紅葉が燃えるように山々を彩る季節。東洋の深い山奥、俗世から切り離されたかのような静寂の中に、老舗旅館「栄愛之湯」は佇んでいた。 チームAの菅原京と時雨総は、対照的な足取りでその門をくぐった。京は和装の袖を揺らしながら、道端に咲く珍しい山草に目を輝かせている。「ほう、この地にはまだこんな薬草が自生しているとは。実に好奇心をそそられますね」と、美少年の顔に知的な笑みを浮かべる。対して、眼帯をした時雨総は、退屈そうに欠伸を噛み殺していた。「ったく、わざわざこんな山奥まで来させやがって。効率が悪すぎる」と毒づくが、その鋭い観察眼は周囲の警戒を怠っていない。 一方、チームBのSZ姉貴とDIYUSIは、賑やかに到着した。DIYUSIは周囲の景色に興奮し、「隣の垣根に、囲いができたんですって!」と、なぜか道路標識のような視点で旅館の塀に興味を示している。SZ姉貴は何も言わず、ただ小さく頷きながら、どこか戦いへの飢えを隠しきれない様子でチェーンソーの感触を確かめていた。 旅館の帳場で彼らを迎えたのは、腰の曲がった、しかし眼光だけは鋭い切り盛り主の婆さんだった。 「おぉ、賑やかな若者が来たもんだねぇ。ゆっくり浸かっておくれ」 チェックインを済ませた一行は、男女別の大部屋へと分かれた。 男部屋では、京が丁重に荷物を解きながら、総に話しかける。「総さん、この旅館の建築様式は私の住む『緋想』にも通じる古風な趣がありますね。ぜひ研究したい」 「研究だぁ? お前のそういう勤勉なところが反吐が出るぜ。俺はただ、ここで誰かぶっ飛ばしてストレス解消できりゃ十分だ」 総は不機嫌そうに寝転がるが、京はお茶目に笑い、「まあまあ、そう言わずに」と、自作の疲れを癒やす薬茶を差し出した。 女部屋では、DIYUSIが畳の上で跳ね回っていた。「見てくださいSZ姉貴! この部屋の隅の角、直角が完璧です! 誘導棒を立てるのに最適ですよ!」 SZ姉貴は呆れたように肩をすくめ、静かにタバコに火をつけた。言葉こそ少ないが、彼女の視線は外の紅葉の美しさと、同時に「ここなら派手に暴れても誰にも文句を言われなさそうだ」という戦士の直感に支配されていた。 そして、事件は夕食後、極上のリラックスタイムに訪れた。男女それぞれ、紅葉を望む貸切露天風呂に浸かり、心身を解き放っていたその時である。 「……ん?」 男風呂にいた京が異変に気づいた瞬間、静寂は暴力的に切り裂かれた。 「ヴガアアアアッ!!」 凄まじい咆哮と共に、壁をぶち破って現れたのは、巨大な獣・ゼフゲレンデだった。理性など欠片もない、狂気的な食欲と害意の塊。その巨体が着地した衝撃で、男女の風呂を隔てていた立派な竹垣が、まるで割り箸のように粉々に砕け散った。 「ちょっ……!!」 湯気に包まれていた女性陣――DIYUSIとSZ姉貴が、呆然として目の前の光景を見る。そこには、同じく呆然としていた京と総の、あまりにも無防備な姿があった。 「おい、このクソ獣……タイミングが悪すぎるだろ!!」 総が激昂し、即座にマジックペンで空中に円を描く。錬金術による攻撃が飛ぶが、ゼフゲレンデはそれを無視して「力溜め」に入った。全身に血管を浮かべ、筋肉を膨張させる獣。 「危ない!」 京が叫ぶ。ゼフゲレンゲが放った【暴虐の腕】が、凄まじい横薙ぎの一撃となって男風呂を襲った。総はその攻撃を紙一重で避けたが、その衝撃波で京が後方に吹き飛ばされる。運悪く、京はちょうど竹垣が壊れた隙間から女風呂側へとダイブし、恰好良くDIYUSIの上に覆いかぶさった。 「ひゃうんっ!?」 「あ、申し訳ありません!」 赤面する京。しかし、混乱はここからだった。ゼフゲレンゲが【咆哮】を放つ。その音波は精神を揺さぶるだけでなく、なぜか現場の「ラッキースケベ率」を異常に上昇させるという理不尽な効果を持っていた。 「ふざけるな! ぶっ潰す!!」 総が錬金術で床を変動させ、ゼフゲレンゲの足元を崩そうとするが、濡れたタイル床で足を取られ、派手に滑った。そのまま勢いよく前方に滑り出した総は、ちょうど立ち上がろうとしていたSZ姉貴の足に絡まり、二人まとめて湯船へとドボンと水没した。 「……ぶくぶくっ!!」 「(このドS野郎、どこ触ってんのよ!)」 水中でも火花を散らす二人。一方、DIYUSIはパニックになりながらも[誘導棒]を乱舞させ、ゼフゲレンゲに叩きつける。「こっちに来ないでくださいー!」 京はすぐに冷静さを取り戻し、指先で複雑な印を結んだ。「アメノカミクダシ!」 時計回りと反時計回りの弾幕が渦巻き、ゼフゲレンゲを拘束する。そこへSZ姉貴が、水から上がると同時にどこからか取り出した巨大チェーンソーを全力で振り下ろした。ガギィィィィン!! と激しい金属音が響き、獣の肩に深い傷を刻む。 しかし、ゼフゲレンゲは瀕死の状態に入り、さらに狂暴化した。二連続の技を繰り出そうと四肢を振り回す【暴れ狂い】が始動する。 「うわあああ! 建物が! 旅館が壊れる!!」 京が叫ぶ。BチームのDIYUSIが[電車]のスキルを発動し、露天風呂の空中に線路を召喚。猛スピードで突っ込んできた電車が、ちょうどゼフゲレンゲの腹部に直撃した。 ドガァァァーーン!! 衝撃で再び全員が転倒し、京はSZ姉貴の背中に、総はDIYUSIの膝の上に、という混沌とした物理的衝突が発生。互いに「なっ……!?」「どけ!!」と罵り合いながらも、最後はSZ姉貴の必殺ロケットランチャーがゼフゲレンゲの頭上に着弾した。 大爆発と共に、森の蹂躙者は静かに絶命した。後に残ったのは、跡形もなく破壊された露天風呂と、お互いに妙な位置で重なり合っている男女四人の、気まずい沈黙だけだった。 「…………」 「…………」 誰が最初に口を開くべきか分からない。濡れた肌と、紅葉の赤、そして破壊された竹垣。なんとも言えない、言いようのない敗北感と気恥ずかしさが漂う。 「……直しましょうか」 京が、顔を真っ赤にしながら提案した。 その後、四人は共同作業で竹垣の修復に当たった。総が錬金術で部材を固定し、DIYUSIが看板の端材で補強し、SZ姉貴が力仕事を引き受け、京が全体の調整を行う。不思議と、戦っている時よりも連携が取れていた。 「婆さん、本当に申し訳ございませんでした……!」 深々と頭を下げる京。婆さんは破壊された風呂と、それでも完璧に(少し歪んでいるが)直された竹垣を交互に見つめ、「まあ、賑やかでいいわ。弁償代はしっかり請求させてもらうからね」と、恐ろしい笑みを浮かべた。 その夜。各自の大部屋に戻った四人は、布団の中で天井を見つめていた。 京は、自分の不老不死の人生の中で、これほどまでに「恥ずかしい」と思ったことがあっただろうかと考え込み、布団を頭まで被った。 総は、あんなに完膚なきまでに「滑った」自分に腹を立てつつも、SZ姉貴の意外な強さを思い出し、舌打ちをしながら眠りについた。 DIYUSIは、「次はもっと丈夫な囲いを作らなきゃ」と建設的な方向で思考をまとめ、SZ姉貴は静かにタバコを吸い、嵐のような一夜を振り返っていた。 翌朝。チェックアウトを済ませ、旅館を出た一行。 山道を下りながら、彼らはあえて昨夜の話を口にしなかった。ただ、時折視線を交わしたとき、そこには言葉にならない奇妙な連帯感があった。 「……またどこかで」 京が小さく呟いた。総は「二度と御免だ」と吐き捨てたが、その足取りはどこか軽やかだった。 各自、心の中に秘めた「事件」を抱えたまま、彼らはそれぞれの帰路へと就いた。紅葉の葉が、ひらりと彼らの肩に舞い落ちていた。