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放浪者

フェルディナン朝、最後の王。 ルイ5世 先祖は選挙君主制の国を事実上世襲制に変え、中央集権を築き上げた偉大な太陽王の血統であり、フェルディナン朝の創立者である。 父王の時代から続いた戦役を、彼は和平条約で終わらせた。 領土の一部は譲り、辺境地や要塞を返還する。その代わり、特定の港や交易路の利益を確保し、今後の戦役リスクを減らすため、緩衝地の設置も取り付けた。さらに、自らの姉を対象国に嫁がせることで、条約の履行を保証させた。 財政はやや圧迫気味だったが、王は民のために尽くした。膝を折り、負傷者を介抱し、孤児には名を与えて抱擁する。税制は緩和され、都市自治は強化され、農業支援や他教徒への配慮も行われた。民は彼を「賢王」と呼び、希望の光を見るようだった。 しかし、王の目は民のみに向けられていた。 聖職者や貴族は反感を抱き、陰で権力を蓄える。度重なる飢饉と疫病が国を苛み、民衆の不満は爆発。都市では蜂起が起き、農村では暴動が燃え広がった。 革命の炎が国土を包む中、貴族と軍部は分裂し、権力争いを始める。条約で得た平和も、中央集権の重みと黄金の鎖のような国家の圧力の前に意味を失った。 城壁の一角にひびが入り、辺境から暴徒と略奪の知らせが届く。 都市は革命に揺れ、農村は略奪に苦しみ、貴族同士の内戦が同時に勃発した。交易路は封鎖され、緩衝地は無力となった。王は全てを計算していたはずだったが、黄金の重みに圧され、国は彼の手の中から一瞬にしてこぼれ落ちた。 王は民を慕いながらも、革命と内戦の炎に包まれた国を救うことはできず、灰と瓦礫だけが残った。 放浪王はわずかな従者と共に城を後にし、旅立った。かつての国は、黄金の圧力に押し潰され、永遠に失われた。 そして年数が過ぎる頃…彼が愛した国は瞬く間に滅んだ。彼が和平条約を結んだ国は和平を翻し、その1部を喰らう。国は分裂し、弱小国の塵芥、有象無象の権力を抱え、再び戦乱の世に堕ちる。 残った国は巨大化した隣国の属国に成り果て、その威光は古びた古城と共に焼き捨てられる。 王はとある歴史ある古城を訪れた。彼を打倒した、新しい王朝を作り上げる筈だった者の幽閉先。 その幽閉先は今となれば廃れた黄金になり、ただ……王は革命家の目線をなぞるように、 空っぽの玉座に座り込む。