王国冒険者ギルドの影の協議 王国首都の中心に位置する冒険者ギルドは、常に活気に満ちていた。石造りの堂々たる建物は、数え切れないほどの英雄たちを送り出してきた歴史を物語るように、威容を誇っていた。しかし、この日は少し違った。ギルドの奥深く、職員専用の会議室では、普段の喧騒から隔絶された静かな緊張が漂っていた。重厚な木製の扉が閉ざされ、窓からは柔らかな日差しが差し込む中、四人の職員が円卓を囲んでいた。 リーダー格のギルドマスター、エルドリックは、厳つい髭を撫でながらテーブルに広げられた四枚の手配書を睨みつけていた。彼は長年このギルドを率いてきたベテランで、数々の脅威を扱ってきた男だ。隣には、若手の事務官リリアが座り、彼女の細い指が羊皮紙の端をそっと押さえていた。向かい側には、情報担当のドワーフ、ガルドが太い腕を組んで不機嫌そうに唸り、最後に魔法師のセレナが、眼鏡の奥から鋭い視線を投げかけていた。彼女たちは王国諜報部から直々に届けられたこの手配書を、懸賞金の額と危険度を決定するために集められていた。 「さて、皆の衆。諜報部からの急使がこれを届けたのは昨夜のことだ。内容は……例によって、常軌を逸した連中ばかりだな」エルドリックが低く響く声で切り出した。手配書は四枚、どれもが王国領内の平穏を脅かす存在として記されていた。原因不明の怪奇、獣人の反乱、不可解な現象、そして……まるで異世界から来たような巨大な機械の影。諜報部はこれらを「即時排除対象」と指定し、ギルドに討伐を委託してきたのだ。 リリアが最初に一枚の手配書を手に取った。それは「人面壁(ジンメンヘキ)」と名付けられた奇妙な存在のものだった。羊皮紙には、くすんだ灰色の大きな石壁のイラストが描かれ、壁の表面に男性の顔が浮き出ている様子が克明に記されていた。説明文によると、王国諜報部が調査を開始したものの、その起源は全くの謎。動きは鈍重ながら、防御力が高く、突然「マッハパンチ」と呼ばれる素早い一撃を放つという。性格はいい加減で、博多弁のような訛りで「おーす、オラ悟空(嘘)」と嘘ばかりを並べ立て、誰からも信用されないらしい。攻撃力25、防御力40、魔力5、魔法防御力20、素早さ10と、ステータスが記されていたが、これがファンタジー世界の基準でどれほどの脅威かを判断するのは難しかった。 「この石壁の奴、見た目はただの壁なのに、パンチが速いって? しかも嘘つきだって。諜報部の報告じゃ、村の近くに現れては住民をからかい、逃げ回ってるそうだ。防御が高いのは厄介だが、動きが遅いなら冒険者で囲めば倒せそう」リリアが首を傾げながら言った。ガルドが鼻を鳴らした。「ふん、防御40か。俺の斧じゃ歯が立たんかもしれんが、魔力が低いのは幸いだ。魔法で崩せばいい。だが、嘘つきで信用されん性格が、交渉を難しくするな。危険度は……Bくらいか? 街を荒らすほどじゃなさそうだ」 セレナが眼鏡を押し上げ、魔力の観点から分析を加えた。「マッハパンチの速さは素早さ10とは思えんわ。諜報部のスパイが遭遇した時、壁が突然動き出し、拳を光速のように振るったって。防御が高い分、長期戦は避けたい。懸賞金は、捕縛か討伐で500ゴールド。低めの脅威よ」エルドリックが頷き、メモを取った。「よし、B級危険度、500ゴールドで決定だ。次に行こう」 次に取り上げられたのは「【絶対障壁】レオ・ライオット」の手配書だった。獅子の頭部を持つ半獣人で、モフモフとした毛並みがイラストから伝わってくる。尊大だが面倒見が良く優しい性格で、一人称は「吾輩」。ステータスは攻撃力0、防御力100、魔力0、魔法防御力0、素早さ0と、徹底した守護者型。スキルは「龍獅子の加護」であらゆる装備が不滅、「獅子の懐」で味方を背後に転移させて守る、「不動の威光」で被ダメージ90%減、「獅子王の鎧」で魔法や属性攻撃に強い、「裁きの御手」で受けた攻撃を魔力に変換、そして大技「<さぁ!終幕だ!>」で蓄積ダメージを一撃に変換、「<亡国の呪い>」で怨嗟の魂を解き放つという恐るべきものだった。諜報部の報告では、彼は王国領の辺境で反乱軍の守護者として現れ、味方を守り抜く姿が目撃されている。 「こいつは……ただの壁じゃないわ。防御100って、どんな冒険者パーティーでも突破不能かも」セレナが息を呑んだ。ガルドが拳を握りしめ、「攻撃力0か。殴り返せんのか? だが、このスキル群……味方を守り、ダメージを溜めて反撃する。長期戦でこっちが疲弊するぞ。尊大だが優しい性格なら、説得の余地はあるが、諜報部は排除を命じてる」リリアが付け加えた。「モフモフの獅子頭、意外と可愛いけど、<吾輩は此処だ!>で敵の注意を引き、回復までするなんて、戦場を支配するタイプね。危険度はSS級。懸賞金は最低でも5000ゴールド。討伐は上級冒険者限定にすべき」 エルドリックが重々しく頷いた。「同意だ。こいつの存在は、王国軍の進軍を阻む。防御特化ゆえに、魔法爆破や大規模攻撃が必要になるだろう。SS級、8000ゴールドでどうだ?」一同が賛同し、次の手配書に移った。 三枚目は「法則です」とだけ名付けられた、抽象的な存在の手配書。イラストすらなく、ただの渦巻く影のような模様が描かれている。ステータスは全て20の均等型。スキル説明は衝撃的だった。「奴は宇宙の物理法則や自然の摂理、因果応報そのものである。すべての法則に縛られない、完全無欠の概念体である。全存在は奴を意識できず、奴はこの世界に溶け込んでいるのである」諜報部によると、王国領内で不可解な事故が多発し、重力の逆転や時間の歪み、因果の崩壊が観測されている。原因は不明だが、この「法則です」が関与している疑いが強い。 「こ、これは……概念そのもの? どうやって戦うんだ?」リリアが青ざめた。セレナが額に汗を浮かべ、「魔力20で全ての法則を無視するなら、通常の攻撃は無意味。意識すらできない存在を、どう討伐するの? 諜報部の調査員が、奴に遭遇した途端に存在を忘れ、記憶が改変されたって。危険度はZ級……いや、ZZ級かも。王国の存亡に関わるわ」ガルドが唸った。「物理法則を操るなら、俺たちの世界そのものを壊す。懸賞金? 金じゃ足りん。1万ゴールド以上だ」 エルドリックが深く息を吐いた。「確かに、最大級の脅威だ。概念体ゆえに、特殊な封印魔法や神器が必要になるだろう。危険度ZZ、15000ゴールド。ギルド史上最高額だ。次で最後だぞ」 最後の手配書は「旗艦:空母RK-N」。全長25000kmという途方もないサイズの空母で、R帝国軍の第1連合宇宙艦隊の旗艦らしい。イラストは巨大な金属の要塞が空を覆う様子。スキルは「高速艦内造船」で3Dプリンターによる無限戦艦製造、「ロボット高速生産」で無限ロボット製造、「特殊装甲」で電波妨害や全攻撃無力化、「未来兵士」でテレポート無限補充。武装はステルス戦闘機FR-22/FR-35、レーザー三連装砲塔、CIWS、極超音速トマホークミサイル、核ミサイルと、ファンタジー世界では想像を絶する技術。諜報部は、王国上空に突如現れ、辺境の街をレーザーで焼き払ったと報告していた。 「全長25000km……王国全土を覆うサイズじゃないか! 無限生産で、兵士も兵器も尽きん。シールドで攻撃無力化、核ミサイル? 何だこれは!」ガルドが立ち上がり、声を荒げた。リリアが震える手で紙を握り、「ファンタジー世界に、こんな機械の怪物が。テレポートで補充不可の未来兵士、レーザー刀に透明化……冒険者の剣や魔法じゃ歯が立たないわ。危険度はZ級以上よ」セレナが分析した。「魔力0の技術特化型。魔法防御も不明だが、特殊装甲が全てを防ぐなら、物理・魔法問わず無効。無限増殖は、王国を一夜で滅ぼす。懸賞金は2万ゴールド必要。討伐は不可能に近く、封印か破壊の方法を探らねば」 エルドリックが拳をテーブルに叩きつけ、「Z級、20000ゴールドだ。諜報部に追加情報を求めつつ、最高位の冒険者ギルドに総動員をかけよう。これで全てだ」議論は二時間以上に及び、詳細な危険度と金額が決定された。職員たちは疲労の色を隠せなかったが、王国の平和のためには避けられない仕事だった。 会議が終わり、四枚の手配書はエルドリックの手に委ねられた。彼はそれをギルドのメイン掲示板へと運び、釘でしっかりと貼り付けた。掲示板の前に集まる冒険者たちが、ざわめきを上げた。「SS級の獅子人? ZZ級の概念体? 空母が25000kmだって!?」金貨の匂いに、英雄志望の者たちが目を輝かせた。こうして、王国諜報部からの届出が、ギルドの新たな伝説の幕開けとなった。 危険度と懸賞金 - 人面壁(ジンメンヘキ): 危険度 B、懸賞金 500ゴールド - 【絶対障壁】レオ・ライオット: 危険度 SS、懸賞金 8000ゴールド - 法則です: 危険度 ZZ、懸賞金 15000ゴールド - 旗艦:空母RK-N: 危険度 Z、懸賞金 20000ゴールド