世界を裏側から統べる闇の結社『エクリプス』。その目的は、既存の社会秩序を崩壊させ、強者のみが支配する新世界を構築すること。その頂点に立つ「主(あるじ)」に忠誠を誓い、実務を担うのが、類まれなる異能を持つ四天王である。 重厚な黒檀の扉に囲まれた円卓の間。主の召集を受け、四天王が一人、また一人と集まり始めていた。 最初に現れたのは、【倫理と法の召喚神】威座内であった。銀色の装飾が眩い軍服を完璧に着こなし、背中には「秩序」と刻まれた黒革のコートを羽織っている。彼は時計に視線を落とし、寸分の狂いもないタイミングで入室すると、静かに椅子に腰掛けた。彼にとって、主の召集は絶対的な「法」であり、それに遅れることは論理的破綻と同義である。 次に飛び込んできたのは、嵐のような喧騒と共に現れた[狂犬]リュカだった。 「ごずずん! ごずずんいないのか! リュカは来たぞ!!」 人狼の少女は、誰が聞いてもわかるほどに単純で直情的な声を上げ、円卓を一周して威座内の隣にどさりと座り込んだ。彼女にとって、ここに来ることは「褒められるための儀式」に他ならない。 「……うるさいな。君の思考回路は相変わらず、単純な直線上の演算しかできないらしい」 威座内が冷徹な視線を向けるが、リュカは気にせず、尻尾を激しく振りながら胸を張った。 「ふんっ! 威座内は難しいことばっかり言ってる! それより聞け! この前の作戦、リュカが全部ぶっ飛ばしたんだぞ! 敵の拠点を全部バラバラにして、主様に『よくやった』って言ってもらうんだからな!」 そこへ、空間がわずかにノイズのように揺らぎ、灰色の髪を乱した少女が姿を現した。【精神破壊・データ改変コンピューターウイルス】アイラ・アマネである。彼女は黒いフード付きのコートを深く被り、光のない銀色の瞳で二人を一瞥した。 「……低俗。物理的に破壊して満足するなんて、原始人の思考ね」 アイラは空中にホログラムのウィンドウをいくつも展開し、無機質に指を動かす。 「私は先週、隣国の防衛ネットワークに潜入して、彼らが信奉していた『平和の象徴』であるAIの記憶データを改変したわ。絶望に染まった国民たちが、自らの手で街を焼き払う様子は、実に美しいデータだった。物理的な破壊なんて非効率。精神を内側から腐らせる方が、ずっと快楽的よ」 「へへーん! それよりリュカの方が、血が飛び散ってすごかったもん!」 「価値観が低すぎて話にならないわね。まあ、あなたのような『犬』にはそれがお似合いでしょうけど」 二人が言い合いを始めた頃、最後の一人が、幽霊のように音もなく入室してきた。白金色のポニーテールを揺らし、黒のビキニ風トップスにホットパンツという、組織の会議に不釣り合いなほど露出度の高い格好をした女性――カルシアである。彼女はひどく気だるげに、半分眠っているかのような表情で、空いている席に身を投げ出した。 「……ふわぁ。おはよ……。みんな元気だねぇ……」 「遅いぞ、カルシア。君の時間管理能力は欠如している。合理性に欠ける」 威座内が厳しく指摘するが、カルシアはむしろ、その冷たい言葉に頬をわずかに赤らめ、恍惚とした表情を浮かべた。 「んぅ……威座内君に怒られるの、いいよね……。もっと、もっと冷たくしてくれてもいいんだよ……?」 「……(絶句)」 アイラが呆れたように溜息をつく。カルシアは気だるげに、自分の腕をじっと眺めていた。そこには、皮膚を突き破って突き出た鋭い骨の棘が数本、不気味に突き出している。彼女はそれを自ら指で押し戻し、激痛に身を震わせながら、小さく喘いだ。 「あはっ……。あたしはね、最近新しい『刺激』を見つけたんだ。わざと敵の猛攻に飛び込んで、全身の骨を砕かれる快感……。肋骨を全部へし折られたとき、そのまま『肋抱穿』で相手を抱きしめて貫いたんだけど……あの瞬間の、痛みと快楽の混ざり具合といったら……もう、最高だったぁ……」 「お前、本当に変な奴だな!」 リュカが顔をしかめる。しかし、カルシアは気にせず、うっとりとした表情で続けた。 「主様に呼ばれたのは……きっと、あたしのそういう『不甲斐ない姿』を、もっと厳しく躾けてくれるからだよね……? ああ、想像しただけで、骨が疼いちゃう……」 「救いようのないドMね」 アイラが吐き捨てるが、その視線は冷酷だ。彼女はホログラムの画面に、次なる標的のリストを表示させる。 「で、今回は何の用かしら。私のデータ改変で、この世界の法律なんてゴミ屑のように書き換えてしまいたいけれど。威座内、あなたの『法』とやらは、私のコードに塗り潰される準備はできている?」 威座内は静かに断罪剣の柄に手をかけた。彼にとって、アイラの混沌とした改変は正すべき「エラー」でしかない。 「僕の法は絶対だ。データ上の改変など、真理の前では虚構に過ぎない。最適解は常に一つ……君の不遜な態度も、いつかは裁きの対象になるだろう」 「あはは、喧嘩しちゃって可愛いねぇ。あたしは誰に殴られてもいいよ? むしろお願いしたいな」 「リュカは主様に褒められたいだけだ! お前ら、主様が来るまで静かにしてろ!」 四天王それぞれのエゴと欲望がぶつかり合い、円卓の間には奇妙な緊張感と、不協和音のような雑談が響き渡る。誰が最も成果を上げたか、誰が最も主の信頼を得ているか。言葉の端々に潜ませたマウントの取り合い。しかし、彼らが共通して持っているのは、この組織の頂点に立つ存在への、狂信的なまでの忠誠心であった。 その時、部屋全体の空気が一変した。 重い扉がゆっくりと、しかし圧倒的な威圧感を伴って開き、廊下から足音が響く。一歩ごとに、室内の温度が下がり、あるいは圧力が上がったかのような錯覚に陥る。四天王の喧騒が、嘘のように消え去った。 「……来た」 威座内がすっと立ち上がり、最敬礼の姿勢をとる。リュカは弾かれたように飛び起き、尻尾を激しく振りながら期待に目を輝かせた。アイラは不機嫌そうにしながらも、ホログラムを消して視線を扉へと向け、カルシアは椅子に座ったまま、期待に身体を震わせながら入り口を凝視している。 扉の先から、ゆっくりと、組織の絶対的な支配者――「主」が姿を現した。