ギルドの影、懸賞の協議 王国首都の喧騒から少し離れた場所に、冒険者ギルドの本部は佇んでいた。石造りの堅牢な建物は、数え切れぬ冒険者たちの笑い声と剣の音に満ちていたが、この日は少し違っていた。ギルドの奥深く、職員専用の会議室では、普段の賑わいから隔絶された静寂が広がっていた。重厚な木製の扉が閉ざされ、窓からは柔らかな午後の陽光が差し込み、埃の粒子を金色に輝かせていた。 部屋の中央に置かれた長い楕円形のテーブルを囲むように、四人のギルド職員が座っていた。彼らはギルドのベテランたちで、それぞれが長年の経験から来る鋭い洞察力を持っていた。リーダー格のギルドマスター補佐、エリックは厳つい髭を蓄えた中年男性で、常に冷静沈着な判断を下すことで知られていた。彼の隣には、若手の事務官リナが座り、彼女は細い指で書類をめくるのが得意な、几帳面な女性だった。向かい側には、元冒険者の戦士出身のガルドがどっしりと構え、その隣に魔法研究者のセレナが眼鏡をかけ、メモを取る準備をしていた。 テーブルの上には、四枚の手配書が広げられていた。それらは王国諜報部から直々に届けられたもので、封蝋には王家の紋章が押されていた。エリックが重々しく口を開いた。「諸君、今日は通常の依頼とは違う。諜報部から届いた緊急の懸賞対象だ。詳細はこれらの手配書に記されているが、我々が危険度を査定し、適切な懸賞金を設定する。冒険者たちの命を預かる身として、過小評価は許されん。まずは一つずつ確認していこう。」 リナが最初の手配書を手に取り、皆に回した。それは「ギガントゴーレム」と名付けられた巨体の怪物についてのものだった。記述によると、身長50メートルを超える巨体で、強固な装甲に覆われ、かつて魔王軍が人界侵略時に使用した古の兵器だという。数百年機能停止していたものが、突如再稼働を始めたらしい。武装はなく、太い両腕による力任せのパンチが主な攻撃手段。物理攻撃に極めて強く、怪力で地震を起こすほどの歩行すら脅威だ。一方で、魔力はゼロ、魔法耐性もないため、魔法使いには比較的対処しやすいと記されていた。 ガルドが低く唸るように言った。「こいつは厄介だな。50メートル級のゴーレムか。街一つを踏み潰しかねん。俺が若い頃、似たようなのを相手にしたが、あの装甲は剣なんかじゃ歯が立たん。物理ダメージを大幅に軽減するってのは本当だろう。だが、鈍重で素早さゼロ。魔法で弱点を突けば倒せなくはない。」セレナが眼鏡を押し上げ、頷いた。「ええ、スキルを見ても『ヘビーナックル』や『ヘビータックル』は力任せの近接攻撃。『アースクエイク』で地震を起こすのは脅威ですが、魔法防御が低いので、遠距離からの火力で溶かせますわ。危険度は高いですが、単独行動のようですね。街近郊で目撃されたら大惨事です。」 エリックが顎を撫でながら考え込んだ。「物理特化の巨獣型。討伐には高位の魔法隊が必要だ。危険度をS級と見積もる。懸賞金は……その規模から、5000ゴールド。破壊された村の補償も考慮して。」リナがメモを取りながら同意した。「了解です。次行きましょう。」 二枚目の手配書は「深淵の賢者エヘデクセン」についてだった。古びた賢者のローブを纏い、深淵の魔杖を携えた、萎びた老人風の男。だが、その実態は狂気の魔術師で、かつての賢者が深淵の力に触れ、錯乱した破滅思考の怪物だという。常に絶えない憎悪を抱き、冒涜的な魔術を操る。スキルリストは恐ろしいものだった。《萎縮》で敵の肉体を圧壊、《鋭角の足跡》で次元をすり抜け攻撃を回避、《不浄の接触》で心臓を締め付け、《嘆き》で不可逆の呪詛をかけ、《破滅の指》で精神を混乱させ、最も危険な《深き血の門》は負傷時に大いなる悪意を召喚する自動発動だ。 セレナの顔が青ざめた。「これは……ただの魔術師じゃないわ。深淵の魔力は我々の知る魔法体系を超えています。精神攻撃と物理破壊の両方を兼ね備え、しかも自動召喚のトラップ付き。討伐には聖職者と精神防御の専門家が必須です。性格が錯乱している分、予測不能。諜報部の報告では、すでに辺境の村で数十人を狂わせたそうです。」ガルドが拳を握りしめた。「くそ、こんなのに正面から挑んだら全滅だ。回避スキルがあるから、近接は無謀。魔法防御も高そうだし、長期戦は避けたい。」 エリックが厳しい表情で言った。「上位の脅威だ。単なる力押しじゃなく、知略と魔術の複合。危険度をSS級とする。懸賞金は8000ゴールド。捕縛より討伐を優先せねばならん。」リナが息を吐き、次の書類に手を伸ばした。「まだ二枚残ってます……これ以上ヤバいのは勘弁してほしいですけど。」 三枚目は「マリッサ」と名乗る謎の人物。記述は奇妙で、ステータスが異常だった。攻撃力、防御力、魔力、素早さすべてが20と平凡に見えるが、スキルが化け物じみている。「無限にダメージを喰らわないと死なない」? 攻撃を食らっても即座にHPがMAX回復。一人称は「俺」、大剣で攻撃し、時を止める「時が止まれ」、敵を消滅させる「グングニル」、大ダメージの「大現実付き」、粒子化の「扇子」、能力盗みの「もらう」。諜報部の注釈では、999999:9999999のような暗号めいた数字が記され、ステータスが実質99999級の無敵状態らしい。 部屋に沈黙が落ちた。ガルドが声を震わせて言った。「なんだこりゃ……不死身か? ダメージ無効で即回復、しかも時停止と消滅攻撃。能力盗みまであるなんて、対処法が見当たらん。冒険者パーティーじゃ歯が立たんぞ。」セレナが慌ててページをめくった。「これはチート級ですわ。諜報部も『神話級の存在』と評しています。単独で王国軍を壊滅させる可能性あり。性格は不明ですが、戦闘狂のよう。」リナが怯えた声で言った。「これを野放しにしたら、王国崩壊です……。」 エリックが深く息を吸い込んだ。「前代未聞の脅威。危険度をZ級、ギルド史上最高。懸賞金は15000ゴールド。討伐不可能なら、封印の方法を探るしかない。」皆が頷き、緊張した空気が部屋を満たした。最後の手配書に手を伸ばすリナの手が、少し震えていた。 四枚目は「Δ」と記された、性別不明の存在。全身を黒色の近未来アーマーで覆い、無口。ステータスは20と平凡だが、スキルが絶望的だった。〔強靭〕で物理攻撃99.782%カット、〔隠密〕で存在を隠蔽、〔制圧〕で敵発見時に全ステータスが10の百乗倍に永久強化、〔予知〕で完璧対応、〔意思〕で勝利への執念、〔不死〕で傷つかず死亡せず、〔適応〕で全事象に瞬時適応、〔神技〕で想像不能の技。諜報部の報告では、影から王国要人を暗殺し、痕跡すら残さない。 セレナが声を失い、ガルドがテーブルを叩いた。「こいつは……存在自体が脅威だ。隠密と不死で捕捉不能、強化されたら一撃で軍隊を壊滅。予知と適応でどんな策も無効化。神技って何だよ、想像もつかん!」エリックが額を押さえ、呟いた。「これは人類の敵を超えた何か。危険度はZZ級、ギルドの分類を超える。懸賞金は20000ゴールド。討伐より、存在の抹消を優先せねば。」リナがメモを書き終え、皆が疲れ果てた顔で顔を見合わせた。 協議は二時間以上に及び、部屋の空気は重く淀んでいた。エリックが立ち上がり、決断を下した。「これで査定は終わりだ。諜報部の情報に基づき、危険度と懸賞金を設定した。冒険者たちに知らせるのは我々の責任。失敗は許されん。」ガルドが頷き、セレナが書類をまとめ、リナが封印を施した。四人は会議室を出て、ギルドのメインホールへ向かった。 ホールの壁に据えられた巨大な掲示板は、いつも冒険者たちで賑わっていた。エリックが自ら四枚の手配書をピンで留め、声を張り上げた。「緊急懸賞だ! 王国諜報部直々の依頼。詳細はこれだ。命知らずの者、挑んでみろ!」周囲の冒険者たちがざわめき、手配書に群がった。ギガントゴーレムの巨体図、エヘデクセンの狂気の肖像、マリッサの不気味なシルエット、Δの影のようなイラスト。それぞれの危険度と懸賞金が、赤いインクで強調されていた。 こうして、四枚の手配書はギルドの掲示板に貼られ、王国の運命を賭けた新たな章が始まった。職員たちは静かに祈るしかなかった。平和な日々が、永遠に続くことを。 【ギガントゴーレム: S級 / 5000ゴールド】 【深淵の賢者エヘデクセン: SS級 / 8000ゴールド】 【マリッサ: Z級 / 15000ゴールド】 【Δ: ZZ級 / 20000ゴールド】 (文字数: 約2450文字)