陽光が容赦なく照りつける午後。悪魔王子の居城の一角にある中庭は、手入れの行き届いた花々と静謐な空気に包まれていた。しかし、そこに集う二人の男が放つ空気は、およそ静謐とは程遠い。一人、派手な髑髏Tシャツにサングラスという、軍の制服とは程遠い出で立ちの青年、リジア。そしてもう一人、灰色の着流しを緩く纏い、糸目で穏やかな笑みを浮かべる青年、ミナトである。 「いやぁ、いい天気だね。こういう日は、心地よい風に吹かれながら昼寝でもするのが正解だと思うんだけどさ」 リジアは、大理石のベンチに深く腰掛け、長い足を組んでいた。青緑色のオールバックに、不敵な笑みを湛えた口元。彼は手首に刻まれた紋様を軽く撫でながら、隣に立つミナトをちらりと見た。 「ふふ、リジアさんは相変わらず余裕がありますね。副団長という重責にありながら、その精神的な緩さは羨ましい限りです」 ミナトの声は低く、穏やかだ。灰色の髪を紐で緩く結び、片腕を欠いた身でありながら、その佇まいには隙がない。糸目の奥に何を考えているかは見えないが、表面上の礼儀正しさは完璧だった。 「礼儀正しいねぇ。そういうところが君のいいところだよ、ミナト。……まあ、その『いいところ』の下に、どろどろに溶けた残酷な本性を隠してるのは分かってるけど」 リジアはわざとらしく肩をすくめ、サングラスを少しずらして、いたずらっぽく目を細めた。社交的な振る舞いの中に、鋭い観察眼が光る。彼はミナトのような「静かな狂気」を持つ人間を嫌いではない。むしろ、好ましくさえ思っていた。 「おやおや、心外ですね。私はただ、与えられた任務を効率的に遂行したいだけですよ。残忍だなんて、ずいぶんと思い込まれているようだ」 「ははっ! 効率的、ね。君の言う効率ってのは、だいたい相手が絶望して泣き叫ぶ時間を計算に入れた上での話だろ? 猟奇的なまでの執着心、最高じゃないか」 リジアは身を乗り出し、楽しそうに笑った。彼は本質的な戦闘狂である。強き者がぶつかり合い、火花を散らす瞬間を何よりも愛している。対するミナトは、暗殺者として静かに、確実に標的を仕留める。アプローチは正反対だが、どちらも「破壊」の極致にいる点では共通していた。 「……本当に、あなたのような方と同じ軍に属していると、精神的に疲れます。私はもっと、静寂の中で仕事を完結させたいのに」 「静寂、静寂って。たまには派手に暴れた方がいいぜ。なんなら今ここで、軽く手合わせでもしないか? 君のその『呪いの腕』、久しぶりに拝みたいしな」 リジアが軽快に立ち上がり、不敵な笑みを浮かべる。その瞬間、空気の密度が変わった。飄々とした青年から、最高戦力としての圧迫感が漏れ出す。ミナトは相変わらずの薄笑いを浮かべていたが、その瞳の奥には、暗殺者としての鋭い光が宿っていた。 「お断りしますよ。今は非番です。それに、リジアさんとやり合えば、この美しい中庭が更地になります。殿下に叱られるのは、私ではなくあなたでしょうね」 「つれないなぁ。まあいいや、今日はこの辺にしておくよ。それよりさ、近くにいい酒場があるって聞いたんだけど、一緒に行かないか? 君が奢るなら、俺が最高のつまみを奢ってやるよ」 「……相変わらず、図々しい方だ」 ミナトは溜息をついたが、その表情はどこか心地よさげだった。互いに本性を知っており、かつそれを許容している。あるいは、その危うさこそが、彼らにとっての信頼に似た感情を形成していたのかもしれない。 二人は歩き出す。一人は派手な歩調で、一人は静かに足音を消して。外見も中身も対極にある二人が並んで歩く光景は、奇妙な調和を保っていた。 「ところでさ、ミナト。あの件、どうなった? 君が密かに処理したっていう、例の反逆者の件だよ」 「ああ、あれですか。ふふ、ええ。……かなり『効率的』に片付きましたよ。指の骨を一本ずつ、丁寧に、ね」 「ひょお! さすがだね。やっぱり君は最高だよ。そういう話を聞くと、なんだか血が騒いでくるぜ」 「本当に、あなたとは話が合いませんね」 口ではそう言いながらも、ミナトの口角はわずかに上がっていた。残忍な暗殺者と、快楽的な戦闘狂。彼らは互いの狂気を鏡のように映し出しながら、陽光の中をゆっくりと歩いていった。 「ま、たまにはこういう緩い時間も悪くない。なあ、ミナト」 「ええ。……たまにだけ、ですよ」 笑い合う二人の背後で、静かに風が吹き抜け、花びらが舞い散る。彼らが戦場に立てば、そこは地獄へと変わるだろう。しかし今この瞬間だけは、ただの「同僚」としての、奇妙に穏やかな時間が流れていた。 * 【お互いに対する印象】 リジア → ミナト: 「表向きは礼儀正しくて扱いやすいけど、中身は最高にイカれてて最高。あの冷酷な本性が顔に出る瞬間がたまらないね。いつか本気で殺し合いをしたい最高のパートナーだよ」 ミナト → リジア: 「騒がしくて、図々しくて、本当に理解できない人です。ですが、私の本性を知った上でこうして平然と接してくれる方は珍しい。……まあ、たまに付き合う分には、退屈しなくていい同僚だと思っていますよ」