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どこか儚げな美少女 Ver47

 ___怪道……。  その言葉を聞いた瞬間、私の視界は暗闇に染まる。肌に伝わるのは冷気、周囲の雑音が急速に動きを止めて私の耳元に静寂をもたらした。  ___歩行者の声、、、  「わしも、お主と同じであまり他人に騒ぎを聞きつけられたくない身なのじゃ」  そう言って歩行者は笑う、私は全てが暗闇に覆われた世界で立ち尽くす。  「どうしたのじゃ?、来ぬのか?」  歩行者の声、それが聞こえるかどうかの一瞬の瀬戸際で、私は歩行者へと瞬間的に至近距離まで接近していた。それは一瞬にして刹那的。彼女の顔面へと振りかぶった拳が怒号を響かせる。  ___寄道。  それは一瞬の出来事、私は捉えた筈の彼女を見失い、拳が何もない空間を虚しく殴ったという違和感に脳の処理が数コンマ遅れた。そして意識が挙動を再開する、彼女は一体何処に___!?  「……ほれ、ここじゃよ」  ___近道。  「なっ…!?」  ほんの目鼻の先、彼女の瞳が私を見つめていた。私は急な事態に背後へ後退しようとした足を無理に食い縛り、咄嗟に前方へと拳を振りかぶる。  「なるほど、悪くない判断なのじゃ……だが、」  ___ヒョイ…、、、  この一撃を歩行者は、いとも簡単に避け切っていた。まるで廊下で出会した相手へ真横に避けて道を譲った時のような自然な挙動、今この瞬間に私が放った一撃を歩行者は容易く回避してみせたのだ。しかし、私の視界は至って冷静であった、自身の体勢が巻き返せない状況下でも相手の動きを正確に捕捉していた。相手の流れるように伸びた片腕、それが私の首に伸びt……!?  ___ガシッ…!!  首を鷲掴まれた感覚と同時に視界が後ろへと傾き、次に己の肉体が大きく崩れる感覚に襲われる。己の脳が瞬時に知覚する、その下に迫り来るは地面、マズイ……受け身が…!  ___ダアァン……ッ!!  私の頭部と背中に伝わる衝撃、脳みそと背骨が悲鳴を挙げていた。そして、手慣れた様子で歩行者は私を地面から引き剥がすと首周りが更に強く締まっていく。苦しい…、私の視界では霧状のモヤが薄らと幕を張っていく錯覚が生じていた。  「ぐっ……、この……はな…しなさ……い」  歩行者から伸びた腕が、私の首をこれでもかと強烈に締め上げる。その拘束から必死に逃れようと彼女の掴んだ手指を私は握って引き剥がそうとするも、その歩行者の万力の如く腕力に抵抗も虚しく、更なる力が加わり私の喉元を更に深く締め上げた。  ___グググッ…!  「かはっ………、ア……ヤ…」  半分パニック状態で手足をバタつかせ、この状況から脱しようと必死に藻搔く。しかし、次に聞こえてきたのは歩行者の溜息と、やる気を削がれた声色である。  「管理者、今一度…頭を冷やすのじゃ。わしはただ、お主と世間話をしたいと思っただけじゃ」  ここで一旦、歩行者は言葉を止めて今代の管理者、"伯内 愛(はくうち あい)"の姿を視界に収める。そして、再び深い溜息をついていた。  「お主の考えている事は、わしには一切分からぬ。だがじゃ、お主は血の気の多い馬鹿者とは違うと、わしは確信を以てそう思っておる」  歩行者の掴む力が少しだけ緩まり、愛はその開かれた気道から必死に呼吸を繰り返す。そして、次の瞬間には愛の瞳に戦意が、その手には力が込められ、歩行者の腕を更に強く掴んで叫ぶ。  「戦闘仕様の{. "全開"解除 .}を実行ッッ!!」  "___承認、更なる肉体の再構築を継続、戦闘段階[b]を実行します。"  その途端に愛から発せられた光、それは歩行者の視界を白墨が染める光である。しかし、歩行者は瞳を閉じない、視線を決して逸らしなどしない。  ___そして、笑った。  愛から放たれた蹴りが、視界の端で歩行者に迫り来る。  「ハァァァアアアア……ッッ!!!」  ………ズッダァァン___ッッッ!!!  歩行者の肉体を捉えた一撃、その肉体の脇腹を蹴り飛ばしたと同時に掴まれた喉元から歩行者の手先が遠ざかる。その瞬間、愛は両膝を地面について倒れ込むようにして背中を丸めると酷く咳き込んでいた。喉に触れてみた箇所に痛みが走る、あまりの圧力に曝された事で鬱血した患部が酷く火傷したかのような熱を帯びていた。しかし、苦痛に歪んだ瞳を開けて、痛みと恐怖で震える膝でどうにか立ち上がる。何故ならば、敵は未だに私の視界の先で立ちはだかっているからである。  「さ…流石は…、"歩行者"です…ケホケホ…ケホ…、貴女を知識の一部としては知っていた筈なのに……、それなのに私の体が貴女の"権能"に対する理解を拒もうとしている。そればかりか、その圧倒的なまでの"理不尽"に私の脳みそは"抗いなさい"と、私に向けて無理難題を押し付けてくるのです。本当に……、私自身の事ながら嫌になってしまいますね…」  そう言って、愛は引き攣らせた顔で笑ってみせる。それは、どこか挑発的で、どこか虚勢的で、そして……どこか儚げでもあったのだ。  「___管理権限"{ 無冠 }"」  愛の頭頂部の少し上、その頭上に輪っかが浮かぶ、それはまるで……ギリシア神話から古代ローマの頃より伝わる黄金の月桂冠の姿である。  それに対して歩行者の視線が、その頭上のリングに吸い込まれていく。開かれた瞳孔、そして賞賛に似た笑みを浮かべて呟いた。  「ほお、まさか……ここまでとは…」  ___ポタ…ポタポタ……  何か液体の垂れ落ちていく音、見ると頭上に輝く黄金の月桂樹から次々と色彩が抜け落ちていき、真下へと眩く滴った鮮黄色が愛の長い白髪へと色彩を食らうように、液色を吸い尽くすようにその全てが愛の長髪へと染み込んでいく。  それが見せるは黄金の輝き、そして黄金とは"権力の象徴"、この世を統べる者に授けられし永遠に朽ちぬ栄光の輝きでもある。ふと頭上に輝く月桂樹が黄金が抜け落ちて燻んだ白銀へと変わり果てた頃、頭上の月桂冠に音を立てて亀裂が入ると呆気なく真っ二つに砕けて真下へと墜落する。  ___そして、その輝きを一心に受け継ぎし者、その全てを統べし存在_"管理者"が歩行者の視界で鎮座する。その姿に歩行者は少し懐かしむような視線を送り、そして呟いた。  「黄金とは、たしかに永遠に輝く栄光の象徴じゃ……。しかし、栄光を求めた者は全てを失い、永遠を追いかけた者には死が待っておったのじゃ。黄金とは、謂わば愚者に対する呪いのようなものじゃな………だがしかし、わしは知っているのじゃ。それは永遠ではなく、ましてや栄光ですらない死闘の果てに黄金に輝きし者が掴んだ一瞬を、わしは知っているのじゃ…!」  その瞬間、歩行者の瞳に映るは過去、そしてその先に見えるは黄金に輝きし髪を靡かせた存在。歩行者へと笑う。それは、かつての管理者の姿である。遥か昔、たしかに存在した"初代"管理者の姿が鮮明に彼女の視界を染め上げる。  ___感極まったのか、歩行者は少し言葉に詰まってしまった。  「管理者……、わしは一つ嘘をついてしまったのじゃ…。先程にわしは、ただお主と世間話をしたいだけだと言ったが、ここから先はあの言葉は嘘となる。今のわしは、心からお主を___」  ___ぶっ潰したい……ッッ!!!  歩行者の笑み、その狂気的にして猟奇的にして嗜虐的な笑顔が愛へと牙を向く。  「管理者…!、久方ぶりに決着を付ける時なのじゃ…ッ!」  大気を揺らがす、周囲を揺るがす、しかし管理者の瞳に宿りし火種は決して揺るがない。  ___〇〇者、その死闘の果てに何を得る?  だがしかし、その問いの答えは未だ明かされない……。 https://ai-battler.com/character/e8ac1c7b-ca1d-42f0-9a03-087dbbaade1e