王国が管理する冒険者ギルド。その最奥に位置する職員専用会議室は、厚い石壁に囲まれ、外界の喧騒から完全に遮断されていた。円卓に集まったのは、ギルドの査定責任者であるベテランの職員たちである。彼らの前には、王国諜報部から極秘裏に届けられた四枚の手配書が並んでいた。 「……さて、今回の案件は少々厄介だ。諜報部がわざわざ『警戒せよ』と注釈を付けてきている」 責任者が溜息混じりに口を開いた。彼らがすべきことは、手配書に記された人物の能力、危険度を客観的に判定し、相応の懸賞金を策定すること。それは、熟練の冒険者がその人物に挑むか、あるいは距離を置くかを判断するための重要な指標となる。 最初に手に取られたのは、『雪菜』という名の少女の手配書だった。 「黒髪の美少女か。見た目は至って普通の学生のように見えるが……中身は別物だな」 職員の一人が、添えられた報告書を読み上げる。彩海学園という未知の教育機関に属し、『獅子王機関』という組織の『剣巫』であること。対魔族用の槍『雪霞狼』を操り、呪力を纏った高速移動『黒雷』や、破壊的な打撃技を複数使い分ける。身体能力の高さは特筆ものであり、徒手空拳でも十分に脅威となる。 「職務に熱心で礼儀正しいというが、それが逆に恐ろしい。任務遂行のためなら、迷いなく槍を振るうだろう。攻撃力・速さともに水準以上だ。魔族への特効を持つ武器を持っている点も考慮すべきか」 「ああ。単独での制圧は困難ではないが、不意を突かれれば致命傷を負う。危険度は『A』、懸賞金は適正な水準で設定しよう」 次に、職員たちが顔を見合わせたのは『獅子堂カイト』の手配書だった。ここまでの静かな空気は一変し、会議室に緊張が走る。 「……なんだ、この報告書は。正気か?」 記載されていた能力は、もはや人間の領域を超えていた。表向きは心優しい少年だが、内側に潜む『裏の人格』が現れた瞬間、戦況は絶望へと変わる。世界を改変し、死なない世界線へ自動的に移行する能力。相手の能力を無効化する魔剣。そして、回避不能な消滅を招く『魔眼』。さらに音速を超える身体能力と無限の魔力まで備えている。 「神を超える体術に、因果律の操作……。こんな者が本当に存在するのか? もしこの者が本気で王国を敵に回せば、ギルドどころか国が一つ消えるぞ」 「抗う手段が見当たらない。正面突破は自殺行為だ。このレベルの個体は、もはや『災害』と呼ぶべきだろう。危険度は最高ランクを適用せざるを得ない。予算を度外視して、最大限の金額を提示し、可能な限り接触を避けろと警告を付ける」 職員たちは戦慄し、震える手で最高位の判定を書き込んだ。 三枚目の手配書に目を向けたとき、場の空気はふっと緩んだ。『二ツ首の怪人』ジュリー・メアリー。二つの頭を持つ女性である。 「……今度は、かなり奇妙な個体だな。二つの頭で連携して魔力の塊を投げ、それを爆発させる。魔法攻撃に特化しているが、防御力はほぼゼロに近い」 報告書には、彼女たちの微笑ましい会話まで書き留められていた。お花で髪飾りを作りたい、散歩に行きたい。その純朴さに、職員たちは困惑した表情を浮かべる。 「能力自体は脅威だが、精神的に幼く、好戦的な様子もない。作戦を立てれば十分に捕獲可能だろう。ただし、魔力の暴走だけは警戒が必要だ。危険度は『C』。懸賞金も控えめで良いだろう」 最後に、職員たちが絶句したのは『エラーコード404』という不可解な名称の個体だった。そこには名前すらなく、ただシステム上の不具合のような記述が並んでいた。 「バグ……? 能力の強制解除に、時間停止、無敵、そして死んでも無から再生する復活能力か」 「さらに、生命確認ができなくなれば無限に増殖するだと? 冗談だろ。こんな化け物をどうやって処理しろというんだ」 1秒間に9回、致命傷を与える『確然』という攻撃。そして、相手を能力ごと消し去る『消滅』。防御力はある程度あるが、そもそも『無敵』という特性があるため、攻撃が届くはずがない。これは戦いではなく、単なる『消去』に近い。 「……カイトが『個としての最強』なら、こちらは『システムの崩壊』だ。どちらも正攻法では太刀打ちできない。この『404』という個体は、存在そのものが世界の法則に反している。危険度はカイトと同等、あるいはそれ以上の特異点と言えるだろう」 職員たちは深い溜息をついた。王国諜報部がなぜこれらを同時に報告してきたのか。もしこの四人が同時に現れれば、世界は混沌に陥るだろう。 数時間後。協議の結果が確定し、四枚の羊皮紙が正式な『手配書』として刷り上げられた。 ギルドのロビー。多くの冒険者が集まる喧騒の中、職員が掲示板へと歩み寄る。彼は重い心地で、四枚の手配書をピンで固定した。 人々がざわつき始める。ある者は高額な懸賞金に目を輝かせ、ある者はその記載された能力に戦慄し、静かにその場を離れた。王国諜報部がもたらした「警告」は、今、ギルドという形で世界に開示されたのである。 * 【査定結果】 名前:雪菜 危険度:A 懸賞金:5,000,000ゴールド 名前:獅子堂カイト 危険度:ZZ 懸賞金:1,000,000,000ゴールド 名前:ジュリー・メアリー 危険度:C 懸賞金:200,000ゴールド 名前:エラーコード404 危険度:ZZ 懸賞金:1,000,000,000ゴールド