどうにも遠く感じる錯覚に陥っていた。 私は本当にバカだ、誰も救えなかった。 ____私は……、私は…!、私は! ゆっくりと倒れていく不可解な感覚、その瞬間にも己の無力さに歪ませた表情、それは一瞬にして果てしない憎悪へと豹変する。 仲間が身を賭した守ってくれた己の命、そんな犠牲の果てに救われた命を投げ捨てるように私は私を憎んだ、その全て、一切の全てを憎しみという因果に身を投じた。 転倒していく己の肉体、未だに地面までは遠い。己は何も救えなかった、ただ何もせず恐怖に震えて死を待つだけであったのだ。 ____だからこそ、ここから先は自分自身の命を対価に出そう…! だから神よ!、我らが信仰する偉大なる神よ!、ここから先、己の己による己の為だけに行われる自己を犠牲にした救えなかった者達に対する償いを見届けてくれ! ____ダンッ…! 迫り来る地面、それを私は己の両足で強く踏み締めて立っていた。吐いた息が白い蒸気を揮発させ、視界に映り込む賊軍の群れを瞬時に捕捉する。 ………私は誓う、神へと誓おう。 ____神よ、私の命を対価としよう。 ____神よ、私の心を差し出そう。 ____神よ、私の肉体を糧としよう。 ____神よ、私の過去を贄としよう。 ____神よ、私の魂を代価として支払おう。 だから…!、この私に果てなき死闘の行く末を見せてくれ! ____カッ…! 契約、ここに結ばれた。自己を賭した愚かな復讐劇、その自己犠牲の最果てを今こそ見届けよ。 不規則に敵を貫いた一撃、その両手には一振りの槍が握られていた。それは何にも染まらない白、刃先の白銀が周囲の炎を吹き飛ばす。 ____ハァー……、私は深く息を吐いた。 そして、、、 「殺戮ダッ!、一切合切ヲ残ラズ!!、全テヲ殺シ尽クスマデッ!」 私は止まらない、決して止まるわけがなかった。狂った雄叫び、敵を一匹殺すごとに快感に大きく身を震わせた私の笑い声が喉を通して発される。 「逃ゲルナ!、愚者ドモガッ!」 槍が決して敵を逃がさない、逃げる者は背後から突き殺した。抵抗の意思が残っていた者も有無を言わせず滅多刺す。その際に発せられる苦痛な叫びに私は歓喜した、己が救えなかった者達に対する償いを果たせている、という錯覚が彼女の身も心までも支配する。 「アッハハハハハハハハハハ……!」 私は高らかに笑った、己の行く先に破滅の道しかない事を知りながらも今だけは腹の底から笑っていられる気がしたのだ。 狩り尽くした末路、白銀に輝く槍、それを私は肩に担いで赤い道を闊歩する。不意に立ち止まり、天を見上げる。そして、笑いが堪えられないように震えた両肩。しかし、その行為に意味はない。地面に崩れるように小さく体をうずくめる、そして己の震えの止まらなくなった体を自分自身で抱きしめていた。これは無意識のうちの行為、全てを終えた後、それには期待していた程の達成感などなく、在るのはただの復讐をやり遂げた己一人の姿のみ。この物語の復讐劇に正義はなく、また大義もありはしない。結局、彼女は誰かを救えたわけではなく、ただ己の己による己の為だけの憂さ晴らしをしたに過ぎなかったのだから。 ____ポタ……ポタ…、ポタ… 地面に落ちた涙の粒、私は理解が追いついていない表情で流れ落ちていく涙を両手で抑えようとした。 敵を幾ら屠ろうと空いた穴が埋まる事はない、悪をどれだけ倒そうが救われなかった者が救われる事は決してない。そこには救われなかった彼女自身も含まれる、今はただ終わりの到来を待つのみである。 「ようこそ。……と、私という存在があなたを歓迎します。」 「あ、えと………」 私は、少し困惑した様子で目の前の存在を見つめた。謎の門が現れたかと思ったら、入った先で遭遇した未知の存在が私は待っていたのだ。 「私は管理者、この世界の代表者でもあります。……と、私という言葉を簡潔に説明します。」 「あの、私って死んだの?」 と、質問してみた。 「正確には"貴女"という存在が世界から消失、もとい現在は私の眷属下に置かれています。………と、私という思考が率直に語りかけます。」 「な、なるほど?」 「改めて歓迎します、"犠牲者"。………と、私という感情が喜びを表現します。」 明らかに無表情なのだが、どうやら相手は喜んでいるらしい?、というか……… 「その"犠牲者"って、まさか私の事だったりする?」 「はい、貴女は私に己の身も、心も、その魂の髄に至る全てまでも代価として支払う事により私の眷属、又は踏み込んだ表現では私と交わした契約の代償による最初の"犠牲者"となりました。しかし、訂正として私は"神"、という抽象的な存在ではない事にご注意ください。……と、私という在り方を正確に補足します。」 管理者と名乗った存在の表情筋はまるで皆無だが、なんとなく神様と勘違いされた事に対する憤り?、みたいなのを感じた気がする。 「えーと、つまり私はこれから何をすればいいのかな?、労働とか?」 「面白い質問ですね、私の最初の眷属として素晴らしい一歩です。これから、貴女には来るべき時の導き手となってもらいます。……と、私という役割は貴女に期待しています。」 「具体的には?」 「不明、私という概念は自身の消失以後の具体的な内容を知り得る手段がありません。……と、私という回答が素早く弁明します。」 「いやいや消失って、あんたみたいな存在でも死ぬ事なんてあるの?」 「同意、私は"先代の管理者"の消失を以て誕生した存在、私という存在もまた同じく消失の可能性を有しています。………と、私という自己の最後を予測します。」 「じゃあさ、それはいつ頃になりそうなの?」 「黙秘、この内容には貴女という存在が深く関わり過ぎています。この質問への回答は危険という判断を下しました。……と、私という意思があなたを説得します。」 「ふーん………?」 よく分からないが、よく分かった。とりあえず頑張るか。 すると………、、、 ____ナデナデナデ…! 管理者に頭を優しく撫でられた、私は理解できない状況に混乱した。 「貴女という存在は、これまで辛い思いを強いられてきました。ですが心身の健全な成長にはストレス、だけではなくリラックス、つまり幸福を誘発する行為も重要です。………と、私という思考が丁寧に説明します。」 「…………へんなの…」 管理者の表情は変わらない、けれど笑顔というものが無機質な彼女にも存在するとしたならば、きっと今この瞬間こそがそうなのだと、不思議と直感的にそう思えたのだ。 「この場合、母性という概念では我が子を抱きしめる事でオキシトシンによる幸福作用を促すべき。と……私という論理があなたにハグを実行します。」 「ちょ、やめ……!」 ____ギュッ… ちょっと恥ずかしい、だけど不思議と悪い感じはしなかった。なんだか、とても温かい。 「この反応は恥じらい、という思春期の子供に見られる特有の反応です。と、私という知識は…///」 「もう黙ってて!、….というか離れろ〜!」 と、ここで犠牲者は昔話を静かに閉じた。その顔はほのかに赤く、彼女の両耳はとても真っ赤に染まっていた。 「こほん!、少し余計な話までしてしまったかな」 気を取り直し、話を続けよう。 「そうして、ニ代目の消失から今日で三千年と幾ばくかの年月が過ぎた。本当に今日まで私は待たされ続けた、ここまで長いと途中で二代目の語った言葉が嘘だったのでは、と疑いかけたぐらいに待たされてきた」 犠牲者の発した言葉、私はハテナを浮かべた表情で彼女を見つめていた。 すると____、、、 犠牲者、そんな彼女から伸びた槍の穂先が、私の目鼻の先まで迫り来た。私は思わず両手を挙げ、降参の意を示したが手遅れなようだ。 「来るべき時が訪れた今日、私はこの身を以て残る代価の全てを支払おう!」 https://ai-battler.com/character/6372c67b-0616-4408-b352-5f1efbca6ab0