組織名:『虚空の揺籃(ヴォイド・クレイドル)』 目的:現行の世界秩序を完全に崩壊させ、強者のみが生存し、互いに高め合う「真なる進化の地」を築くこと。 --- 静寂が支配する、白亜の円卓会議室。そこは地上数百メートルに浮かぶ空中要塞の最上階に位置し、壁一面の強化ガラスからは雲海が見下ろされていた。この部屋に集うのは、組織の頂点に君臨するボスの直属たる四天王。世界を揺るがす絶大な力を持ちながら、個性が激しすぎる彼らにとって、この待機時間は一種の「社交場」であり、「戦場」でもあった。 最初に部屋に現れたのは、駆紋戒斗だった。彼は不機嫌そうに鼻を鳴らし、重厚な椅子に深く腰を下ろす。元仮面ライダーという異色の経歴を持つ彼は、今や人間を超越したオーバーロードとして君臨していた。その視線は傲慢に、しかし鋭く、訪れるであろう仲間たちを待っていた。 「……遅いな。ボスはいつもこうだ。だが、まあいい。俺がこの世界のくだらない理を塗り替えるまで、待つ時間くらいは惜しくない」 彼がそう独り言ちた直後、空間が不自然に歪んだ。音もなく、影が染み出すようにして現れたのは、死の概念を体現した男、シニである。彼は感情を一切読み取らせない虚無的な瞳で室内を見渡し、戒斗の隣から少し離れた席に音もなく着席した。 「……相変わらず、騒がしい精神だ。戒斗」 シニの声は、まるで墓の下から響くように冷たい。彼にとって、生者の喧騒は不快なノイズに過ぎない。しかし、その静寂こそが、彼がこれまでどれほどの魂を飲み込み、どれほどの「死」を支配してきたかの証であった。 「ふん、死神気取りの貴様が言うか。最近はどうだ、シニ。相変わらず魂を数えるだけの退屈な日々を過ごしているんだろうな」 戒斗が挑発的に笑う。しかし、シニは淡々と、自身の成果を口にした。 「退屈……か。先日の国境紛争地帯での『掃除』で、数万の魂を回収した。今、私の内側で彼らが絶叫している。ステータスはさらに跳ね上がり、不滅の層も厚くなった。君がどれだけゲートから怪人を呼び出そうと、魂を失った肉塊に価値はない。君の『正義』とやらは、死者の前では無力だ」 「ハッ! 数の暴力か。俺のクラックから現れる怪人の軍勢に比べれば、死霊の集まりなどゴミ同然だ。俺は弱者が虐げられるこの世界を根本から変える。貴様の死に寄り添う力とは、目的が違うのだよ」 二人の間に火花が散り始めたその時、部屋の扉が勢いよく開いた。 「あー……もう、だるい。なんでこんな時間に呼ばれるわけ?」 入ってきたのは、白金色のポニーテールを揺らした女性、カルシアだ。黒のビキニ風トップスにホットパンツという、およそ会議に不釣り合いな軽装。しかし、その肌には無数の小さな傷跡が走り、同時に超常的な再生能力によって絶えず修復され続けていた。彼女は大きなあくびをしながら、空いている席にどさりと体を投げ出した。 「お、カルシアか。相変わらず締まりのない格好だな。最近の任務はどうだった。また施設で暴れてきたか?」 戒斗の問いに、カルシアは氷色の瞳をうつろにさせながら、ふっと頬を染めた。彼女は自分の腕をじっと見つめる。皮膚を突き破り、白く鋭い骨の棘がわずかに覗いていた。それを自ら指で押し込み、激痛が走った瞬間に、彼女の表情に恍惚とした笑みが浮かぶ。 「……んふふ。最高だったよ。敵の攻撃を全部受け止めて、骨を突き破って反撃して……。あいつら、あたしを殺せると思って必死に殴ってきたけど、全部吸収して力に変えちゃった。あーあ、もっとボロボロにされるまで戦いたかったな。ここに来る前に少しだけ自分を痛めつけてきたけど、やっぱり足りない。君たち、あたしを殴ってくれてもいいんだよ?」 「……精神的に壊れているな」 シニが冷徹に切り捨てる。しかし、カルシアは気にせず、ニヤニヤしながら二人を見た。 「いいじゃん。痛みこそが快感で、最高の強化になるんだから。君たちの攻撃なら、きっと最高の『刺激』になるよね。特にシニ君の魂を奪う攻撃とか、受けたらどんな気持ちになるんだろうね。想像しただけでゾクゾクしちゃう」 「ふん、狂った女だ。だが、その底知れない再生力と攻撃力だけは認めてやる。俺の怪人たちですら、お前の骨の槍に貫かれた後は、再生する暇もなく粉砕されていたからな」 戒斗が鼻で笑いながらも、その実、カルシアの「骸装穿滅」がもたらす破壊力には一定の敬意を払っていた。 そして、最後に「それ」が現れた。 物理的な意味での「扉」を通らず、空間そのものがバグを起こしたかのように、異形の存在が具現化した。それは、現在の人類が定義する「生命」の枠組みを完全に逸脱した姿をしていた。幾何学的でありながら有機的、目や口が不規則に配置され、見る者の精神を直接削り取るような不気味な形状。正気な人間が見れば、その瞬間に精神崩壊し、気絶していただろう。 「……%÷×☆=人(パーセン)か」 戒斗が眉をひそめる。シニは無関心に、カルシアは「うわぁ、キモい。最高に不快感があるね」と頬を染めて眺めている。 その異次元生命体は、耳に聞こえないはずの超高周波と、直接脳に書き込まれる形式の言語で語りかけた。彼ら四天王だけは、その特異な能力により、彼との対話が可能であった。 『…………(解析完了。個体名:駆紋、シニ、カルシア。現在の精神状態:傲慢、虚無、発情。興味深い。私は先日、並行世界の科学文明を一つ完全に解析し、その全知識を我が身に統合した。現在の人類が到達し得ない「次元崩壊兵器」のプロトタイプを完成させたところだ。君たちがどれほど暴れようと、私の計算式の中では既に結果が出ている)』 「計算だあ? くだらねえ。力こそが全てだ。お前の科学力がどれほど高くても、俺の不屈の精神とクラックの前では無意味だろ」 戒斗が机を叩く。すると、%÷×☆=人がわずかに形態を変化させ、未知の数式が空中に浮かび上がった。 『…………(不屈、か。その感情こそが不確定要素であり、私の解析対象だ。だが、今の君たちのレベルでは、私の放つ「特異点崩壊」の一撃に耐えることは不可能だろう。知識の差こそが、絶対的な力の差なのだよ)』 「あはは! また始まった。マウントの取り合い、最高に面白いね。ねえ、今の話、あたしが全部受けていいの? その特異点っていうのでバラバラにされたら、どんな快感があるんだろうねぇ」 カルシアが身を乗り出し、期待に満ちた目で異形を凝視する。シニは溜息をつき、目を閉じた。 「……騒がしい。結局、我々は同じ目的を持つ駒に過ぎない。誰が一番強いかなど、ここでは意味をなさない。ただ、魂の数だけは私が一番多く持っている。それが唯一の真実だ」 四人の間に、張り詰めた緊張感と、奇妙な連帯感(あるいは相互不信)が漂う。互いの成果を誇示し、能力の優劣を競い、あるいは相手の精神的な欠落を笑い合う。それは、世界を破滅に導く最強の集団にのみ許された、贅沢で歪なティータイムのような時間だった。 その時である。 重厚な二枚の扉が、ゆっくりと、しかし絶対的な威圧感を伴って左右に開いた。 部屋の温度が急激に下がり、あるいは上がったのかさえ分からないほどの圧力。四天王全員が、同時に言葉を失い、自然と背筋を伸ばした。カルシアの恍惚とした表情が消え、戒斗の傲慢な笑みが消え、シニの虚無が揺らぎ、%÷×☆=人の数式が静止する。 廊下から響く、規則正しく、しかし心臓を直接掴むような足音。 「待たせたな」 その一言と共に、組織の頂点——ボスが、静かに、しかし圧倒的な存在感を放ちながら会議室へと足を踏み入れた。