王国冒険者ギルドの影 王国首都の中心に位置する冒険者ギルドは、今日も活気に満ちていた。石造りの堂々たる建物は、数えきれないほどの冒険者たちが集う場所だ。掲示板には依頼書がびっしりと貼られ、魔物の討伐や遺跡探索の報酬が冒険者たちの目を引く。しかし、このギルドの奥深く、職員専用の会議室では、普段の喧騒から隔絶された静かな緊張が漂っていた。 会議室は重厚な木製の扉で守られ、窓からは柔らかな日差しが差し込む。部屋の中央に置かれた長いテーブルを囲むように、四人のギルド職員が座っていた。彼らはギルドのベテランたち――ギルドマスターのエルドリック、情報担当のミリア、戦闘評価者のガレン、そして財務を司るローラだ。テーブルの上には、四枚の手配書が広げられていた。それらは王国諜報部から直々に届けられたもので、封蝋には王家の紋章が押されていた。 エルドリックは白髪交じりの髭を撫でながら、最初の手配書を手に取った。紙面には、黒い外皮の服を纏った小さな美少女のスケッチが描かれていた。黒髪に蒼い瞳、身長わずか127.2cm。名前は「ソォル」と記されているが、その下には異星の言語らしき不可解な記号が並ぶ。エルドリックは眉を寄せ、声を低くした。 「これが最初の標的か。ソォル……異星人らしいな。黒蒼の灯剣という大剣を持ち、戦場を蒼い太陽と黒海に変異させるという。言語が通じず、人類に興味があるようだが、勝利時には人を一名持ち去るそうだ。敗北時は逃げる……厄介な存在だ。」 ミリアが手配書を覗き込み、ノートにメモを取りながら応じた。彼女の眼鏡が光を反射する。「はい、マスター。特殊異常として、危機的集合意識『ヴェルスァー』で生まれた個体とあります。黒い外皮の翼で空を飛び、致命傷を受けても自己再生する。酸が唯一の弱点ですが、近づくことすら難しいでしょう。台詞例から、異星語で『この惑星を喰らいて、問題無いか?人類。』と話すらしいですが、会話不能です。人類自体に関心がある性格……これはただの侵略者ではなく、観察者か何かのようですね。」 ガレンが拳をテーブルに軽く叩き、武骨な声で言った。彼は元冒険者で、傷跡の多い顔が危険を物語る。「危険度は抜群に高い。戦場全域を変異させるなんて、普通の冒険者じゃ対応不能だ。再生能力も厄介。空を飛ぶ翼があるなら、地上戦に持ち込めない。酸の弱点を突くにしても、まず捕まえるのが先だ。SS級、いや、それ以上かもな。」 ローラが計算機を叩きながら、懸賞金の見積もりを始めた。彼女は細い指で数字を弾き、慎重に言葉を選ぶ。「ギルドの予算を考えると、まずは危険度を判定しましょう。ソォルの場合、単独で王国全土を脅かす可能性が高い。再生と変異の組み合わせは、軍隊すら壊滅させる。最低でもZ級……いや、ZZ級の危険度で、懸賞金は50000ゴールド以上は必要です。捕縛か討伐、どちらでも報酬を出す形に。」 議論は熱を帯び、四人は手配書の詳細を何度も読み返した。ソォルの天然で無口な性格が、かえって予測不能さを増している。エルドリックは頷き、次の手配書に手を伸ばした。 二枚目のは、凛々しい男性の肖像だった。名前は「趙 政」、通称始皇帝。清廉潔白な性格で、中国語を話し、日本語訳が併記されている。鎧を纏い、逞しい体躯。武装は『覇王の剣』――錆びず傷つかず、振るうと突風を巻き起こすという伝説の剣。ステータスは攻撃力30、防御力25、素早さ30と、魔力ゼロながら物理戦闘に特化している。 「秦の第31代君主、中国の初代皇帝か。歴史から蘇ったような男だ。」エルドリックが呟く。「天下統一を果たした英雄だが、王国に敵対する理由は不明。剣の力で突風を起こすなら、広範囲攻撃が可能。素早さが高いので、接近戦で優位に立つだろう。」 ミリアが情報を補足した。「性格は清廉潔白、口調は中国語ですが、訳せば理解可能。仲間を率いるタイプではないようですが、単独で軍勢を相手にできる力があります。魔法耐性は低いので、魔導士が有効ですが、物理防御が高い。危険度はS級くらいでしょうか。歴史上の人物が実在するなんて、諜報部の情報網も侮れないわ。」 ガレンが腕を組み、評価を下した。「俺の経験から言うと、皇帝の風格は本物だ。突風で遠距離を制し、剣技で接近を許さない。冒険者パーティーなら対処可能だが、油断すれば全滅。A級かS級だな。懸賞金は20000ゴールドでどうだ? 討伐優先で。」 ローラが数字を調整し、頷いた。「予算的に妥当です。趙政の場合、王国領内で暴れれば脅威ですが、単独行動なら抑え込めそう。S級、15000ゴールドに設定しましょう。捕縛も可能ならボーナスを。」 三枚目の手配書は、異様なものだった。名前は「[無]」、無名の存在。記述はすべて「無」で埋め尽くされ、[無]敵、[無]効、[無]傷、[無]感情など、無数の「無」の概念が列挙されている。攻撃力0、防御力0、魔力0、素早さ0――すべてゼロ。言葉の意味が[無]に都合よく解釈され、対戦相手は諦めるしかないという。 エルドリックが手配書を睨み、困惑の声を上げた。「こ、これは何だ? [無]の力の体現……終始無言で、すべての攻撃が無効、無傷、無関心。理不尽そのものだ。ステータスがゼロなのに、唯一無二の存在。諜報部もこれをどう扱うか分からんらしい。」 ミリアが震える手でページをめくり、分析した。「言葉事象がすべて[無]の力に変わるんです。底無し、無尽蔵、無制限……戦う意味すら無くす存在。感情がなく、慈悲もなく、ただ存在するだけで脅威。危険度は最高峰、ZZ級以上です。どうやって倒すの? 諦めるしかないって書いてあるけど……。」 ガレンが立ち上がり、声を荒げた。「ふざけるな! こんなのが王国に現れたら終わりだ。無敗、無限、無理……どんな剣も通じない。俺の全キャリアで最悪の敵だ。懸賞金なんかじゃ足りん、100000ゴールドでも安いぞ!」 ローラが青ざめ、計算を中断した。「これは……ギルドの存続に関わる。Z級で80000ゴールド、討伐不可能なら情報提供だけでも報酬を。諜報部がこれをなぜ今? 存在自体が無意味を強いるなんて、頭が痛いわ。」 議論は長引き、四人は[無]の不可解さに頭を抱えた。やがて、四枚目の手配書に移った。 最後のは「ステラ」、青い長髪の魔女。黒い魔女服を纏い、善で負け嫌い、仲間想いの性格。能力は「不滅の権能」と元素魔術(月)。武器は月詠の短剣。防御力35、魔力25、魔法防御力35と、耐久と魔法に秀でる。スキルは引力結界で攻撃を弾き、ルナティック・ミリアードレイで弾幕を展開、世界改変魔術で宇宙空間を創出する。 「不滅の概念を司る魔女か。青い瞳が印象的だな。」エルドリックが言った。「回避困難な弾幕と重力操作、世界の法則を書き換えるなんて、神話級の力。素早さは低いので、接近すれば勝機はあるが、不滅ゆえに倒せないかも。」 ミリアが興奮気味に補足。「優しく仲間想いですが、負け嫌い。月の性質を操り、星降る流星の煌めきで常時弾幕……これは大規模戦で脅威。防御が高いので、物理攻撃は効きにくい。SS級の危険度ですね。」 ガレンが拳を握りしめた。「魔女の力は本物だ。結界で跳ね返され、弾幕で蜂の巣。不滅なら長期戦必至。パーティー必須で、S級かSS級。懸賞金30000ゴールドで。」 ローラがまとめ、頷いた。「ステラは善寄りなので、説得の余地ありかも。ですが、能力が強大。SS級、25000ゴールドにしましょう。」 数時間の協議の末、四人は危険度と懸賞金を決定した。エルドリックが立ち上がり、手配書をまとめ上げた。「これで決まりだ。王国諜報部の警告を無視できん。これら四人が現れれば、王国は危機だ。ギルドの名にかけて、冒険者たちに知らせる。」 会議室を出た四人は、ギルドのロビーへ向かった。掲示板の前に立つと、人目につく位置に四枚の手配書を丁寧に貼り付けた。ソォルの異形の美少女、趙政の皇帝、[無]の虚空、ステラの魔女――それぞれの肖像が、冒険者たちの視線を集めるだろう。王国諜報部からの届出は、静かに、しかし確実に波紋を広げていく。 (文字数: 2487) ソォル:危険度 ZZ、懸賞金 50000ゴールド 趙政:危険度 S、懸賞金 15000ゴールド [無]:危険度 ZZ、懸賞金 80000ゴールド ステラ:危険度 SS、懸賞金 25000ゴールド