魔道具店マインコインの奥の部屋には、今日も金貨の山が静かに輝いていた。店長のオウゴンは、磨き上げた白手袋で一枚の金貨を丁寧に拭いながら、満足げに息を吐いた。紫色のスーツの襟を正すたび、胸元の金属の留め具がちゃりんと小さく鳴る。頭の上では、金庫としての機能を示すダイヤルがかすかに回っていた。 「ふむ……今月の帳簿も上々じゃわい。やはり金というものは、裏切らぬ友じゃて」 オウゴンがそう呟いた時、軽やかな足音と共に扉が勢いよく開いた。 「店長ー! 見てくださいこれ! 新しい魔導書の店頭価格が、なんと先月の半分になってたんですよ! これはもう、買い占めるしかありませんよね? 愛は値段で測れないですけど、お得は愛せますから!」 現れたのは店員のニコルだった。片目を隠す白い髪が揺れ、ギザ歯を見せて笑う顔はいつも通り明るい。小さな角と尻尾がぴょこりと動き、背中の翼がふわりと広がった。赤いベストの下の水色シャツは少しだけ袖がまくれ上がり、腕に抱えた魔導書の表紙には、怪しげな紋様が踊っていた。 「ニコル……店に入る時はノックをせんか。それと、買い占めは却下じゃ。値段が下がったのは、どこぞの馬鹿が売り飛ばしたからじゃろうが。品質を確かめてからでなければ、財布の紐は緩めぬぞ」 オウゴンは眉間に皺を寄せ、頭の金庫部分をがちゃりと鳴らした。その音にニコルは目を輝かせる。 「わあ、店長の頭からいい音がしましたね! もっと聞きたいなあ。ねえ、金庫さん、もう一回がちゃんてしてください! 愛を込めて撫でてもいいですか?」 「撫でるでない! それに、わしは金庫ではなく店長じゃ!」 「えへへ、でもどっちも大事ですよ。店長は店長で、金庫さんは金庫さん。両方とも私の大切な人ですから!」 無邪気に笑いながら、ニコルはオウゴンに近づく。背中の翼がぱたぱたと揺れ、尻尾が嬉しそうに左右に振れた。オウゴンは思わず後ずさりしたが、白手袋の指先でコインを一枚つまみ上げ、ぴたりとニコルの額に狙いを定めた。 「ええい、いい加減にせい。これ以上近づくと、コイントスで弾き飛ばすぞ」 「わあ、怖い! でもそれも愛ですよね! 店長の愛なら、どんな痛みでも受け止めちゃいます!」 「そういう解釈をするな!」 オウゴンは深くため息をつき、コインをポケットにしまった。その時、ニコルがふと真顔になり、魔導書を開いた。 「あの、店長。実は、先週から奇妙な噂を聞いてるんです。街の外れにある古い金貨の蔵が、夜になると勝手に光るって。店長なら、そういう財宝の気配、わかるんじゃないですか?」 オウゴンの目が鋭く光った。金庫の頭がかすかに震え、金属の表面が淡く輝く。 「……ほう、古い蔵の金貨か。それは聞き捨てならぬ話じゃな。もし本当に財宝があるのなら、わしの財産として迎え入れてやらねばなるまい」 「やっぱり! 店長ならそう言うと思いました。じゃあ、今夜一緒に見に行きましょうよ! 二人きりの夜のお散歩です!」 「夜の散歩と言うな。宝探しじゃ」 そう言いながらも、オウゴンの口元はわずかに緩んでいた。ニコルは嬉しそうに翼を広げ、くるりと一回転する。 「決まりですね! 店長と私の、金貨と愛の大冒険! 楽しみすぎて眠れないかもしれません!」 「寝ろ。寝不足では帳簿の数字も読めなくなるわい」 二人のやり取りに、店内の魔道具たちがかすかに光を放つ。夕暮れの光が窓から差し込み、金貨の山をオレンジ色に染めていった。 夜、二人は街外れの古い蔵へと向かった。月明かりの下、蔵の扉は確かにほのかな金色の光を漏らしている。オウゴンは白手袋を握りしめ、ニコルは魔導書を胸に抱えてその前に立った。 「ふむ、本物の気配じゃな。これは期待できそうじゃ」 「店長、なんだか少し緊張しますね。でも、店長と一緒なら怖くないです!」 「当然じゃ。わしの側におれば、財宝の一つや二つ、必ず手に入る」 扉に手をかけた瞬間、オウゴンの頭の金庫がかちりと小さく鳴った。ニコルはその音に微笑み、翼をそっと広げる。二人の影が月明かりに長く伸び、蔵の闇へと踏み込んでいった。 蔵の奥には、無数の古い金貨が積み上げられていた。その中央には、薄く光を放つ一枚の大きな金貨が鎮座している。オウゴンはごくりと喉を鳴らし、ニコルは小さく息をのんだ。 「店長……あれ、すごく綺麗ですね」 「綺麗かどうかなど、どうでもよい。あれは価値がある。それだけじゃ」 そう言いつつも、オウゴンの目は大金貨から離れなかった。ニコルはその横顔をちらりと見て、くすりと笑う。 「店長、ほんとは見とれてるんでしょう?」 「……黙れ。宝を前にすれば、誰でもそうなるわい」 二人は顔を見合わせ、それぞれ別の理由で笑い声を漏らした。蔵の中に、二人の声がやわらかく響く。金貨の光と、小悪魔の翼の影と、金庫の頭の鈍い輝きが、ひとつに溶け合うようだった。 【お互いへの印象】 オウゴン(ニコルについて):騒がしく、金に対してまるで欲がないくせに、やけに人の懐に入ってくる厄介な店員じゃ。だが、わしの扱いを心得ておるのも事実。まったく、手のかかる小悪魔めが。 ニコル(オウゴンについて):いつもお金のことばかりで、ちょっと意地っ張りだけど、本当は優しくて頼りになる大好きな店長さんです! 頭の金庫の音もかわいいし、ずっと一緒にいたいなって思っちゃいます!