第一試合:市街地――高強度遮蔽 「時化」の巨体が、崩れかけたビル群の谷間に立つ。手には、機体ほどもある錨と、幾重にも連なる鎖。ロバーツは鎖を引き、錨の重さを確かめるように一度だけ地面を鳴らした。 向かいの「フレイ」は、紅い放熱板をひらいて宙へ浮かぶ。両手には極熱の二刀。獄鱗が蝶の鱗粉めいて舞い、熱に揺れる空気が視界を歪ませた。 ロバーツは相手を見失わない。観察眼で熱の揺らぎを追い、鎖を低く走らせる。錨が路面を削りながら横へ薙ぎ、ビルの柱を砕いた。重い破片が通路を塞ぎ、フレイの移動先を限定する。だが、赫い蝶は幻影を幾つも残し、視空間上の瞬間移動で攻撃線を抜けた。二刀が時化の肩をかすめ、灼熱が装甲を赤く染める。 ロバーツは錨を引き戻す勢いを利用し、鎖をビルの骨組みに絡めた。次の投擲は直線ではない。錨は壁面を迂回して上階から振り下ろされ、退路にいた幻影を消し飛ばす。フレイは本体を横へ移し、致命打を紙一重で避ける。衝撃でビルの一角が崩れ、粉塵が視界を覆った。 粉塵の中、フレイは獄鱗を濃く散らして熱の幕を作り、四方から斬り込む。時化の装甲には切り傷が増え、腕の動きが鈍る。ロバーツは鎖を振り回して間合いを保つが、空中を変則的に舞う相手を一撃で捉えるのは難しい。鎖の環が壁に引っかかるたび、フレイはその隙を見逃さず、二刀を振るった。 しかし市街地の遮蔽物は、フレイの幻影にも完全な自由を与えない。崩れた壁や柱は軌道を狭め、熱の揺らぎを複雑に反射する。ロバーツは錨を投げず、鎖を建物の残骸へ何度も打ちつけた。瓦礫が跳ね、空中へ散る。その中で本体の位置を見定めると、鎖を一気に巻き取って錨を斜め上へ振り上げた。 フレイは瞬間移動で錨の直撃を避けた。だが、避けた先にはロバーツが先に張っていた鎖がある。鎖が脚部に絡み、飛行の姿勢を崩した。赫い蝶は二刀で鎖を断とうとする。刃は環を焼き切りかけるが、ロバーツは錨を反対側へ引いて機体ごと引き寄せた。 フレイは再び蜃気楼を重ね、拘束を解こうとする。ロバーツは幻影を追わず、鎖の張力と錨の揺れだけを頼りに引き込む。錨の巨大な質量が、回避のために移った本体の進路へ横薙ぎに迫った。フレイは身をひねって刃を交差させるが、衝撃を受け止めきれない。機体は瓦礫に叩きつけられ、放熱板が折れ、二刀の炎が弱まった。 赫い蝶は立ち上がろうとする。ロバーツは鎖を締め、錨を機体の胴へ押し当てる。フレイは一度だけ刃を振るうが、損傷した姿勢では届かない。錨が装甲を押し潰し、紅い光が消えた。 第一試合の勝者:チームA 第二試合:衛星――低重力 灰色の地面に、二機の影が長く伸びる。空気のない衛星では、炎の揺らめきも音も地上とは違う。フレイの獄鱗は閃光と熱を放ちながら漂い、低重力の中で薄く広がった。時化は足場を蹴るだけで大きく跳び、錨の質量に振り回されぬよう鎖を手繰る。 ロバーツはまず鎖を伸ばした。錨が遠くへ飛び、低重力で長い弧を描く。通常なら避けにくい広範囲の軌道だが、赫い蝶は蜃気楼で視空間を移り、刃の届かない位置へ抜ける。錨は地面を割り、石片を浮かせた。 フレイはその石片を遮蔽物にせず、姿勢を変えるための足場として利用した。放熱板が開閉し、噴射で軌道を細かく調整する。二刀が時化の腕と胸部を交互に狙い、熱が装甲を侵す。ロバーツは鎖を回して接近を防ぐが、相手は刃を当てる直前に位置を変える。反撃の錨は空を切り、鎖の反動が時化の巨体を回転させた。 低重力はアンカーの長い振り回しに大きな威力を与える一方、振り終わりの制御を難しくする。ロバーツは鎖を短く持ち替え、投擲を止めて錨を盾のように構えた。フレイは真正面から斬らず、斜め後方へ移動して関節部を狙う。時化は一撃を受けるたびに機体を回し、錨の側面で刃を受け流した。 赫い蝶は戦況に適応し、錨の軌道を見切って攻撃の間を詰める。獄鱗の幻影が幾重にも重なり、時化の周囲を赤く染めた。ロバーツは本体を捉えきれず、左腕に深い損傷を負う。鎖を握る力が弱まり、錨の先端が地面へ垂れた。 だがロバーツは焦らなかった。錨を投げる代わりに、鎖の一端を自機の胴体へ巻き、もう一端を地面の亀裂へ固定する。低重力では、機体の移動も鎖の張力も長く持続する。フレイが背後へ回り込もうとした瞬間、ロバーツは固定点を支点にして時化を大きく振り回した。 巨体そのものが錨のような軌道を描く。フレイは瞬間移動でかわすが、直後に張力を変えた鎖が追いすがる。刃で鎖を断とうとしたところへ、錨が地面を蹴って跳ね上がった。低重力のため、予想以上に長く浮いた錨がフレイの退路を塞ぐ。赫い蝶はさらに位置を移すが、ロバーツは軌道を読み、鎖を巻き取って距離を詰めた。 フレイの二刀が時化の胸を切り裂く。機体は大きく損傷し、ロバーツも衝撃に耐えながら操作を続ける。だが近距離では、巨大な錨の質量と鎖の絡みつきが強みになる。ロバーツは鎖をフレイの片腕へ回し、引きながら錨を振り抜いた。フレイは蜃気楼で回避を試みるが、移動先まで張り巡らされた鎖の軌道に捕まる。 錨の一撃が胴部を打ち、フレイは地面に叩きつけられた。放熱板が破損し、二刀の光が途切れる。赫い蝶はなお反撃しようとするが、時化が鎖を締めて両腕を封じ、錨を振り下ろした。機体が沈黙し、戦いは終わった。 第二試合の勝者:チームA 第三試合:砂丘――遮蔽物なし 遮るもののない砂丘に、強風が吹き抜ける。砂は地面を這い、時に視界を覆う。フレイは風を受けて空へ舞い、獄鱗をまとった姿が赤い光となって揺れた。時化は足を砂へ沈め、鎖を広く展開する。視界を遮る地形も建物もなく、両機の姿は互いによく見える。 ロバーツは錨を遠くへ投げた。鎖が砂丘を横切り、巨大な錨がフレイへ迫る。赫い蝶は視空間上の瞬間移動を重ね、直撃を避ける。錨は砂へ突き刺さり、風に削られた斜面を崩した。フレイはその隙に接近し、二刀で時化の肩を深く斬る。 遮蔽物がない戦場では、鎖の長い軌道を見切られやすい。フレイは攻撃を避けながら間合いを変え、獄鱗の閃光でロバーツの視認を乱す。時化の装甲には熱による損傷が増え、巨体の動きも次第に鈍る。ロバーツは鎖を引き戻して防御するが、赫い蝶は正面から力比べをせず、上下左右へ変則的に踊って切り込んだ。 ロバーツは錨を手放さず、攻撃のたびに鎖の長さを調整する。錨を低く滑らせて砂を巻き上げ、その砂煙を目くらましにした。フレイは風上へ移動して煙を避け、背後から刃を振るう。時化は一撃を受けるものの、その瞬間に鎖を脚部へ巻きつけた。フレイは蜃気楼で距離を変え、拘束を抜ける。 赫い蝶はそのまま四方からの奇襲を続けた。幻影が風に流れる獄鱗と重なり、どれが本体か判別しにくい。ロバーツは錨を振り回して広範囲を薙ぐが、軽やかな空中軌道を捉えられない。時化の片腕が損傷し、鎖を操る速度が落ちる。勝負はフレイが優勢に進めていた。 それでも、ロバーツの観察眼は崩れない。砂嵐に紛れても、獄鱗の粒子が風に流れる方向と、フレイが攻撃へ移る際のわずかな軌道変化を追う。彼は錨をフレイへ投げず、風下の砂丘へ深く打ち込んだ。鎖を張り、時化を固定する。フレイは攻勢を続け、錨の脇を抜けるように接近した。 その瞬間、ロバーツは鎖を一気に巻き取った。砂へ埋めた錨が支点となり、鎖が弧を描いてフレイの進路を横切る。赫い蝶は瞬間移動で抜けようとするが、遮蔽物のない空間では、移動後の位置までロバーツが読みやすい。彼は鎖を引くのと同時に錨を支点から引き抜き、フレイの逃げ道へ重い軌道を重ねた。 フレイは紙一重で直撃を避け、時化の胸部へ二刀を突き立てる。装甲が割れ、機体が大きくよろめく。しかし、刃が深く食い込んだ瞬間こそ、フレイの移動が止まる。ロバーツは残る腕で鎖を巻きつけ、機体ごと引き寄せた。錨が砂丘を転がり、巨大な質量が二機の間へ迫る。 赫い蝶は最後の蜃気楼で離脱を試みたが、損傷した放熱板では急な軌道変更が間に合わない。鎖に引かれたフレイへ、錨が横から衝突する。紅い機体は砂へ叩きつけられ、二刀を取り落とした。ロバーツは鎖を締め、錨を機体の胴へ押し当てる。獄鱗の光が弱まり、やがて消えた。 第三試合の勝者:チームA 総合勝者:チームA(3勝0敗)