___あぁ、なるほど……そういう事でしたか………。 冷たい風が私の髪を巻き上げる。私は苦虫を潰したように口元を強く噛み締めた。 私の中の不快な記憶が蘇る。 私は全てを理解した___、 私は全てを理解せざるを得なかった___、 私は全てを理解するに足る真実を知った___。 溜息をつく、本当に嫌になる……ほんとうに… ____私は告げる。 「対象:クソムシ、迎撃許可を申請」 すると、無機質な人工音声からの返答が返ってきた。 "___許可。" 私は続け様に告げる。 「戦闘仕様の限定解除を実行」 "___肉体の再構築を開始、戦闘段階[a]を実行します。" 肉体が白く輝き出した、ほんの指先の動きで周囲の大気を吹き飛ばす。 "___管理者名:『どこか儚げな美少女』の幸運を祈ります。" それこそが私、管理者だ。私は権能を行使する。 ____そして、管理者である私は告げる。 「………私は虫が嫌いです。だからクソムシ!、お前だけは決して許さない!、絶対に逃がさない!、この場で徹底的に叩き潰す!」 そう鬼気迫る表情で叫んだ。 眼前の獣、その更に背後を見据えて叫んだのである。 それはムカデに非常に酷似した存在、それが獣の肉体に渦を巻いて絡みつき、威嚇するような鋭い奇声を私に向けて発したのだ。 私は息を吐く、溜息を吐く、全てを吐く。 そして、私は一歩を踏み出す。 ___ズバァン…ッッ!! その瞬間、撃ち出された不可視の一撃___。 しかし、敵はこの一撃を見事に捉えていた。 ____ダンッ! 受け止められた愛の拳、だが惜しい……! 両者の間を割くように閃光と爆撃が迸る。 ___バァン…! 不意の爆発が周囲を吹き飛ばす、そして不意打ちに際して愛は爆発的な速度で敵の背後を取ると握り締めた拳からの一撃が炸裂する。 ___ズバァン……ッッ!! 敵は吹き飛ばされる。しかし、圧倒的かつ驚異的な肉体強度で受けた衝撃の全てをいなし、次に狂気的な笑みを浮かべて踏み出した一歩から脅威的な加速度合を見せた。 視界の左右を交差する獣、四肢を総動員した高速歩法で愛の周囲を駆け回る。 そこか、あそこか、いや……ここかッ! 思考が敵の動きを捉え、咄嗟に体が敵の攻撃を防いだ。 ___ガンッ…! 両腕でその一撃を防ぐ、あまりの衝撃に腕が千切れるかと思ったほどの威力。 だがしかし、問題はない。 愛は手をかざす、その手元から発された光が敵を吹き飛ばす。 ___バァン…ッ!! 大気が震える、手を向けた方角の一直線上の全てを吹き飛ばす一撃だ。しかし、倒壊した木々の間から獣が牙を剥いて私へと迫り来る。 しかし、私はひどく冷静であった。 「私を甘くみないで下さい。」 ふとした瞬間、こう感じた。手に溢れた汗、この復讐を迎える事ができた今日に思わず力が入る。この時をどれだけ待った?、ここへ辿り着くまでにどれほどの者を犠牲にすれば気が済んだ?、私は敵の背後、憎きクソムシを睨みつける。 しかし、時間がない___。 「決着をつけましょう…!」 再び獣へと手をかざした。 ____それはたった一撃。だが、それだけで事足りる。 「………削除」 完了___ッ!! 詠唱を終えた一瞬の出来事、愛の視界に収まっていた景色がたちまちに消し飛んだ。それは強烈な輝きを発して周囲一体を消し去るに足る一撃___ッ!! ___ズアッッ!!! 敵は呑まれた、その激しい閃光に呑まれたのだ。そして、虫は光に消えた。残された強烈な光が視界全体を満たしていく。 ____光が収まった。 しばらくの間、私はこの灰燼と化した焼け野原を眺めていた。 ようやく終わったのだ……、不意に溢れた疲労感を伴って愛は安堵の一息を吐いた。 「フゥ………、うっ!?」 しかし、少女の肉体は突然崩れ落ちた___。 「ゲホッ!、ゴホッ、ゴボッ!、ゴホッ!、ゴボッ!」 口元を抑える、地面に膝をつき激しい咳と痛みに酷く咽せ返った、体に力が全く入らない。 その肉体に先程までの輝きはなく、光を失った存在がただ地面に膝を折り、ひどく咳き込むばかりであった。 ふと脳内に流れた警告音。 "___構築の維持不可、状態をリセットします。状況をリセットします。肉体をリセットします。" そんな騒がしく鳴り響いた警告、それと共に彼女は元の人間の状態に戻ってしまった。そして、あまりの痛みに胸部を強く押さえる。苦痛に歪んだ表情、張り裂けてしまいそうな程の激痛を発する心臓部の鼓動が加速度的に早まっていき、肉体全部の脈拍がガンガンと己の身を突き刺すように限界を告げる警鐘を掻き鳴らしていく。 「うっ…、ぐっ……ッ!」 額から溢れた脂汗が頬を伝い、それが首筋から丘陵なる胸元を通って下へ下へと皮膚の表面を撫でて地面に垂れ落ちていく。そして、少女の意識は揺らぎ、今にも倒れてしまいそうな体でへたり込んだのであった。 しかし、ある事によって彼女は意識は再びハッキリと覚醒したのである。 「ア"ァ"ァァァァァァァァァァアーーーッッ!!!」 土砂に埋もれていた怪物が勢いよく立ち上がる。 「ぅ…そ……!」 外した…?、そんな筈は…… 混乱が彼女の思考を埋め尽くす。 そんな……、ありえない。 すると、ふとした思考が少女の脳内を駆け巡った。まさか、クソムシが何かしらの介入を図ったというのだろうか…!? 揺れる視界の中、あまりの事態に動かない四肢で無理に立ち上がろうとして少女は転倒する。それもその筈だ、とうの昔に彼女の肉体は既に限界など超えていた。これ以上、彼女に戦える力など残されている筈がない。 しかし___、 私は熱く燃える心臓部を強く掴んだ、その発火したかのように灼熱を帯びた心臓、まだ私には最後の手段が残されている。 既に復活した怪物は私の目の前にまで迫ってきていた。 だがしかし、もう遅い……ッ!! ____私は叫ぶ。 「全開解除、自己破壊プログラムを起動ッ!!」 "___了解、自己破壊プログラムを起… そんな時だった、私は勇者の後ろ姿を見たのだ___! 「えっ____ッ!?」 誰であろうか?。怪物の眼前に果敢に立ち塞がる一糸纏わぬ勇者の姿を見たのだ。片手には剣を携え、勇敢に絶望と相対する唯一無二の存在。その者の勇姿を表せる言葉が存在するとしたら、ここは敢えてこう表現する事にしよう___! 刮目せよ!、我らが主役の登場である…ッ!! https://ai-battler.com/character/5409381c-a766-45e6-82b8-235c9025ae24