王国管理下にある冒険者ギルド『黄金の天秤』。その地下深く、一般の冒険者が足を踏み入れることのない職員専用の会議室は、重厚な石造りの壁と魔除けのルーンが刻まれたランプの灯りに包まれていた。 円卓を囲むのは、ギルドの運営を担う四人の精鋭たちである。 一人目は、ギルド運営局長であるバルトス(男)。厳格な規律を重んじる50代の男性で、口調は尊大ながらも責任感が強い。元騎士団副団長という経歴を持ち、武力的な脅威に対する査定に長けている。 二人目は、首席分析官のエルザ(女)。眼鏡をかけた知的な女性で、口調は理知的かつ辛辣。王立アカデミーで魔導学を教授していた経歴があり、魔法的な危険性の算出は彼女の独壇場だ。 三人目は、現場調整役のカイル(男)。気さくな青年で、口調は軽快な若者言葉。元ランクSの冒険者であり、実戦的な「厄介さ」を直感的に判断する能力に長けている。 そして四人目は、記録管理人のミーナ(女)。内気で口数が少なく、口調は消え入りそうなほど小さい。しかし、王国中の文献や禁書に精通しており、正体不明の存在に関する知識量は随一である。 彼らの前には、今朝、王国諜報部から極秘に届けられた四枚の手配書が置かれていた。諜報部からの依頼は一つ。「これら個体の危険度を判定し、相応の懸賞金を掛けよ」ということだ。 「さて、まずはこの娘からか」 バルトスが、一枚目の手配書を指で弾いた。 【名前:鳴】 黒髪ボブに眼帯。夜見山北中学校という未知の地、あるいは異世界の制服を身に纏った少女だ。ステータスは極めて低く、攻撃力や防御力は並の村人レベルである。 「……中学生? 冗談だろう。こんな子供に懸賞金を掛ける必要があるのか」 カイルが肩をすくめる。しかし、エルザが手配書の詳細を読み上げ、表情を変えた。 「いいえ、注目すべきはスキルです。『死期を読み取る』。しかも義眼による能力。これは単なる予知ではなく、運命の確定事項を視覚化している可能性があります。戦闘能力は皆無に等しいですが、彼女が『あなたはこの時に死ぬ』と告げた時、それは不可避の真実となる。精神的な揺さぶりと、状況把握能力における特級の危険因子です」 「ふむ……直接的な殺傷力はないが、暗殺者の案内役や戦略家になれば厄介だな」 バルトスが頷く。鳴の持つ「淡々とした冷静さ」は、戦場において最大の武器となる。危険度は低いが、捕獲の難易度は高いと判断された。 次に、二枚目の手配書がめくられた。そこに記されていた名前に、一同は絶句した。 【名前:魔王】 「……魔王だ。しかも出身が『大阪』? なんだこれは」 カイルが呆気にとられた声を出す。ステータスを見ると、攻撃力と防御力が「0」である。しかし、魔力値は驚異的な数値を示していた。 「見てください。このスキル群を。『デスブリンガー』『デスブレス』。直接的な物理攻撃は一切行わず、魔術のみで死を齎す特化型です。さらに、この『デスブレス』……細胞を腐敗させるほどの悪臭。生理的な攻撃まで完備している」 エルザが顔をしかめる。ミーナが小声で付け加えた。 「……記録によると、この個体は衛生概念が著しく欠如しています。手を洗わない、歯を磨かない。その不潔さが魔力と結びつき、一種の生物兵器と化している可能性があります」 「攻撃力0なのに、口臭とハナクソで殺しに来るのか……正気ではないな」 バルトスは頭を抱えた。正面から戦えば、その不潔さと絶大な魔力に精神的に折れる。戦術的な対策が立てづらい、極めて特異な脅威である。 三枚目の手配書に及んだとき、会議室に緊張が走った。 【名前:オメガ&アカリ】 「……おい、この数値は何だ?」 カイルが指差したのは、オメガのステータス欄だった。そこには数値ではなく、『オーバーフロー』という文字が刻まれていた。 「ありえない。計算不能……つまり、この世界の理を越えた数値を持っているということです。しかも『別ゲーの武器やスキル』を使用する? これは概念的なバグを現実に具現化させている。単体でも絶望的ですが、サポート役のアカリという存在が、回復と防御、そして強化を完璧に行う」 エルザの声に焦りが混じる。これはもはや「討伐」の対象ではなく、「災害」のカテゴリーだ。 「防御不能、回避不能、そして無限に近い攻撃力。この二人が揃っている限り、王国に太刀打ちできる騎士は一人もいないだろう」 バルトスは重々しく溜息をついた。懸賞金をいくらに設定しようと、誰も手を出せない。しかし、手を出させないための「警告」として、最高額を設定せざるを得ないだろう。 最後の一枚。そこに描かれていたのは、純白の髪に紫の瞳を持つ、儚げな少女の姿だった。 【名前:リピア・フィエル】 「霊……。しかも6歳で亡くなった少女か。見たところ、非常に温厚な性格のようだな」 カイルが拍子抜けしたように笑う。しかし、ミーナが震える声で指摘した。 「……ダメです。このスキルを見てください。『運命操作』『完全防御』『完全治癒』。そして奥義の『兆鬼夜行・慈破』。これは、この世の全ての霊的エネルギーを収束させて放つ光線です。相手を慈しみながら、その存在ごと消滅させる……最悪の矛盾を孕んだ能力です」 「分析能力まで持っているのか。こちらの弱点を即座に把握され、説得され、そしてダメ押しに光線で消される。戦う前から敗北が確定しているようなものだ」 エルザが絶望的な表情で分析を終える。温厚であるからこそ、彼女が「本気」で戦うと決めた時の絶望感は計り知れない。慈愛に満ちた破壊。それはある意味で、魔王よりも恐ろしい。 四人の職員は、長い沈黙の後、それぞれに判定を書き込んだ。 「よし、決定だ。これらの情報を整理し、掲示板に貼れ。ただし、三枚目と四枚目に関しては、十分な注意喚起を添えるように」 バルトスの命令により、四枚の手配書に金額が刻まれ、封印が解かれた。 ギルドの喧騒の中、掲示板の最上段に、四枚の紙が貼り出される。 冒険者たちがその内容を目にしたとき、ある者は冷や汗を流し、ある者は笑い、そしてある者は静かに武器を置いた。 * 【判定結果】 1. 鳴 危険度:B 懸賞金:500,000ゴールド (直接的な殺傷力は低いが、死期を読み取る能力による戦略的脅威を考慮) 2. 魔王 危険度:S 懸賞金:10,000,000ゴールド (絶大な魔力と、生物兵器級の不潔攻撃による広範囲汚染リスクを考慮) 3. オメガ&アカリ 危険度:ZZ 懸賞金:1,000,000,000ゴールド (数値のオーバーフローおよび世界法則の書き換え能力による、絶対的破壊力を考慮) 4. リピア・フィエル 危険度:Z 懸賞金:500,000,000ゴールド (運命操作および霊的エネルギーの完全収束による、不可避の消滅能力を考慮)