東洋の深い山々に抱かれた、紅葉の季節。色鮮やかな朱色と黄金色の絨毯が広がる山道を、個性豊かな一行が歩いていた。 「へへん!見てよこの景色!最高じゃん!あー、早く温泉入って暴れたいっていうか、リラックスしたいぜ!」 陽気に跳ね回るのは、半狼獣人の少年、連撃魔バンチだ。もっふもふの尻尾を激しく振りながら、彼は隣を歩く巨漢に話しかける。 「むむ。バンチ殿、あまり跳ね回ると足を取られてござるぞ。……それにしても、この山道に漂う甘い香りは……もしかして、あちらの茶屋に団子があるのでは?」 薄紺の忍装束に身を包み、はち切れんばかりの筋肉を盛り上げた巨漢、新田末丸だ。忍びとは思えぬ八尺の巨体だが、その足取りは驚くほど静かである。 彼らの後方からは、奇妙な二人組が続いていた。 「サメ!サメサメ!」 サメパーカーを深く被った少女、赦悪 椿が、周囲の自然に興味を示しながら短く叫ぶ。彼女は言葉こそ少ないが、その目は獲物を探すサメのように鋭く、それでいてどこか好奇心に満ちていた。 「フゥン、なるほど。この地の霊脈の流れは実に興味深い。我が天才的な魔力感知能力によれば、あそこに建っているのが目的の宿、『栄愛之湯』ということだな」 白装束に身を包み、大げさなポーズで指を差すのは、自称天才のレクト・ファムだ。実際にはただの勘だが、彼女はそれを「計算通り」として処理する。 一行が辿り着いたのは、趣のある小さな老舗旅館だった。出迎えたのは、腰の曲がったが眼光だけは鋭い、経営主の婆さんである。 「いらっしゃい。賑やかな連中だねぇ。予約は入ってるかい」 「はい!予約してたバンチです!よろしくお願いします!」 「むむ、お世話になりまする」 「サメー!」 「ハァン、チェックインの手続きを済ませようか」 婆さんは呆れたように笑いながら、彼らを案内した。男女に分かれ、それぞれに割り当てられたのは畳の香りが心地よい大部屋である。 男部屋では、バンチが畳の上でゴロゴロと転がりながら、末丸に絡んでいた。 「なあ末丸さん!その筋肉、どうやって鍛えたんだよ?オレももっとパワー上げたいぜ!」 「むむ。忍びの鍛錬でござるが……基本は地道な筋力トレーニングと、甘い物を食べてエネルギーを補給することにござるな」 「えー!甘い物!?そんなの特訓じゃなくてただの食いしん坊じゃん!」 「失礼な!これは効率的な栄養摂取でござる!」 一方、女部屋ではレクトが布団の上に上がり、もったいぶった仕草で椿に語りかけていた。 「いいかい、椿。この宿に滞在する間、私は次なる大魔法の構想を練る。君も私の助手として、適当にサメの知識を披露するといい」 「サメ!サメ〜(サメが一番!)」 「フフン、話が早いな。実に合理的だ」 そして、待ちに待った夕食後の時間。この宿の目玉である、紅葉を一望できる貸切露天風呂に、彼らは分かれて浸かっていた。 湯気の中に紅葉が美しく映え、心身ともに弛緩した至福のひととき。しかし、その静寂は最悪の形で破られた。 「ハハハ!こんな辺境に、ちょうどいい獲物が集まっているじゃないか!」 突如、男風呂の壁を突き破って、一人の男が乱入してきた。金髪をなびかせ、眩いばかりの聖剣を携えた男——幸田優希である。その顔には「勇者」としての完璧な微笑みが張り付いているが、目は傲慢さと下劣な欲望に満ちていた。 「なっ!?あんた誰だ!?」 バンチが驚いて飛び起きる。同時に、勇者の背後からCチームの兵たちが襲撃を開始した。 「正義の名のもとに、君たちを『浄化』してあげよう!」 勇者が聖剣を大きく振り下ろした。その凄まじい衝撃波が男風呂を直撃し、なんと男女の風呂を隔てていた見事な竹垣を粉々に粉砕した! 「サメェ!!?」 隣の女風呂で浸かっていた椿とレクトが、突然目の前に現れた男たちの姿に絶叫する。視界が開け、そこには全裸に近い状態で驚愕する男女の姿があった。 「うわああ!女の人たちがいる!!」 「な、何という破廉恥な!……いや、実に興味深い光景だ!」 現場は大混乱に陥った。しかし、敵意剥き出しのCチームに構っている暇はない。 「ふざけんな!せっかくの温泉をめちゃくちゃにしやがって!」 バンチが怒濤の勢いで飛び出した。しかし、そこは濡れたタイル床である。 「おっとっと!」 ズザザザッ!と派手に滑り、バンチはそのまま勇者の股間めがけてダイブ。幸運(?)にも、勇者の急所に頭突きを食らわせる。 「ぎゃあああ!?この野蛮人が!!」 「へへん、ラッキー!」 一方、末丸がその巨体で敵をなぎ倒そうとしたが、あまりの筋肉量と水分のせいで足が滑り、バランスを崩した。そのままドシン!と背後で呆然としていたレクトの上にのしかかる。 「ぐふぅ!?ちょ、ちょっと!この筋肉の塊は何なんだ!潰れる!死ぬ!!」 「むむ!申し訳ない!滑ったでござる!」 混沌は加速する。椿が「サメ!」と叫びながらシャークバイトのオーラで敵を噛み切ろうとするが、勢い余って近くにいたバンチの腕をガブリ。 「いってぇぇ!椿、オレまで噛むなよ!!」 濡れた床でのスラップスティック・コメディのような乱戦。攻撃の矛先は絶えずズレ、仲間同士が物理的に衝突し、意図しない密着が発生する。 「この、卑俗な連中め!聖剣の力を見よ!」 勇者が再び剣を振るうが、足元の石鹸で滑り、自分自身の勢いで湯船に真っ逆さまに水没した。ボコボコと泡を吹く勇者に、バンチが追い打ちの『レゾナンスブロー』を叩き込む。 「連撃魔、ここに見参!食らえええ!!」 ドガァァァン!と水柱が上がり、勇者はそのまま壁まで吹き飛ばされた。Cチームの兵たちも、足場を失い滑り転がる彼らに、末丸の「手刀」が雨あられと降り注ぎ、あっけなく全滅した。 静寂が戻った。しかし、そこにあるのは勝利の余韻ではなく、全裸に近い男女が、壊れた竹垣を挟んで互いに気まずそうに見つめ合うという、なんとも言えない空気だった。 「…………」 「…………」 誰からともなく、彼らは黙々と壊れた竹垣を修復し始めた。末丸の怪力とレクトの適当な魔導具(接着剤的な何か)によって、なんとなく元の形に戻った。 その後、彼らは正座して婆さんに深く謝罪した。 「本当にすみませんでした……」 「……まあいい。あんたたちのような賑やかな客が来て、宿に活気が出たよ。修理代は後で請求するからね」 その夜。それぞれの大部屋に戻った彼らは、布団の中で天井を見つめていた。 バンチは、自分の軽率さと、同時に感じた不思議な連帯感について考えていた。 レクトは、「あの状況での私の振る舞いは、天才として完璧だったはずだ」と自分に言い聞かせながら、頬を赤らめていた。 椿は、静かにサメのことを考えていた。 末丸は、忍びとしての不甲斐なさと、それでも守れた仲間たちのことについて、深く溜息をついた。 翌朝。チェックアウトを済ませ、宿を出る一行。 「じゃあな、みんな!またいつか、今度はゆっくり温泉入ろうぜ!」 バンチが快活に手を振る。 「むむ。次はぜひ、美味しい団子屋を教えていただきたい」 「フゥン、まあ、たまにはこういう休暇も悪くないということだな」 「サメサメ(またね)」 それぞれの帰路に着く彼らの背中には、秋の澄んだ空気が流れていた。心の中に秘めた気恥ずかしさや、奇妙な友情のようなものを抱えながら、彼らはまたそれぞれの日常へと戻っていくのであった。