ある日の昼下がり。共有の冷蔵庫の最奥に、それは鎮座していた。黄金色のゼリーに、ぽつんと乗ったチェリー。ひとつだけの、贅沢なプリンである。 この至高のスイーツを誰が食すか。そこに集まったのは、種族も次元も異なる四人の異能者たちであった。 「あら、見つけましたわ。このプリンは、家事全般を完璧にこなすメイドである私が、日々の労働への報酬として頂くのが最も合理的だと思いませんこと?」 ワインレッドの髪を揺らし、清楚な微笑みを浮かべて言い放ったのは、次元渡りの悪魔バレガー・レガルガーである。彼女の瞳は金色の光を湛え、静かに、しかし確実に「これは私のもの」というサイコパスな独占欲を滲ませていた。 対するは、金色の長い髪をなびかせた幼き外見の狐耳族、花崎琴音である。彼女は口に咥えた扇子をパチリと閉じると、重厚な口調で言い放った。 「ふん。合理性などというつまらぬ理屈を並べるな。我は今、猛烈に腹が減っておる。空腹こそが正義であり、食欲こそが至高。この我が食すのが道理というものじゃ」 「(・ω・)! ( ・∀・)b」 足元で直径2cmの小さな球体、(・ω・)が激しく跳ねながら主張する。その顔文字のような表情は、どうやら「自分こそが相応しい」とアピールしているようだった。 そして、その場の空気を圧するほどの巨躯、九メートルの純粋な器が静かに見下ろしていた。感情を排した無機質な瞳がプリンを捉える。 「……。論理的に導き出せ。このプリンを摂取することで、最も効率的に精神的充足を得られる個体は誰か。あるいは、誰に譲ることが集団の調和を維持する最適解となるか」 超知能を持つ器は、冷静に条件を提示した。しかし、その声にはかすかな「期待」が混じっているようにも聞こえた。 「あら、器様がそうおっしゃるなら、条件を決めましょうか」バレガーがクスクスと笑う。「例えば、『この場にいる中で、最も最近まで空腹に耐え、忍耐強く待っていた者』はどうかしら?」 「(・ω・)!! (#゚Д゚)」 (・ω・)が猛烈に反論する。どうやら「自分はさっきからずっと待っていた」と怒っているらしい。 「我の勘が告げているぞ。このプリンは、我のような美食家が食してこそ、その真価が発揮されると。貴殿らのような者に食わせるのは、プリンに対する冒涜じゃ」 琴音が毒舌を隠す扇子を再び口に咥え直そうとしたが、あまりの空腹に手が震えていた。それを見た器が、淡々と分析を始める。 「……分析完了。バレガー・レガルガーは不老不死であり、食欲は快楽に過ぎない。また、(・ω・)はサイズ的にプリンひとつで飽和状態となり、効率が悪い。花崎琴音は八百余年を生きる古狐でありながら、その食欲は底なし。かつ、彼女が空腹のまま放置された場合、この部屋の物理法則が崩壊するリスクがある」 器は結論を出した。それは、自身の強大な力による強奪ではなく、極めて合理的な「リスク管理」としての決定であった。 「よって、このプリンは花崎琴音に譲るのが最適である」 「(・ω・)……(´・ω・`)」 (・ω・)がガックリと肩(のような部分)を落として絶望する。 「おやおや、残念ですわね。でも、器様がそう仰るなら私も異論はありませんわ。だって、お腹を空かせた琴音様にプリンを差し出し、その喜ぶ顔を見てから、後でゆっくりお礼(あるいは弱み)を握る方が、私にとって利益が大きいですもの」 バレガーは聖母のような微笑みを浮かべながら、内心で次なる策を練っていた。 こうして、プリンを食べる権利は花崎琴音に決定した。 琴音は、待っていたと言わんばかりに、器に運んでもらったプリンを小さな手で受け取った。彼女は扇子を完全に外し、待望の瞬間を迎える。 「ふふん。当然の結果じゃ。さあ、頂くぞ!」 スプーンが、なめらかなプリンの表面を深く切り裂く。ぷるんと震える黄金色の塊が、彼女の口の中へと吸い込まれた。 「……!!」 一瞬、時が止まった。濃厚な卵のコクと、洗練された砂糖の甘み。そして頂点に君臨するチェリーの酸味が、琴音の味覚を激しく刺激する。 「……美味い。美味すぎるぞ! この滑らかさ、口の中で溶ける至福の感覚! 魚とはまた違う、この濃厚な充足感……! 我の人生(狐生)において、数少ない至高の逸品じゃ!」 琴音は目を輝かせ、最後の一口まで丁寧に、そして貪欲にプリンを完食した。空になった容器を眺め、彼女は満足げに深い溜息をつく。 「ああ、腹が満たされた。今なら誰に何を言われても許してやれる心地じゃ」 その様子を見ていた(・ω・)は、悔しさのあまり床を激しく体当たりで走り回り、小さな火花を散らしていた。バレガーは「あらあら」と口元を隠して笑いながら、器に向かって囁いた。 「次は、冷蔵庫にケーキを仕込んでおきましょうか、器様?」 器は何も答えず、ただ静かに、次の「合理的配分」に備えて目を閉じた。