《CLASSIFIED》 個体識別名:ケベル(Kebel) 身長:160cm 所属:チームⅠ“Slaughterer”特捜部工作部隊 状態:KIA 【宿魂情報】 名称:[削除済み] 出身:[削除済み](現:ドイツ) 確保理由:卓越した[削除済み]の技術 状態:完璧。当該“終戦乙女”は煽動や宣伝、それに伴う大衆の操作技術を享受している。 備考:頻繁に宿魂との言い争いをしている。また他の“終戦乙女”との軋轢も顕著。 特別指令:上記の状態が悪化した場合【プロトコル“M”】に基づき速やかに処分を実行すること。 ────────────────── 終戦乙女の攻撃が依然続く世界。 空を陸を海を白いワルキューレ達が闊歩する。 後に残ったのは人間と魔族の骸。 魂をヴァルハラへと送られ、最早如何なる奇蹟を以てしても戻らぬ骸達。 彼らの死に様は実に多様。 切り裂かれた者。 焼き焦がされた者。 中毒死した者。 モズの早贄の様になった者etc.etc。 終戦乙女達は決して強くはない。 各地で発生する“反終戦乙女”作戦は確実な戦果を上げていた。そう質の問題では、現在地上で活動している終戦乙女は完全に圧倒されている。 だが、問題なのは数だ。 倒しても倒しても雨後の筍の如く天から舞い降りる終戦乙女達。終わりの見えぬ戦火に人類と魔族は反抗疲れをヒシヒシと感じていた。 また彼女達が作戦面でも巧妙。 その身に宿した軍人の魂から学んだ終戦乙女達は、圧倒的な機動力と自由自在の兵站能力を有している。 こと戦闘において兵站とは特に重要だ。 補給、輸送、管理、これらの一つでも欠けてしまえば戦線は途端に成り立たなくなる。 例を挙げると、太平洋戦争期の旧日本軍が展開していた島嶼作戦にそれらは如実に現れている。 制空権・制海権を相手方に掌握され補給路が断たれれば──後は圧倒的な数を投入して押し潰すだけで済む。 終戦乙女達の戦いは正にそれだ。 人類も魔族も掌握しきれない空の上に本拠点を構え、そこから世界各地へ兵を投入できる。 空を飛べる彼女達の兵站を完全に断つことは不可能であり、食料や弾薬を用いず不眠不休で動き回るのだから──本来であれば勝ち目のない戦であった。 だが、未だに人類と魔族は抗っていられた。 それは正しく奇蹟なのだろう。 何千、何万、何億もの意志。 全ては誰かを守る為。 或いは何かを守る為。 それとも、この戦で何かを探すためか。 一つ一つはか細い糸でありながら、それらは覚悟の名の下に編まれ織り込まれ──容易くは断ち切れぬ紐となり、無数の想いで輝く布となる。 彼らの輝きに対するは底の知れぬ闇の絶望。 そして──奥深くで瞳を爛々と輝かす原初の悪意。 苦境、困難、逆境、絶望。 されど、そこに抗うのが彼らの輝き。 彼らのみに許された──至上の権利。 故にこの言葉を贈ろう。 ※黒い羽が舞い散り──一羽の烏が飛び立つ※ “──耐えよ、しかし希望は捨てるな” 「希望なんて持った方が辛いのに、本当に馬鹿よねぇ」 破壊された街。 路上へ無惨に散らばる骸。 まだ新鮮な死の臭いが漂う中で、一人の女が拡声器を片手に呟いた。 彼女の視線の先には──一匹の鼠。まだら模様の鼠の片手には壊れた笛が握られている。 更にその背後には既に息絶えた黒い魚。でっぷりと肥えたその身には、無数の槍や農具が突き刺さっている。 「……割に合わん仕事だ。悪党が人助け等とな……」息も絶え絶えに鼠が言う。 「“己の在り方を忘れるな。今まで無数の悪意を振りまいておきながら、正義面か。悪党が人助けをしてはならない──それが世の常。己の進むべき道を違えるなど、天が許す筈もなかろう”」 女──ケベルは拡声器で告げる。 彼らの行動は予想外、配下の鼠や魚で街から人を追い出したのだ。 最もそれは小細工に過ぎず、むしろ追い出された連中の怒りを扇動してケベルは彼らを逆に追い詰めた。 その戦闘の最中でも鼠と黒魚は決して煽動された民を殺めようとしなかったが、普段から慣れない行為故に彼らの作戦は実に稚拙。 煽動された民へ鼠の殺害を命じ、ケベルはさっさと民同士での殺し合いを始めようと拡声器へ口を近づけた瞬間── 一本の鏑矢が甲高く鳴った。 その音に覚えのあるケベルは全身に鳥肌を立たせつつも──現れた相手を睨みつける。 かつて一度、自分を敗北へと追いやった相手。亜麻色の髪を靡かせ──燃える嫉妬を内包した様な翠の瞳がこちらを見つめる。 「よくもここまでたどり着いたな──」 一方的に因縁の相手を決めつけていた彼女の登場に、ケベルはあの日の雪辱を果たすべく拡声器を高く掲げた。 戦闘の詳細 https://ai-battler.com/battle-result/clz3k4cxd04vds60oyd4ik8x8 矢が飛んでくる。 無数の矢が飛んでくる。 矢の雨が降ってくる。 拡声器は壊れ、心を煽り立てた民がどんどん倒れていく。 ケベルは焦っていた。 またしても、同じ結末を辿るからではない。 何故、眼前にこの女は何の感情もなく無辜の民を撃ち殺せるのだ、と。 「何なんだ……」 矢がまた一つ。 民が倒れ、赤い花が咲く。 民が争い、鮮血が舞う。 「お前は何なんだ……」 また一つ。 そして、また一つ。 止まらない矢の群れがケベルの足元を崩していく。まるで──鼠と黒魚を葬った時と同じ様に、今度は自分がその立場に置かれている。 「──ッ、何なんだよぉッ、お前はァァァッ!!」 そして、最後。 放たれた最後の矢がケベルの胸を貫く。 身を焦がす様な熱が体を走る。 パッと一際赤い花が咲いて── 呼応するように辺り一面に花が咲いた。 どうして、私は負けたんだ? 私はワルキューレだぞ、あんな奴に負ける筈が無いのに。 “分からないのか……想いの差だ” 男の声が響く。 それはケベルの中に宿った人間の声。 “剣であろうと銃であろうと、矢であろうと、そこにはそれを放った者の想いが宿っている。私を宿していながら、彼女の想いに──その声に気づかなかったのか” 薄れゆく意識の中、頭の中でうるさく響く男の声。だが既に彼はケベルへの興味は失せていた。 “あれ程までに募らせた世界への憎悪、自己否定で腐り果てた心──僅かに救いを求めているようだが、内心わかっているのではないかな。腐ったモノに集るのは蠅しかいないことに、な” 男の声はケベルには届いていない。 死にゆく彼女、その灯火の最期まで覆っていたのは“何故、私が負けたのか?”という──永遠に解けぬ疑問であった。 『……聞こえるかな、そこの……のお嬢さん、まずは礼を……か。腐り……た彼女の……射抜いてくれてありがとう、おかげで私も……と休める』 壊れた拡声器から、ノイズに混じり流れる男の声。 その声に僅かに足を止めた彼女、しかし興味が無いのか──将又何か嫌な予感がしたのか再び歩き出す。 その様子に男も慌てる事はなく──ゆったりとした口調と明瞭な声で賛辞を贈る。 『言葉は矢の様に速い事こそに意義がある。言葉とは鮮度落ちが顕著であり、それを如何にして相手の胸に強く打ちつけるかが重要だからだ。ただ面白い文言だけが宣伝では無く──大事なのは好結果を生むこと。君は素晴らしい煽動家だ、その身で経験した万事の記憶が、放たれる矢に意味を与えている。そう、正しく君は我らの愛するそうと──』 放たれた矢が拡声器を破壊した。 死の静けさが戻った街。 死体と花だけが残る街。 亜麻色の髪の女は静かに立ち去る。 後に残るのは死体だけ。 それは──この世界では何ら不思議でもない、極々普通のありふれた光景。