王都の喧騒から切り離された、冒険者ギルド本部の最深部。そこには「職員専用会議室」という名の、極めて密室性の高い一室がある。重厚なオーク材の円卓には、王国諜報部から届けられたばかりの四枚の手配書が並んでいた。窓の外は快晴であるにもかかわらず、室内の空気は重く、張り詰めている。 「さて……。諜報部がわざわざ『要注意』として回してきたこの四名。我々で危険度と懸賞金の色付けを決めなければならん」 口を開いたのは、会議の進行役であるギルド運営責任者のガレスである。50代の厳格な男性で、元騎士団の副団長という経歴を持つ。口調は常に断定的で、効率を重視する現実主義者だ。彼は鋭い眼光で最初の一枚を指し示した。 「まずはこの男。ベンジャミン。外見はただの中年だが、経歴が不気味だ。湖に捨てられた死体が生存して戻ってきただと? 普通の人間なら絶命している。執念だけで生還し、復讐に走る精神状態は極めて危険だ」 隣に座るミラが、資料を精査しながら溜息をつく。彼女は若くしてギルドの査定官となった才女で、冷徹な分析力を持つ。口調は淡々としており、感情を排した効率的な話し方をする。 「身体能力は平均的ですが、右手のフックという限定的な武装に拘っている点が特筆されます。攻撃力と防御力のバランスは取れていますが、何より『不可視の執念』という精神的圧迫感が厄介です。ターゲットを追い詰めるまで止まらない。これは単純な戦闘力以上の脅威になりますね」 「I Know What You Did Last Summer…(お前たちが去年の夏に何をしたか、私は知っているぞ)……か。気味の悪い台詞だ。だが、魔力が皆無である点は救いか」ガレスが鼻で笑う。 「いえ、魔力が無いからこそ、物理的な殺意が純粋に凝縮されています。危険度はB、懸賞金は中規模に設定しましょう」 次に手に取られたのは、奇妙な風貌の手配書だった。骸骨にピンクのリボン。 「……これは、一体なんなんだ?」 困惑したのは、ギルドの調整役であるボブだった。恰幅の良い中年男性で、元商会出身。お人好しで口調は柔らかく、常に誰にでも歩み寄ろうとする。彼はリボンの可愛らしさに思わず惹かれたが、能力欄を見て絶句した。 「あ、あはは……。聖なる回復魔法を覚えた骸骨、ですか。しかも、アンデッドに回復魔法を使うとダメージになるなんて、本人の意図に反して攻撃手段になっている。……見てください、この『ハイヒール』というスキル。お洒落ですが、転びやすいとか。なんだか憎めない人物ですね」 「ボブ、感情を排せ。骸骨が聖魔法を操るという矛盾自体が、魔導的な特異点となり得る」ミラが冷酷に遮る。「攻撃力は低いが、根性で立ち上がるという特性がある。討伐に時間がかかり、泥沼化する可能性がある。ただし、実質的な脅威度は極めて低い」 「だろうな。危険度はE、あるいはFか。懸賞金は、とりあえずの捜索費用程度で十分だろう」 三枚目の手配書を見た瞬間、ガレスの眉が跳ね上がった。そこには、若く快活そうな少女の姿と、身の毛もよだつ兵器の記述があった。 「義志歩叶……。左脚を自作の武装義足に替えただと? しかもバルカン砲に光学兵器、ロケット砲まで搭載している。これはもはや個人のレベルではない。兵器だ」 「はい。特筆すべきは『アップグレード』スキルです。状況に応じて即興で機能を追加できるため、戦えば戦うほど対策を練られ、強化されることになります。防御力・攻撃力ともに高く、特に遠距離攻撃の火力は絶望的です」ミラが分析を付け加える。 「17歳にしてこの技術力か。狂気すら感じるな。もし彼女が本気で破壊活動に転じれば、街一つが更地になるぞ」ガレスが苦々しく呟く。「危険度はS。懸賞金は跳ね上げる必要がある」 そして最後に、四枚目の手配書が静かに円卓の中央に置かれた。それを見た瞬間、会議室に凍り付いたような沈黙が流れた。人物の名は『寒凪』。 「……おい、冗談だろう。この能力値を見ろ」ボブが震える指で指し示した。 「素早さ50。魔力は0だが、ノーモーションで氷を形成し、体内攻撃まで可能。さらに能力無視・無効化、異次元の受け流し……。極めつけはこの『氷結銀河』。因果さえも凍結させるとはどういうことだ」ガレスの声から余裕が消え、戦慄が混じっていた。 「正真正銘の怪物です」ミラが、生まれて初めて声を震わせた。「身体的・精神的な耐性が完備されており、攻略法が存在しません。さらに『不朽不滅』という特性。殺す手段がない。この人物が本気で敵に回れば、王国すら凍りつくでしょう。もはや懸賞金という概念が意味をなさないレベルです」 「……だが、諜報部は彼を『手配』しろと言ってきた。つまり、制御不能な特異点として管理下に置きたいということだ。危険度は……最上級。ZZ。懸賞金は、国家予算を削ってでも設定しなければならん」 四人の職員は、深い溜息と共にそれぞれの査定結果を書類に書き込んだ。この査定が、明日から冒険者たちに絶望と希望を振りまくことになる。 会議室を出たガレスが、掲示板へと向かう。彼はため息をつきながら、王国諜報部から届けられた四枚の手配書を、ギルドの掲示板にガチャン、ガチャンと順番に貼り付けた。 通りがかった冒険者たちが、その懸賞金額と危険度の表記を見て、一人、また一人と絶句していくのが彼には見えていた。 * 【査定結果】 1. ベンジャミン 危険度:B 懸賞金:500,000ゴールド 2. ストルケン 危険度:F 懸賞金:10,000ゴールド 3. 義志 歩叶 危険度:S 懸賞金:15,000,000ゴールド 4. 寒凪 危険度:ZZ 懸賞金:1,000,000,000ゴールド(国家特別指定)