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どこか儚げな美少女 Ver56

 真夜中の病院、その受付での話である。  「申し訳ございません、当院の定めた面会のご予約時間はもう既に終了を致しております。お手数をお掛け致しますが、今日の朝9時以降に改めて面会のご予約をお願い致します。」  丁寧にアイロン掛けをされた皺一つない制服、受付の女性が申し訳なさそうな営業スマイルで俺と否定者の来訪を拒んだ。  「むっ…、そうなのか……?」  否定者は少し小首を傾げた、受付の女性は更に眉の尾ひれを引き下げて貼り付けた笑顔で答えた。  「申し訳ございません、これは当院の決まりとなっていて……」  つ・ま・り・は……"はよ帰れ"、と言いたい訳である。否定者は、それを気にも留めずに質問を投げかけた。  「そうなのか、では…"妹"がいる階の番号だけでも教えてはくれないだろうか……?」  「___はぁ〜…?、分かりました……。」  少し疑念を孕んだ瞳、受付の女性の指先がテキパキとキーボードを打ち鳴らし、モニターに映し出された情報を読み上げる。  「え〜と、妹さんは今……6階のICU、つまり集中治療室の方にいらっしゃるそうです。」  その答えに否定者は感謝する。  「そうか、ありがとう。では行くぞ」  俺を引き連れて、進むは病院の6階層。突飛な否定者の行動に受付嬢は慌てた様子でカウンターを飛び出した。  「ご家族様…!、困ります!、当院のルールには従っていただかないと……」  否定者の腕を掴む、すると否定者は振り向き様にこう告げた。  「___何もなかった」  その言葉、その途端に女性が消えた。俺の視界から跡形もなく消し飛んでしまったのである。  「否定者___!?、アンタ……ッ!」  この暴挙を非難しようとした俺の口元を否定者の指が塞ぐ。  ___ピトッ……!  「シィッーーー…、、、」  否定者は自身の唇に指先を立てて静かにするようにジェスチャーを送る。  そして、俺は元来た廊下を振り返る。すると、先程の受付嬢が"何事も無かった"様子で淡々と事務作業を処理していた。  「___行くぞ、少年」  既に歩き出していた否定者、その背後を俺は慌てて追いかけた。  ___ピッ…!  エレベーターのボタン、否定者は迷わず6階を押した。  その真横、俺はエレベーター内に設置された小さなモニターが1階から2階、2階から3階へと順番に上がる様子を眺めていた。  ___チン…!  どうやら着いたらしい、少し蛍光灯が切れかかっているのかチカチカと廊下が点滅している。  「少年、ここからは手分けして探す。もし打倒者を見つけた場合、すぐに私に知らせてくれ」  「よし、任せろ!」  否定者と左右に廊下を別れた、この病院は西棟と東棟に分かれている。だから、どちらか片側には打倒者がいる筈なのだ。  「ってか、なんか暗くない?」  先程までの点滅した蛍光灯、それすら消えた真っ暗な廊下に差し掛かる。俺は少しの悪寒と共に周囲を見渡す。何処も空室ばかりだ、たぶん俺は外れクジを引いたらしい。  「仕方ない、戻るか……」  そうしようとした、だがしかし……  ___ゾワッ…!  背中を撫でた悪寒、俺の脳内でとある映像が甦る。  ___詩…!、詩!、しっかりしろ!  ___ちょっと山田さん!、落ち着いて下さい!  ___離してくれ!、詩…!、詩ァーーッ!  「___ハッ!」  まるで夢を見ていたのか、先程の光景に現実味はまるで無かった。  ___ゴクッ…!  固唾を飲み込む、思い出した記憶を押し込めるように俺は来た道を戻っていく。  否定者と合流した、というより否定者を見つけた。彼女の後ろ姿、その目の前には重厚なガラス張りの扉が聳えていた。  「少年、私はココ以外は全て調べ終わった。つまりは……」  「あぁ、この中にいるって言いたいんだろ?」  否定者、その言葉にニッ…と笑った。  しかし、肝心の入り方が分からない。おそらく扉の左上、そこに設置された監視カメラから中に開けてもらえるように許可証か何かで合図を送る必要があるのだろう。しかし、今は面会不可な真夜中の時間帯、下手に病院関係者と接触するわけにはいかない。  「どうするんだ、否定者?」  「ふふっ、覚悟を決めろ、少年」  ___グイッ…!  否定者から伸びた腕、それが俺の背中に回ったかと思った瞬間に閉まった扉に向けて、思いっきり押し飛ばされた。迫り来る扉、それが壁となって俺とぶつかる。  「___何も無かった」  ___スカッ…!  壁をすり抜けたという違和感、俺は今たしかに壁をすり抜けていた。振り返ると扉の向こう、否定者もまた既に入って来ていた。  「ほら行くぞ、少年」  否定者の声、俺は呆気に取られつつも歩き出した。  打倒者を見つけた、集中治療室内でこれでもかと体中に機材を繋げられた姿でベッドの上に横たわっていた。胸から腹部にかけて開腹した際の手術痕、肺部分には長い管が通っていた。口元の酸素マスク、そこから聞こえるのは呼吸する音ではなく定期的にマスク内を循環する酸素が隙間から漏れ出た流出音。実際には呼吸などしていなかった。頭頂部にかけて刈り上げられた髪、その頭部には痛々しい手術痕が残っており、縫われた針の接合部が赤紫色に化膿していた。  「少年、下がっていろ」  否定者は、そう言って一人で重症の打倒者へと歩み出す。  ___ピタッ  打倒者のベッドの前で立ち止まる、そして眉先一つすら動かない顔の上に手をかざす。  「打倒者、さらばだ……」  ___ピカッ…!  強烈な光、その輝きが部屋全体を染め上げた。 https://ai-battler.com/character/8cb5cac6-c01f-4a0a-a583-b5d9388bab8b