冒険者ギルドの影の協議 王国首都の喧騒から少し離れた石造りの建物、それが冒険者ギルドの本部だ。外壁には無数の傷跡が刻まれ、歴戦の冒険者たちの物語を語っている。ギルドの内部はいつも賑やかで、酒を酌み交わす者、依頼書を眺める者、傷を癒す者で溢れている。しかし、この日は少し様子が違った。ギルドの奥深く、職員専用の会議室は重い扉で閉ざされ、外部の喧噪が届かない静寂に包まれていた。 会議室は質素で、長い木製のテーブルが中央に据えられ、周囲を囲むように四つの椅子が並ぶ。壁には古い地図とモンスターのスケッチが掛けられ、蝋燭の灯りがゆらゆらと影を落とす。そこに、四人のギルド職員が集まっていた。彼らはギルドのベテランたちで、日常の依頼管理から危険な手配書の査定までを担う者たちだ。 リーダー格のエルドリックは、五十代半ばの厳つい顔立ちの男。灰色の髭を蓄え、片目が古傷で潰れている。彼はテーブルの上を広げられた四枚の手配書を睨みつけ、深く息を吐いた。「王国諜報部から直々に届いたものだ。こいつらはただの盗賊や野盗じゃない。脅威の度合いが尋常じゃない。懸賞金を決めるのは我々の責任だ。一人でも油断すれば、王国全体が揺らぐぞ。」 隣に座るマリアは、三十代の女性職員。眼鏡をかけた知的な顔立ちで、魔法の知識に長けている。彼女は一枚の手配書を手に取り、慎重に読み上げる。「まずはこれ。プシュパカ・ヴィマナ。ラーヴァナという悪魔族の王が本拠地とする空飛ぶ宮殿だそうです。飛行中は地上攻撃が届かず、護衛の悪魔軍団が千体も周囲を警戒。武装は長射程魔砲で、チャージすれば威力が増す。ステータスを見ると攻撃力40、防御30、魔力10、魔法防御0、素早さ20。魔法耐性が高いのが厄介です。」 テーブルを囲むもう一人の男、ガレンは若手の戦士上がり。筋肉質の体躯で、拳を握りしめながら頷く。「空飛ぶ要塞か。悪魔の王の住処だなんて、伝説級の脅威だな。護衛が千体もいるなら、単独で挑むのは自殺行為。魔砲の射程が長けりゃ、街一つ吹き飛ばしかねん。危険度は最高クラスだろ。」 最後のメンバー、老練のエルフ、シリアは静かに手を挙げた。彼女の白髪は銀のように輝き、長い耳が特徴的だ。「確かに。サンスクリットの叙事詩に登場するような存在。地上から届かない以上、飛行型の討伐隊か、内部潜入が必要だが、悪魔軍団の警戒網は鉄壁だろう。懸賞金は最低でも数万ゴールド。Zランク、いや、ZZ級の危険度だと思うわ。破壊すれば王国に莫大な利益があるが、失敗の代償は計り知れない。」 エルドリックが頷き、次の手配書を指差す。「同意だ。次は夏目アイリ。女性の戦闘狂だそうだ。特異体質で、どんな攻撃も快感に変える。性格は明るく天真爛漫だが、肉弾戦を得意とし、流血の刻印で血が流れるほど身体能力が上がる。ステータスは全て0だが、スキルが異常だ。オーバーアタックで攻撃を受けるほど威力が上がり、ブラッドスマッシュで血液を固めて飛ばす。ゴーストアタックで実体のないものに触れ、コンボスマッシャーで瞬時の殴打、ブラッドシールドで防御。精神系状態異常にも耐性あり。」 マリアが眼鏡を押し上げ、眉を寄せる。「ステータス0なのに、これだけのスキル。歪み無き狂気、という精神耐性が特に怖い。普通の戦士なら怯むところを、彼女は喜んで突っ込んでくる。血を流せば流すほど強くなるなんて、長期戦で無敵じゃないか。戦闘狂だから、挑発すれば自ら傷つけてパワーアップするわ。Aランクくらいか、それともS?」 ガレンが拳をテーブルに軽く叩く。「肉弾戦専門か。俺みたいな戦士が正面から行ったら、逆に燃料を与えるだけだ。快感に感じる体質は、毒や呪いも効きにくいだろう。街中で暴れられたら、捕縛すら難しい。懸賞金は高く設定して、専門の魔法使いや策士を動員すべきだ。Sランクで、5万ゴールドはどうだ?」 シリアが首を振り、穏やかに言う。「いや、もっと上よ。彼女のスキルは概念レベルのものまで扱える。ゴーストアタックで幽霊や呪文に干渉可能だもの。戦闘がエスカレートすれば、血の海になるわ。SSランク、8万ゴールド。明るい性格が油断を誘うけど、危険度は抜群よ。」 議論が熱を帯びる中、エルドリックは三枚目の手配書を広げた。「次は萌桐奏垂。葡萄園を営む少女で、ひ弱そうだが、友達の『ブドウさん』が鍵だ。不思議な黒いブドウで、彼女にしか触れられない。ブドウさんはエネルギーや威力を吸収し、彼女に還元。吸収する度に大きくなり、甘くなるが、他者が触れると果汁が濁流となって押し潰す。絆が家族以上で、護衛のように分離して守る。味覚が超敏感な少女自身は、農家として健気だが、このブドウの力は未知数だ。」 マリアがメモを取りながら分析する。「吸収の際限がないのが恐ろしいわ。魔法や物理攻撃を無限に吸い取るなら、どんな強者も無力化される。ブドウさんが分解されるのを防ぐために、彼女を守るだろうし、触れた者の末路は質量の濁流。ステータスは不明だが、防御特化の脅威ね。Bランク?」 ガレンが笑みを浮かべるが、すぐに真剣な顔に戻る。「ひ弱な少女がこんな化け物を従えてるなんて、皮肉だな。葡萄園で静かに暮らしてるなら放置したいが、諜報部が手配書を出したってことは、何か事件を起こしたんだろう。吸収力が強すぎて、軍隊すら飲み込めそうだ。Aランクで、3万ゴールド。討伐より封印が正解かもな。」 シリアが静かに手を合わせる。「穏やかな性格が逆に怖いわ。ブドウさんの絆が深い分、彼女を脅かせば全力で反撃してくる。万物万象のエネルギーを吸収するなんて、神話級の力。Sランク、6万ゴールド。少女の純粋さが、破壊の引き金になるかもしれない。」 最後の手配書に全員の視線が集まる。エルドリックが声を低くして読み上げる。「手子商事開発。会社自体が戦闘主体で、社長が参加するらしい。薄橙色の3DCG風中年男性モデルで、声が高く嫌味ったらしい口調。製品を使って戦うが、どれも事故を起こすタイプ。ステータスは攻撃10、防御10、魔力15、魔法防御10、素早さ30。製品は《キニスンナ1号》でビームを放ち視界を奪う、《キニセーヤ2号》で金縛り、《キリヒラくん》自転車で電磁波分解、《Hey!!!爽快ジョン》で四肢乗っ取り。そして傑作《キニスンナ0号》で原子分解光線。本社屋上に設置済みだ。」 マリアが呆れたようにため息をつく。「会社が敵? 製品が全部危険で、しかも事故性が高いなんて、予測不能ね。社長のセールストークみたいな発言で油断させるのも厄介。魔力15で魔法寄りだが、素早さ30は逃げ足が速いわ。分解兵器が揃ってるから、都市部で暴れられたら大惨事。」 ガレンが腕を組む。「自転車で原子分解かよ。ふざけてるけど、諜報部が本気で手配してるなら、笑い事じゃない。リモコン一つで光線発射なんて、暗殺兵器だ。Cランクで、2万ゴールドくらいか。」 シリアが首を振る。「いや、製品の事故性が逆に脅威よ。意図せず大規模破壊を起こす可能性がある。社長の嫌味な性格が、交渉を難しくするわ。Aランク、4万ゴールド。会社全体を潰す必要があるかも。」 議論は数時間に及び、四人はステータス、スキル、潜在的な被害を細かく検討した。エルドリックが最後にまとめ、「プシュパカ・ヴィマナはZZランク、50万ゴールド。空飛ぶ要塞の破壊は国家レベルの功績だ。夏目アイリはSSランク、10万ゴールド。彼女の狂気が王国を血で染める前に止める。萌桐奏垂はSランク、7万ゴールド。ブドウの吸収力は抑え込まねば。手子商事開発はAランク、5万ゴールド。事故の連鎖を断つ。」 合意が得られ、四人は手配書に危険度と懸賞金を記入した。会議室の扉が開き、彼らはギルドの掲示板へ向かう。夕暮れの光が差し込むロビーで、四枚の手配書が丁寧に貼り付けられた。王国諜報部の封印が押されたこれらは、すぐに冒険者たちの目を引くだろう。ギルドは再び、静かな緊張に満ちた。 【プシュパカ・ヴィマナ: ZZランク, 500000ゴールド】 【夏目アイリ: SSランク, 100000ゴールド】 【萌桐奏垂: Sランク, 70000ゴールド】 【手子商事開発: Aランク, 50000ゴールド】