私は強い___。 勝負ありッ!! 「ハァァ………」 とある道場、熱気を帯びた室内、吐いた息が白く染まった。 私は強いから___。 血に染まった床に佇んでいたのは瑞稀ただ一人、痛みに呻き声を挙げては床に倒れ伏した男達を尻目に家政婦からタオルを受け取った。 「瑞稀様、お体の方は大丈夫でしょうか…」 「んっ?、あぁ、いつもの返り血だから心配しないで、私のじゃないわ」 「そうですか……、ではお顔に少し触りますね」 瑞稀の頬にタオルが触れる、優しく頬に付着した血を拭ってくれる。 「やはり瑞稀様は美人ですから、もう少し化粧をなさった方がよろしいかと…」 柔肌に付着した血を拭いながら家政婦はそう呟いた。 「いいの…、私そういうのには向いてないから」 「あら…?、でしたらこの前に買われていた赤色のリップは何だったのでしょう?」 「げっ…!?、見たの!」 「ふふっ、たまたまですよ……」 「その笑み怖いからやめて」 良い人ではある、だけど何だか表情が読みづらくて苦手である。 瑞稀は、そう感じた。 「もういい、あとは私一人で出来るから」 「かしこまりました、では私は"後片付け"を始めさせていただきます。」 ___ニコッ 「いや!、わざわざ意味深に言わなくていいから!、そのまま外に投げ捨てといて、そのうち目が覚めて勝手にいなくなる筈だから」 「ふふっ、かしこまりました。」 ようやく終わった、毎回つまらない割に無駄に立ち上がろうとするから手加減が難しい。 「さ〜て、お風呂でも入りますか…!」 私は強いだけだから___。 いや〜、一日の労働から解放される瞬間が一番気持ちいいですなぁ〜 どうも〜、今お風呂で絶賛のぼせ気味の瑞稀です〜、えへへへ…… 身体を肩まで沈める、湯船……と言っても銭湯規模の風呂場なので大の字になっても余裕である。 フゥ……、さて私はこれからどうするべきかな? たぶん今夜、フウタローは件の人物に会いに行くのだろう。 私は単なる幼馴染、本当のところお嫁さん候補というのも自称でしかない…… だけど、この胸を締め付ける感覚は何……? 苦しい……?、悔しい……??、憎らしい……!? 複雑な感情が瑞稀の心を掻き混ぜる、フウタローが私以外の誰かと一生を添い遂げる…? そんなのって___、 「絶対に……ぜったいにイヤだッ!」 これは私の我儘です、もしかしたらフウタローに嫌われてしまうかもしれない……だけど、はいそうですかと黙って指を咥えているなんて嫌です、絶対に嫌なんです……ッ! 「…………フウタロー」 ___バシャン! 浴槽から上がる、適度に体は温まり頭は十分に冷えた。 頑張れ私!、私なら大丈夫!、きっとフウタローの心を撃ち落としてみせる!、もしもダメなら物理的に落としてやるわよ! 「頑張れ瑞稀、私は強い!」 ___わたしは強いだけが……、 自室の時計は夜中11時を指していた。 「ねぇ、虎次郎…?、虎次郎なら好きな相手がいなくなりそうな時、どうする……」 「ナァ〜オッ」 「ふふっ、ごめんごめん、猫に聞いても分からないよね」 ベッドに横になり、黒猫を撫でていた瑞稀はそう自嘲した。 「グルグルグル…!」 「ふふっ、もう虎次郎…くすぐったいなぁ」 黒猫が瑞稀の頬に顔を擦り寄せる、何度目かの後……猫は不思議そうに頬を嗅いでみせた。 「あれ……、もしかしてまだキレイに洗えてなかったかな?」 そう言って頬をグシグシと擦る、人間には分からずとも猫には血の臭いが分かるのだろうか…? 少しだけ瑞稀の表情は曇った…… 「ナァ〜〜」 虎次郎の鳴き声、すると瑞稀の胸に全体重を込めてのしかかる、そしてそのまま寝息を立てて眠ったのだ。 「ふふっ、私を怖がらないのは君で二人目だぞ〜……って、猫だから一匹目かな?」 ふふっ、なんだか懐かしい…… そう、これは本当に懐かしい記憶だ…… 幼き日のフウタローの笑顔が走馬灯のように過ぎ去る。 私は……、私は……ね、…ただ私は…… ___スゥ……、ハァァァァ………。 よし!、覚悟は決まった。瑞稀はそっと寝ている虎次郎を抱えてベッドから身を起こす。 「やっぱり私、絶対に誰にもフウタローを渡したくない…!」 「ナァ〜〜!」 「あっ、起こしちゃった!?、ごめんごめん……」 服装を着替える、動きやすいように軽装にジャンパーを羽織った。 「じゃあ行ってくる、良い子にしててよ虎次郎」 「ナァ〜〜!」 月明かりが儚く道路を照らす、駆けた足取りは早まっていき、欠けた相手を探す目には焦りが滲む。懸けた命を燃やしては、掛け違えた糸を解きましょう。 希望に賭けた、暗い架け橋を走り抜け、白く反射する階段を駆け上る。 大丈夫、あの非モテのフウタローに春が来るわけがない…… どこか不安気な声___、 きっと、大丈夫だから……! そんな確証は何処にもない___、 私とフウタローは幼馴染、あいつの事は全部知ってるんだから……! 本当にそうか___? 大丈夫、大丈夫だから、私は強いから…!、私は強いんだから…ッ!、私は……ッ!? 「フウタロー___ッ!?」 誰かの気配、間違いない……フウタローだ! 私は駆け出した、駆け出していたのだ。息が苦しい、いつもなら平気なのに……心臓が震えていた、怖くて仕方なかった…! 「でも……、でもフウタローなら!」 やっと見つけた、遠くにフウタローの背を見つけた。こちらには気づいていない、私は手を振って彼を呼ぼうとした……。 その時だった___、 「一目惚れです!、初めて見かけた時から恋に恋がれるぐらい好きでした!」 「……………………………………?………………………………??………?????……………?????????………???????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????」 へっ_____っ??? フウタロー、何……言ってるの………? 視界が泳ぐ、そして初めて気づいた、フウタローの背で見えなかった少女の姿に気づいた。 月明かりの下に少女がいた___。 "儚い"……、そうとしか表現しようがなかった。 憎くて憎くて仕方がない少女がいた___。 「フウ……タロー………???」 「うおっ!、瑞稀ッ!?、居たのかよ!」 「お邪魔……だったかな?」 「いや、ちょうど良かった瑞稀に頼みたい事があったんだ!」 「へぇ…?、私に……???」 なんで…?、何でなんで何で君はそんな平然と笑っていられるのかな? 私は今、ちゃんと笑えてるかな……? 「それで瑞稀さ、頼みってのは___」 咄嗟の事でした___、 殺意が湧きました___、 だから、私は君を蹴り殺したいと思いました___。 「ごめんね、フウタロー……」 地面が爆ぜたと同時、瑞稀の蹴りがフウタローへと繰り出された。手加減はない、躊躇はない、殺意しかない……。 そんな蹴りを___、 ……君に向けて繰り出した。 https://ai-battler.com/character/29c0fda8-987e-4432-8db0-c9309911aaa0