王都の中心街に位置する、王国管理の冒険者ギルド。そこは日々、大陸中から集まる冒険者たちが依頼を請い、酒を酌み交わし、喧騒に包まれる場所だ。しかし、その喧騒から切り離された場所がある。職員専用の重厚なオーク材の扉で仕切られた、密室の会議室である。 円卓を囲むのは、ギルドの運営を司る熟練の査定員たち。彼らの前には、王国諜報部から極秘に届けられた四枚の手配書が並んでいた。諜報部がわざわざギルドに回したのは、彼らが「通常の討伐依頼の範疇を超えている」と判断したからに他ならない。 「さて、ここからが頭を悩ませるところだ」 責任者の中年男性が、眼鏡を指で押し上げながら、一枚目の手配書を手に取った。そこに記されていたのは、【スカイピアの神】と自称する男、エネルの資料である。 「身長266センチ。この体躯に、最大電力2億ボルト……正気か? 魔力ゼロとあるが、これは魔導的なアプローチではなく、純粋な『能力』としての雷電を操るということだろう。しかも『心網(マントラ)』で他者の動きを読む。正面からぶつかれば、こちらの精鋭騎士団ですら一瞬で炭化するぞ」 職員の一人が顔を青くして付け加えた。 「さらに、大型の棍棒『のの様』を携え、傲慢な性格。妥協という概念がないタイプでしょう。彼がもし本気で地上に降臨すれば、一都市を地図から消し飛ばす可能性があります。危険度は極めて高い。もはや個人の武力というより、天災に近い」 会議室に緊張が走る。彼らは慎重に数値を検討し、この男を「最上位の警戒対象」として定義することに合意した。 次に手に取られたのは、東方の異界から来たという女武士、星幽煌輝の手配書だった。その美貌に反し、記された能力は戦慄すべきものだった。 「……被ダメージ・ゼロ。状態異常無効。さらに『どんな敵でも一撃で葬る』パッシブスキル。冗談だろう?」 査定員たちが顔を見合わせる。戦術的な攻略法が一切通用しない。回避不能な攻撃を繰り出し、万が一倒れたとしても『永劫の星』の力で全回復して立ち上がる。それは絶望という言葉を形にしたようなスペックだった。 「彼女が『闘技をしよう』と微笑みながら近づいてきたとき、我々にできることは降伏することだけだ。この女は、この世の理の外にいる。エネルが『破壊の神』なら、こちらは『静寂の死神』。危険度をどう設定すべきか……」 絶望的なまでの完封能力に、職員たちは溜息をついた。彼らは彼女を、エネルと同等、あるいはそれ以上の「不可侵の存在」として格付けした。 そして三枚目。緊張感に包まれた空気を一気に霧散させたのは、一枚の「写真」のような手配書だった。 「……おい。これは何の間違いだ? 諜報部はふざけているのか」 そこには、もふもふとした毛並みのポメラニアンが、首をかしげて可愛らしく写っていた。名前は『褒められたいポメラニアン』。攻撃力5、防御力2。特筆すべきは「褒められたいだけ」という精神性である。 「人語を喋れない、ただの犬ではないか。こんなものを手配してどうする。もしかして、あまりに可愛すぎて王国中の人間が誘拐しに走るため、治安維持のために出したのか?」 「まあ、確かにこのもふもふ感は危険だ。精神的な破壊力(癒やし)はあるかもしれないな」 職員たちは肩の力を抜いた。この個体に関しては、懸賞金という概念すら不要である。彼らは笑いながら、最低限のランクを割り当てた。 最後に、重い雰囲気へと再び戻った。四枚目の手配書、【骸の剣士】ヴァン・ダートンの資料である。 「死した肉体に精神が宿り、生を模倣しているアンデッドの剣士か。ロングソードにバックラー、さらには銃火器まで使いこなす。闇荊の魔法による拘束能力もあり、非常にバランスの取れた戦士だ」 「注目すべきは、脳天に突き刺さった『鉄の杭』だ。これが彼の存在をこの世に繋ぎ止めている。ここを抜けば昇天し、消滅する。つまり、攻略法は明確だ」 「だが、彼は本能的にそこへの接触を忌避する。実戦で正確に杭を抜くことは至難の業だろう。熟練の冒険者であれば十分に対処可能だが、油断すれば闇荊に絡め取られ、剣と銃で切り刻まれることになる」 査定員たちは、彼の戦闘経験と装備の多様性を評価し、中堅から上級の冒険者が挑むべき「危険な個体」として設定した。 こうして、四人の査定が完了した。 「よし、決定だ。これらをギルドの掲示板に貼り出せ。ただし、上の二枚については、特例として『特級危険指定』の赤枠で囲い、挑戦者に十分な警告を付記すること」 職員たちが立ち上がり、手配書を掲示板へと運ぶ。 王都の喧騒の中、ギルドの掲示板に四枚の紙が貼られた。それはある者には富を、ある者には死を、そしてある者には究極の癒やしをもたらす、奇妙な名簿であった。 * 【手配書:査定結果】 名前:エネル 危険度:【ZZ】 懸賞金:500,000,000ゴールド 名前:星幽煌輝 危険度:【ZZ】 懸賞金:700,000,000ゴールド 名前:褒められたいポメラニアン 危険度:【F】 懸賞金:100ゴールド(迷子Tìmしと同等) 名前:ヴァン・ダートン 危険度:【A】 懸賞金:15,000,000ゴールド