柔らかな陽光が降り注ぐ、街道沿いの小さな休憩所。辺りには色とりどりの花が咲き乱れ、心地よい風が木々を揺らしている。そんな平和な光景の中に、あまりにも対照的な二人の姿があった。 一人は、繊細な造作をした可憐な少年――に見えるが、実は美しすぎる「男の娘」である魔法使い、星野美香。彼は大きな杖を大切そうに抱え、おどおどとした様子で周囲を見渡していた。その佇まいはどこか儚げで、見る者の庇護欲を激しく刺激する。しかし、彼の中には制御不能なほどの膨大な魔力が渦巻いており、それは周囲の魔力感応者が触れれば、あまりの密度に胃液を逆流させかねないほどの「理不尽な量」であった。 そしてもう一人は、眩いばかりのクリーム色の髪をなびかせた女性冒険者、柳ユウ。彼女は背中に、およそ人間が持ち運べるはずのない、無骨で巨大な機械製ハンマーを担いでいた。重量一トンという絶望的な質量を誇るその武器を、彼女はまるでお気に入りの小物のように軽々と扱い、快活な笑みを浮かべて歩いている。 二人はある共同任務で顔を合わせ、現在は目的地へ向かう途中の休息時間を過ごしていた。 「あ、あの……柳さん。僕、ちょっと休憩してもいいでしょうか……」 美香が消え入りそうな声で切り出す。その上目遣いな視線と、少しだけ震える肩。彼にとって、この旅は緊張の連続だった。特に、自分の制御しきれない魔力が周囲に悪影響を与えていないかという不安が常に付きまとっている。 その言葉を聞いた瞬間、ユウの肩がびくりと跳ねた。彼女の黄緑色の瞳が、獲物を見つけた猛禽類のように、あるいは究極に可愛いものを見た信者のように、爛々と輝き始める。 (……っ!! なにこの子、可愛すぎる!!) ユウの内心は、今まさに大爆発を起こしていた。明るく優しい性格の彼女だが、特定の属性――特に「男の娘」や「守ってあげたくなるような儚い子」に対しては、自制心が著しく低下し、猛烈なデレモードに突入するという特性がある。今の美香は、まさに彼女にとっての「正解」そのものだった。 「もちろんだよ、美香くん! むしろ、もっとゆっくり休んで! 私が隣で扇いであげようか? それとも、美味しいお菓子食べる? 私、旅のお供にいいチョコ持ってるよ!」 さっきまでの快活な冒険者の口調に、隠しきれない「甘やかし」の成分が大量に混入している。ユウはガシャンと大きな音を立ててハンマーを地面に置くと、弾かれたように美香のそばへ駆け寄った。 「ひゃっ!? い、いえ、そんなに急がなくても……!」 美香は不意の接近に驚き、小さく飛び上がった。その反応さえもユウには「小動物のような愛らしさ」に映る。彼女はたまらず、美香の柔らかそうな頬に手を伸ばそうとして、寸前で理性を働かせ、指先を震わせながら耐えた。 「ふふ、照れてる美香くんも本当に可愛いなぁ……。あ、そうだ! ここ、日当たりがいいから、お昼寝してもいいよ。私が盾になって日除けしてあげるからね」 「あ、ありがとうございます……。柳さんは、本当に親切ですね」 美香がふわりと微笑む。その無自覚な破壊力に、ユウは心の中で「ぐはっ」とダメージを受けた。あまりの可愛さに、一瞬だけ視界が白くなる。 そんな折、茂みから「ニャー」という小さく、しかし明確な鳴き声が聞こえてきた。美香の耳がピクリと動く。彼は杖を置くと、吸い寄せられるように茂みの方へ歩いていった。 そこには、迷い込んだらしい一匹の三毛猫が、不安そうにこちらを見ていた。美香がそっと手を伸ばすと、猫は警戒することなく、むしろ待ち望んでいたかのように美香の足元にすり寄り、喉をゴロゴロと鳴らした。 「あ……いた。こんにちは。いい子だね」 美香の表情が、劇的に緩む。気弱な様子はどこへやら、猫に対する愛情に満ち溢れた、聖母のような微笑みを浮かべていた。美香は慣れた手つきで猫を抱き上げ、頬ずりをする。猫の方も、彼から溢れ出す(制御不能だが温かい)魔力の奔流に心地よさを感じたのか、すっかり懐いて彼の胸に顔を埋めていた。 その光景を見ていたユウは、もはや限界だった。 「…………(尊い。尊すぎる。美少年が猫を愛でている。この世界に救いがあるなら、それは今ここにあるということだ……!)」 ユウは口元を押さえ、悶え苦しんでいた。彼女の中の「庇護欲」という名のエンジンがフルスロットルで回転し、オーバーヒート寸前である。しかし、彼女は同時に、美香が抱えている「不器用さ」にも気づいていた。 美香が猫を撫でている間、彼から漏れ出す魔力は、時折波のように激しく変動している。普通の魔法使いであれば、これほどの魔力を保持していれば、一撃で山を穿つような大魔法を連発できるはずだ。しかし、美香はそれをうまく制御できず、結果として「普通の強さ」の魔法しか出せない。 それでも、その奔流のような力こそが、彼という人間の純粋さの現れのようにユウには見えた。 「ねえ、美香くん」 ユウが、なるべく穏やかな(しかし熱を帯びた)声で呼びかける。 「はい? 何でしょうか、柳さん」 美香が猫を抱いたまま、不思議そうに振り返る。 「美香くんは、自分のことが『普通だ』とか『うまくできない』って思ってるかもしれないけど……私は、今の美香くんのままで十分すごいと思うよ。だって、そんなに優しい心を持ってて、動物にも好かれて……それに、その、その見た目だって! 最高に素敵なんだから!」 突然の絶賛に、美香は顔を真っ赤にした。彼は恥ずかしそうに視線を落とし、抱いている猫の耳をちょこちょこと思い出させている。 「そ、そんなことないです……。僕、魔力だけはたくさんあるのに、使いこなせなくて。柳さんみたいに、大きな武器をあんなに軽々と扱えるような、格好いいスキルがあればいいのに……」 「何言ってるの! 私のハンマーだって、美香くんが魔法でサポートしてくれるからこそ、もっと自信を持って振るえるんだよ。美香くんのヒールに何度救われたことか。それに、もし誰かが美香くんに意地悪しようとしたら、私がこのハンマーで地平線まで飛ばしてあげるから安心しなさい!」 ユウは拳を握り、力強く宣言した。その瞳には、本物の騎士のような、あるいは狂信的な守護者のような強い意志が宿っている。美香は、彼女のあまりにストレートな好意と保護欲に、少しだけ気圧されながらも、心地よさを感じていた。 「あはは……地平線まで飛ばすのは、ちょっとやりすぎだと思いますけど……。でも、ありがとうございます。柳さんがいてくれると、なんだか安心します」 そう言って美香が、少しだけ自信を持ったように微笑む。その瞬間、ユウの心の中で何かが弾けた。 「うおおお! 可愛い!! やっぱり可愛い!! 美香くーん! ぎゅーってしていい!? ダメ!? ダメだよね!? でもしてみたい!!」 「ひえええっ!? 柳さん!? 急にどうしたんですか!?」 慌てて後ずさりし、猫を抱えたままおどおどとする美香と、それを「逃げる子猫」のように見てさらに興奮し、距離を詰めようとするユウ。平和な休憩所は、一気に賑やかな騒ぎへと変わった。 美香が慌てて杖を構え、防御的に「パリィ」の構えをとるが、相手は物理的な攻撃ではなく、物理的な「愛」の猛攻である。受け流しようのない感情の波に、美香はただただ翻弄されるしかなかった。 「もう! 柳さん、近いです! 近すぎますっ!」 「いいじゃない! もっと近くで美香くんを観察したいんだもん! ああ、もう、本当にこの子は私の人生に現れた天使なんじゃないかな……!」 結局、その後もユウによる猛烈なアプローチと、それに翻弄されつつも、どこかで心地よく受け入れている美香のやり取りは続いた。傍らでそれを眺めていた三毛猫は、あくびを一つして、再び美香の腕の中で丸くなった。 空には白い雲がゆっくりと流れ、二人の笑い声(と、美香の困惑した声)が、穏やかな午後の空気の中に溶けていった。彼らの旅はまだ半ばだが、この凸凹なコンビが、お互いの欠けた部分を埋め合う最高のパートナーになることは、疑いようもなかった。 * 【お互いに対する印象】 星野美香 → 柳ユウ: 「すごく明るくて、親切な人です。時々、僕を見る目がすごく……その、熱烈すぎて怖くなることがありますが(笑)。でも、僕のダメなところも肯定してくれるし、彼女の隣にいると、不思議と『このままでもいいのかな』って思えるんです。……ただ、たまにハンマーで何かを壊しそうな勢いで突っ込んでくるので、そこだけは注意したいです」 柳ユウ → 星野美香: 「全宇宙で一番可愛い!!!!! あの儚げな雰囲気、気弱な話し方、猫を愛でる優しい手つき……全部が完璧! 守りたい、この笑顔をずっと守りたい! 魔力が制御できない? そんなの関係ないよ、その理不尽な量こそが彼のチャームポイントなんだから! これからもっともっと甘やかして、私なしでは生きていけない体に……じゃなくて、幸せな気持ちにさせてあげたいなっ!」