俺、山田風太郎。 俺は今、愛の家から帰宅している最中だ。 それから、骨董品みたいなモノとは言えども剣を所持して歩いているのは気が引ける。 警察とか居ないだろうな、マジで見つかったらヤバいぞ……!? 「ねぇママ、あれ何……」 「しっ!、見ちゃいけません!」 えっ!?、親子……ッ! マズイ!、このままでは刃物を持った危険な21歳男性として捕まってしまう…!? 俺は駆け足気味にその場を後にした。 「ふぅ、危ねぇ危ねぇ、これを見られたら大変………」 手には剣は無かった、代わりに傘が握られていた。 ………??? とりあえず傘を開いてみる、パタンッ…という音と共に絶句した…… 「こ、これは……!?」 傘を開くと女児向けアニメ『美少女戦士ドラキュア』が描かれたキャラ傘である事に気づいた。 「つまり、あの親子は……」 女児向けのキャラ傘を持った挙動不審な21歳男性の姿を見ていた、という事である。 待て待て……ッ!、もっと状況が悪化しているじゃねぇか!? めっちゃ恥ずかしッ!、これなら古びた剣の方が100倍マシだ!、というか剣の癖に変身できるのかよ!、しかも女児向けアニメとかコアなジャンルに走りやがったぞ!? 「この状況で知り合いには会いたくないぜ」 「あれ…?、フウ兄?」 ___ドキン…ッ! 「よ、よお……」 俺はぎごちなく声がした方へと振り向く、そこには瑞稀の妹の"引合 火乃香(ひきあい ほのか)"の姿があった。 「晴れてるのに傘なんて差してどうしたの……?」 じっと傘を見つめられる、ランドセルを背負った様子から帰宅途中なのだろうか? 「色々と事情があってな、お前の方は今から帰りか?」 「うん!、フウ兄も一緒に帰ろっ!」 まぁ俺も帰る途中だ、それに家は隣同士だから帰り道も同じである。 よし、一緒に帰る事にしよう。 「分かった、だけどその前に取引をしないか?」 「うん!、なに?」 火乃香と目線が合うように背を屈めると、その手に傘を握らせてこう呟いた。 「この傘をお前にやるから、代わりに俺を背負って家まで送ってくれ」 とりあえず、出来るだけ早くこの傘を手放したい&今日は股間を蹴られまくったせいで下半身がボロボロの状態なのだ。 「お前さ、ドラキュア好きだろ?、実はカクカクシカジカあってな」 「ふむふむ、カクカクシカジカですか」 「そうなんだよ、カクカクシカジカなんだよ」 「って…フウ兄、さっきから何言ってるの?」 「あれ!?、よく創作物では話が伝わる展開だろ!」 「さっきからホントに何言ってるの?」 クソッ!、小学生相手に心配されてしまった成人男性の悲しい姿を笑ってくれ。 「まぁ、とある少女から貰ったが、要らないからお前が貰ってくれ」 「えっ!、いいの!」 「代わりに俺を家まで送ってくれ、足がガクガクで歩けないんだよ」 「いいよ!、しっかり掴まってねフウ兄…!」 なんだろう…、小学生にお姫様抱っこされるとは思わなかった……。 ___ダッ…! 火乃香は走り出した、しかし思いの外に速かった。 「お、おい……お前、また速くなったか?」 「うん、たぶん…車より速いかも?」 速すぎだろッ!! 「じゃあ、ちょっと飛ぶね」 「お、おう……ひえっ!?」 大きくジャンプする、真下には何十軒と屋根が立ち並び、そして迫ってくる。 「死ぬ死ぬ死ヌ死ヌゥーーーッ!!?」 もう屋根は直ぐそこまで迫っていた。 「大丈夫…」 ___フワリ…! ぶつかる直前に二人の体は一枚の羽根ほどの重さへと変化した、そのまま衝撃をいなすと再び飛び上がる。 これは引合家が誇る四つの奥義が一つ"能(よく)"である。 自身を含めた体重全てを自在に変化させられる、と勘違いさせる程の常人離れな技術である。 「前は失敗して怪我させちゃっだけど、うんと練習して上手にできるようになったんだよ!」 「す、すごいな……」 あとで頭でも撫でてやろう、こいつは俺が思っていた以上に成長を遂げていた。 そして、脳裏で蘇る数年前の俺自身の大怪我、あの時は瑞稀に死ぬほど怒られたっけな…… 少しの懐かしさと共に森を驚異的な速度で抜けていく。 「到着〜ッ!!」 急ブレーキと共に両者の家が現れた、俺は車酔い気味に立つと火乃香の頭を撫でてやった。 「偉いぞ〜、火乃香!、前よりも格段と上手くできてたじゃねぇか」 「ふへへ………くすぐったいよ…」 「じゃあ、またな……あと傘だったな」 俺は別れ際に火乃香の手にキャラ傘を握らせる、手渡す瞬間に傘が熱を帯びたが気のせいだろう。 「じゃあな、瑞稀にも………って、何でもない……」 喉を通りかけた一言を噛み殺す、いつもの癖で言いかけてしまったのだ。 「ううん……!、お姉ちゃんが帰ってきた時に伝えとくよ、愛してるだってさ!」 「うん、そうそう俺はお前を……って違う!?、瑞稀にもよろしく伝えといてくれ、じゃあな…!」 「うん、またね……フウ兄…!」 俺は別れ際に手を振った、そしてこのまま帰宅しようとすると___ ……グイッ! 巻いていたマフラーが怒りっぽく乱暴に背後にある傘の元へと向かわせようとする。 「ぐふっ!、マジかよ……」 「んっ?、フウ兄…?」 背後から心配そうな声が聞こえてくるが、俺は至って平静を装った。 「だ、大丈夫だ……気にすん…」 ___ギュ……! 不意に首が締め付けられる、しかし俺は気合いと根性で家の戸まで強引に歩き出す。逆風を受けたように足取りは重いが、キャラ傘を家に持ち帰りたくはない……ッ!? 「じゃ…じゃあまたな、火乃香……!」 そう俺は苦笑い気味に呟くと早々に鍵を開けて帰宅した。 愚かなフウタローよ、神の怒りは恐ろしいぞ〜……… https://ai-battler.com/character/5f18d32a-5dcf-4177-aeab-5fdaaebee5d8