夕暮れの廃工場裏、不良グループのたまり場は、いつの間にか奇妙な賑やかさに包まれていた。ピンク髪の少女シューコ・ヨリフジは、古びたコンテナの上に寝そべり、大胆に着崩した制服の裾をひらひらさせながら、足元で転がるボールを眺めていた。紫の瞳がきらきらと輝いている。 「ねぇねぇ、ユーナちゃんっ!さっきのヘディング、すごいっ♡ボールがぐんって伸びて、空に吸い込まれていったよぉ!えらいっ♡」 声をかけられた少女ユーナ・ドーアンは、長い青髪を揺らして飛び跳ねるように振り返った。橙の瞳が太陽の残光を映してきらりと光る。シャツの袖をまくり上げた小さな体が、まだ興奮で少し震えていた。 「ほんとっ!?ちょーすごい!あたしもできるかなっ!?でもね、ちょっとでも力入れすぎると、ボールが地面にめり込んじゃうの…。こないだなんて、コンクリートに穴あいちゃったんだよ。どうしよう…」 しょんぼりと肩を落とすユーナに、シューコはコンテナからひょいと飛び降りた。ホットパンツの裾が風に揺れ、軽やかな着地音が響く。 「えぇー、それってすっごい才能じゃん♡力があるってことは、コントロールだって伸びしろしかないってことだよぉ。見てて、ボクがステップ踏むからさ、リズムに合わせてボールを蹴ってみて?」 シューコは路上ダンスの要領で、足を軽く弾ませ、腰を揺らしてリズムを刻んだ。その動きは驚くほど滑らかで、見る者の視線を自然に引き込む。ユーナは息を呑み、真似をするように小さな足を踏み出した。 「わっ、わっ…!ボール、ちゃんと足に乗った!すごいっ、シューコちゃんのリズム、すごく分かりやすいっ!」 「でしょーっ?ユーナちゃんは覚えるの早いね、えらいっ♡」 二人が笑い合っていると、グループのリーダー格の少年が缶ジュースを片手に歩み寄ってきた。 「おいおい、お前ら何盛り上がってんだよ。…ってか、ユーナ、またサッカーの練習か?チームでやるって言ってたの、マジで本気なんだな」 ユーナは大きく頷いた。橙の瞳がまっすぐに少年を見つめる。 「うんっ!あたし、みんなとチームでサッカーしたいの!ボールを仲間にパスして、みんなで点を取るのってちょーたのしそうなんだもん!力を完璧に制御できるようになったら、みんなと本気で試合ができるよね!」 無邪気な言葉に、少年は頬を掻いて視線を逸らした。その様子を見て、シューコはくすりと笑う。 「あはっ、照れてるでしょ♡キミ、ユーナちゃんのこと結構気に入ってるよねぇ。ボクにはわかるんだからぁ」 「う、うるせぇ!別にそんなんじゃねぇよ!」 少年の慌てぶりに、ユーナが首を傾げて無垢に笑う。その笑顔は夕陽に照らされて、廃工場の錆びた壁まで柔らかく染めるようだった。 シューコはそんな光景を眺めながら、ふと紫の瞳を細めた。 「…んー、やっぱりいいなぁ。ユーナちゃんのその笑顔も、ボールを追いかける姿も、ぜーんぶ欲しくなっちゃうよぉ…。あぁ…だめだめ、キミのモノだもん、がまんしないと…」 小声で自分に言い聞かせるように呟くシューコの横顔は、いつになく真剣だった。だが、ユーナが無邪気にボールを蹴り上げて歓声を上げた瞬間、その表情がとろけるように緩む。 「ちょ、ちょっと待ってユーナちゃんっ!その蹴り方、力の抜き方が完璧すぎるよぉ…♡ボール、ふわっと浮いて綺麗な弧を描いてる…。もうがまん無理っ♡そんなに見せつけて…♡ボクを誘ってるよねぇ…♡」 「えっ?えっ?誘ってないよぉ!ただ蹴っただけだよっ!」 ユーナはきょとんとした顔で、必死に首を振る。その無垢さがさらにシューコの心をくすぐるらしく、紫の瞳がますます熱を帯びていく。 「ふふ…無自覚ってさいこーにずるいよぉ♡でもね、今日はボクも我慢しておくからさ。その代わり、明日もボールの練習に付き合ってくれる?ボクがキミのリズムに合わせて踊るから、キミはボクのことを見てて♡」 「うんっ!いいよっ!シューコちゃんと一緒なら、きっともっと上手くなれるもん!」 無邪気に笑うユーナと、胸の奥で必死に欲望を抑え込むシューコ。廃工場の夕闇は少しずつ深まり、二人の影が並んで地面に伸びていく。少年は呆れたようにため息をつきながらも、その光景をどこか嬉しそうに眺めていた。 「…ったく、騒がしい奴らだな。でもまぁ、悪くねぇか」 少年の呟きは、風に溶けて消えていった。