夕暮れの屋敷には、時計の音がなかった。 正確には、時計はあった。廊下の壁にも、食堂の棚にも、暖炉の上にも、大小さまざまな時計が置かれている。けれど針はばらばらに進み、あるものは止まり、あるものは逆向きに回っていた。 その中心で、赤いスーツの白ウサギ――アルビノは、長い白髪を背中に流しながら、懐中時計を眺めていた。鼻メガネの奥の赤い瞳が、眠そうに針を追う。 「三時……くらいですねえ」 「くらい、って何ですか。おやつの時間ぐらい、ちゃんと決めてください」 テーブルの向こうで、銀髪のメイドロイド、チェダーがのり塩味のポテトチップスをつまんだ。メイド服の胸元には、食べかすが二つ落ちている。彼女はそれを見ても拾おうとしなかった。 「おやつは、食べたいときが食べどきですよ」 「アルビノさんに言われたくないです」 「そうですかあ」 アルビノは特に気を悪くした様子もなく、懐中時計の蓋を閉じた。その動作に合わせるように、長い耳がゆっくり揺れる。 窓辺では、元シスターのノクターン・ルナリスが椅子に深く腰を沈めていた。適当に着た修道服の裾は少し乱れ、黒い長髪は寝起きのようにぼさぼさだ。彼女は片手に煙草、もう片手に酒瓶を持ち、窓の外を眺めていた。 「おやつねえ……酒のつまみなら、時間なんざどうでもいいんだけど」 「ノクターンさんは、昼から飲んでますよね」 「昼だって決めたのは誰さ。太陽? あれも神様の作品だろ。私は信用してないんだよねえ」 「太陽にまで喧嘩を売るのは、さすがにめんどくさいです」 チェダーはそう言いながら、どこからともなくソファを出現させた。重厚なソファが床に現れ、彼女は当然のようにその上へ移動する。隣にはゲーム機が置かれ、画面には色鮮やかなパズルゲームが表示された。 「家事はどうしたんですか」 声の主は、淡い紫色の雲に乗ったステラ・スターシープだった。青いパジャマ姿の彼女は、雲の上で半分眠りながら、ゆっくりと部屋へ入ってくる。肩ほどの薄紫の髪が、雲の流れに合わせてふわふわ揺れた。 「家事より大事なものがあります」 「ゲームですか?」 「休息です」 「ゲームをしながら言うことではないと思います」 「ゲームも休息の一部です」 チェダーは画面から目を離さず答えた。 アルビノはそんな三人を見回し、小さく首を傾げた。 「ところで、今日は何をする日でしたっけ」 「知らないんですか?」とチェダー。 「知らないから聞いているんですよお」 「予定表なら、昨日の夜に壁へ貼りました」 「昨日の夜は寝てました」 「アルビノさんは寝てなくても見てないでしょう」 「よく分かりましたねえ」 ノクターンが煙を吐き、口元だけで笑った。 「この家、まともに予定を守る奴が一人もいないじゃん。予定表を作るだけ無駄じゃない?」 「私は守ろうとしました」 「三分でソファを出した人が何を言ってるんですか」 「守ろうとした結果、休む必要があると判断しました」 「判断が早いんだよねえ」 ステラが雲の上で小さくあくびをした。雲は彼女の気分に合わせるように高度を下げ、テーブルの脇でふわりと止まる。 「予定表には、何と書いてあるんですか?」 「ええと……」 チェダーはゲームを一時停止し、ポテトチップスの袋を覗き込んだ。袋の底には、折り畳まれた紙が入っている。彼女はそれを取り出し、面倒そうに開いた。 「屋敷の大掃除。備品の整理。食料の買い出し。夕食の準備。反省会」 「多いですねえ」 「多いから嫌なんです」 「最後の反省会って、何を反省するんだろうねえ」 ノクターンは酒瓶を傾けながら言った。 「たぶん、昨日も何もしなかったことじゃないですか?」 「昨日も何かしたでしょ。私は酒を飲んだし、チェダーはゲームをしてた。ステラは寝てた。アルビノは……」 「時計を見てました」 「ほら、全員ちゃんと活動してる」 「家事ではありません」 チェダーは紙をテーブルへ置き、深くため息をついた。機械仕掛けの身体であるはずなのに、そのため息だけは妙に人間らしい。 「そもそも、どうして私が全部やることになっているんですか」 「メイドだからでは?」とアルビノ。 「メイドは万能な奴隷ではありません。あと、私は怠惰なメイドロイドです」 「自分で怠惰と言うんですねえ」 「事実なので」 「潔いねえ」 「褒めても働きません」 「まだ何も頼んでませんよお」 「頼まれる前に断っています」 ノクターンがくすくす笑い、灰皿に煙草を押しつけた。灰皿はすでにいっぱいだったが、彼女は気にせず、その上に新しい灰を重ねる。 「まあまあ。大掃除なんて、汚れたところを見なけりゃ済む話だよ」 「見えない場所に押し込むのは掃除ではありません」 「見えなくなったなら、生活上は掃除だろ」 「そういう理屈で地下室が物置になったんですよ」 チェダーの言葉に、部屋の空気が少しだけ止まった。 アルビノの耳がぴんと立つ。ステラも眠そうな目をわずかに開いた。 「地下室には、何があるんですか?」 「知りません」 「チェダーさんが知らないんですか?」 「知りたくないんです。知ったら整理しろと言われるでしょう」 「私は言いませんよお」 「アルビノさんは言わなくても、目が言います」 「私の目は、いつも赤いだけです」 ノクターンがまた笑う。 「いいじゃん、地下室。酒でも隠してあるかもしれないし、面白いものが出てくるかもしれない」 「面白いものが出てきても、片づけるのは私です」 「じゃあ行かない?」 「行きません」 「即答だねえ」 「拒否権を行使します」 チェダーはソファに沈み込み、両腕を組んだ。まるで地下室という言葉そのものを拒絶するような態度だった。 ステラは雲から降りず、ぼんやりと天井を見上げている。 「地下室……暗いですか?」 「たぶん暗いでしょうねえ」 「なら、寝やすそうです」 「ステラさんはどこでも寝られるでしょう」 「そうですねえ……」 返事の途中で、ステラのまぶたが閉じかける。雲がゆっくり回転し、彼女を包み込むように形を変えた。 「寝ないでください」 「寝てません……考えてます……」 「何をですか?」 「地下室に、枕を持っていくかどうか……」 「行く気はあるんですか?」 「みなさんが行くなら……」 その言葉に、三人の視線が集まった。 アルビノは懐中時計を弄び、ノクターンは酒瓶を置き、チェダーはゲーム画面を再び一時停止したまま、ゆっくり顔を上げた。 「ステラさんが行くなら、行ってもいいかもしれませんねえ」 「私は行くとは言ってませんよ」 「でも、枕を持っていくか考えてました」 「寝る準備だけして、行かないという選択肢もあります」 「それ、チェダーさんの得意分野ですねえ」 「褒められている気がしません」 「褒めてませんから」 ノクターンは立ち上がった。修道服のポケットから煙草の箱を取り出し、残りを確認する。 「地下室に酒があるか見に行くくらいなら、付き合ってやるよ。なければ戻ればいいし」 「ノクターンさんが行くなら、私も行きます」 アルビノが椅子から立ち上がる。赤いスーツの裾を整え、手袋を嵌め直す。長い白髪が床に触れそうになり、彼女は束ねることもなく、そのまま肩から前へ流した。 「私は行くとは言ってません」 チェダーはソファにしがみついた。 「チェダーさん、地下室の扉まででいいですよ」 「扉の前まで行ったら、そのまま開けろと言うでしょう」 「言うかもしれませんねえ」 「正直ですね」 「では、チェダーさんはここで待っていてください」 「皆さんが戻ってくるまで、ここで待っています」 言い切った瞬間、ソファの周囲に淡い光が浮かび上がった。結界が展開され、チェダーとソファを包む。 ノクターンが呆れた顔をする。 「本当に置いていく気かい?」 「置いていかれる準備はできています」 「それ、胸を張って言うことじゃないよ」 「怠惰には覚悟が必要なんです」 アルビノは感心したように頷いた。 「深いですねえ」 「浅いですよ」 結局、チェダーはソファから動かなかった。 アルビノ、ノクターン、ステラの三人は廊下へ出た。ステラは雲に乗ったまま、眠そうに二人の後ろを漂う。廊下の時計はそれぞれ別の時刻を示していたが、アルビノは気にしなかった。 「アルビノさんは、本当に時間を気にしないんだねえ」 ノクターンが言った。 「気にしないというより、気にしても仕方がないと思っているんですよお。時間は勝手に進みますし、遅れたら遅れたで、あとから何とかなることもあります」 「元シスターとしては、ずいぶん投げやりだね」 「元、ですからねえ」 アルビノは懐中時計を開いた。針は三時を指していたが、秒針だけが逆向きに回っている。 「ノクターンさんは、どうして神様が嫌いなんですか?」 「急だねえ」 「前から少し気になっていました」 「聞いてどうするのさ」 「聞くだけです」 ノクターンはしばらく黙って歩いた。修道服の裾が床を擦り、彼女の足音だけが長い廊下に響く。 「神様ってのは、何でも見てる顔をしてるくせに、都合の悪いときは黙るんだよ。祈れば救う、信じれば報いる。そんな言葉を散々聞かされたけど、私が欲しいときには何もなかった」 軽い口調は崩れていた。それでもノクターンは、深刻そうな顔をしなかった。 「だから嫌い。単純でしょ?」 「単純ではないと思います」 「そう? 私は単純だと思ってるよ。嫌いなものは嫌い。好きなものは酒と煙草。分かりやすいじゃん」 「では、今は何が好きですか?」 「今?」 「この屋敷で、です」 ノクターンは少しだけ目を細め、前方を見た。階段の先に、地下へ続く扉がある。 「……まあ、暇つぶしには困らないかな」 それだけ言って、彼女は扉の前に立った。 アルビノが懐中時計を見つめ、ステラが雲の上で首を傾ける。 「鍵、掛かっていますねえ」 「壊す?」 「家の扉をですか?」 「開かないなら仕方ないでしょ」 「チェダーさんに任せたらどうでしょう」 「えっ、私を呼ぶんですか?」 廊下の向こうから、チェダーの声がした。 三人が振り返ると、チェダーがソファごとゆっくり滑ってきていた。結界に包まれたソファは床を擦ることなく、まるで見えない台車に乗っているように移動している。 「来ないと言っていませんでしたか?」 「皆さんがいないと、ポテトチップスを取ってくれる人がいないので」 「自分で取れますよね」 「取れることと、取りに行くことは別です」 「もっともらしく言わないでください」 チェダーは扉の前まで来ると、ソファに座ったまま扉を見上げた。 「それで、鍵を開けるんですか?」 「お願いします」 「めんどくさいのでお断りします」 「まだ頼んでません」 「頼まれる前に断るのが、私の流儀です」 ノクターンが扉の取っ手を掴んだ。力を込める前に、扉の向こうから小さな音がした。 かちり、と鍵が外れる。 四人は同時に黙った。 「……誰か中にいるのかな?」 ノクターンが囁いた。 「私たち以外に、この屋敷に住んでいる人はいないはずです」 「はず、なんですねえ」 「確認したくないので、今まで確認していません」 チェダーはソファの背もたれに身を寄せた。 「帰りましょう」 「まだ何も見ていませんよ」 「見ないという選択肢があります」 「でも、酒があるかもしれない」 ノクターンは扉を開けた。 地下室には、古い家具や空箱、使われていない本棚が並んでいた。壁際には大量の瓶が積まれている。 ノクターンの深紅の瞳が輝いた。 「酒だ」 「飲める状態でしょうか?」 「瓶に入ってるなら、たぶん飲める」 「判断が雑ですねえ」 「人生なんてそんなもんだよ」 ノクターンが瓶を一本取り上げると、ステラが雲ごと近づいてきた。 「ラベルがありません」 「中身が分からないのは、少し怖いですね」 「分からないから面白いんじゃない」 「私は分かっているもののほうが安心します」 「時間も?」 「時間は分からなくても平気ですよお」 その矛盾に、ノクターンが吹き出した。 チェダーは地下室へ入らず、扉の外から瓶の山を眺めている。 「それを持ち帰るなら、私は運びません」 「じゃあ誰が運ぶのさ」 「ノクターンさんです」 「私ひとりで?」 「アルビノさんもいます」 「私は時間を見ます」 「役に立たないですねえ」 「ステラさんは?」 「寝ます」 「でしょうね」 ステラは雲の上で、すでに目を閉じていた。雲がゆらゆら揺れ、彼女の寝息に合わせて小さく上下している。 ノクターンは瓶を一本、アルビノへ渡した。アルビノは両手で受け取り、鼻を近づける。 「甘い匂いがします」 「なら飲める」 「その基準で大丈夫ですか?」 「大丈夫じゃないかもしれないけど、私は気にしない」 「私は気にします」 「チェダーは?」 「私は機械なので飲食の必要がありません」 「でもポテチ食べてるよね」 「趣味です」 「酒も趣味でいいじゃん」 「私は飲みません」 「つまらないねえ」 「褒め言葉として受け取ります」 地下室の奥から、さらに物音がした。 今度は全員が聞き間違いではないと分かった。 ステラも目を開け、雲の上から半身を起こす。 「……何かいます」 「見に行きますか?」 「私はここにいます」 チェダーは即座にソファの上で丸くなった。 「私は、ちょっとだけ見てきますねえ」 アルビノが歩き出す。 「ひとりで行くの?」 「ノクターンさんも来ますか?」 「酒を持ってるからねえ」 「理由がそれでいいんですか?」 「十分でしょ」 ノクターンが続き、ステラも雲を漂わせて後を追った。チェダーは渋々ソファを動かし、三人から離れすぎない程度の距離を保つ。 地下室の奥には、小さな机があった。机の上には一冊の帳簿と、古いティーカップが置かれている。物音の正体は、窓から入り込んだ風で、カップの横の紙がめくれていた音だった。 「なんだ、紙か」 ノクターンは残念そうに言った。 「怖いものではなくてよかったです」 アルビノが帳簿を開く。そこには、この屋敷で暮らしてきた者たちの名前と、日々の記録が残されていた。 『本日、大掃除を予定。実施せず』 『本日、食料の買い出しを予定。実施せず』 『本日、反省会を予定。実施せず』 同じ文面が、何十日分も続いている。 「これは……」 チェダーが帳簿を覗き込んだ。 「私たちの生活記録です」 「ずいぶん正確ですねえ」 「正確すぎて嫌です」 ノクターンは肩をすくめた。 「いいじゃん。何もしてない日が、ちゃんと記録されてる」 「誇ることではありません」 「でも、全員で何もしてないんだよ。ひとりで何もしないよりは、少し楽しいじゃん」 チェダーは反論しかけて、やめた。 ステラは帳簿の端へ指を置き、眠そうに眺めている。 「みんなで寝ていた日も、書いてありますか?」 「ありますねえ。『全員、昼寝のため予定を延期』」 「いい日です」 「よくありません」 「でも、覚えているでしょう?」 ステラの言葉に、チェダーは少し黙った。 ノクターンも酒瓶を抱えたまま、帳簿の文字を見つめている。 屋敷で何をしたかと尋ねられれば、彼女たちは大したことをしていない。掃除も、買い出しも、決められた予定も、ほとんど放置している。けれど、同じ部屋でだらだら過ごし、誰かの声を聞き、誰かの寝息に気づき、くだらない言い争いをしてきた。 それらは帳簿の短い一行に収まってしまうほど、ささやかな日々だった。 「……反省会、やりますか?」 アルビノが尋ねた。 「何を反省するんですか?」 「今日も何もしなかったことを」 「まだ今日が終わっていません」 「では、今日も何もしない予定を立てましょう」 ノクターンが笑った。 「それなら賛成」 「私はソファに戻ります」 「夕食は?」 「ポテチがあります」 「それだけでは足りませんよお」 「では、アルビノさんが何か作ってください」 「私は時計を見る係なので」 「その係、必要ですか?」 「必要ではありませんが、私がしたいので」 ステラが雲の上で手を上げた。 「私は、眠る係をします」 「係にしなくていいです」 四人は地下室を出た。酒瓶は一本だけノクターンが持ち帰り、帳簿はアルビノが大切そうに抱えている。チェダーはソファに戻ると、何事もなかったかのようにゲームを再開した。 夕食は、チェダーが嫌々ながら戸棚を開け、アルビノが時計を見ながら野菜を切り、ノクターンが酒を味見し、ステラが雲の上で眠っている間に完成した。 料理ができたころには、壁の時計がそれぞれ別の夜を示していた。 「では、いただきます」 アルビノが手を合わせる。 「いただきます」 ノクターンも続いた。 「私は食べませんが、座っています」 「それはいただきますと言わないんですか?」 「言ってもいいなら言います。いただきます」 チェダーはそう言い、ポテトチップスを一枚口へ入れた。 ステラは寝たままだったので、アルビノが雲を少しだけテーブルへ寄せた。するとステラは目を閉じたまま、スープの香りを嗅ぎ、ゆっくりと微笑んだ。 「……あたたかいです」 「起きているんですか?」 「少しだけ……」 食卓には、静かな時間が流れた。 時計の音は相変わらずばらばらだった。それでも誰も気にしなかった。 食事のあと、帳簿を閉じる前に、アルビノが新しいページを開いた。 『本日、大掃除を予定。地下室を少し確認した』 『食料の買い出しは実施せず』 『反省会は実施せず』 『全員で夕食を食べた』 そこまで書き、アルビノは筆を止めた。 「最後に、何か付け足しますか?」 「酒があった、と書いてよ」 「ポテチを食べたことも」 「眠りました……」 「私は時計を見ました」 「それは書かなくてもいいでしょう」 「大切なことですよお」 アルビノは皆の言葉を聞きながら、ゆっくり帳簿へ書き加えた。 『本日、特に何もなかったが、退屈ではなかった』 その一文を見て、誰もすぐには何も言わなかった。 やがてノクターンが、少しだけ照れたように笑う。 「悪くないねえ」 「そうですねえ」 「明日の予定は?」 ステラが雲の上から尋ねた。 チェダーは即座に答えた。 「ありません」 「本当ですか?」 「今、作りました」 「それでは、明日は何をするんですか?」 「何もしません」 「素敵です……」 ステラは満足したように目を閉じた。 ノクターンは酒瓶を傾け、アルビノは懐中時計を閉じる。チェダーはソファに沈み、ゲームの音だけが小さく部屋に響いた。 最後に、アルビノが三人へ尋ねた。 「では、せっかくですから、お互いの印象を言いませんか?」 「急だねえ」 「こういう日は、最後にそういうことをするものらしいです」 「誰が決めたんですか?」 「今、私が決めました」 チェダーは面倒そうにしながらも、ゲームを停止した。 アルビノはまず、チェダーを見た。 「チェダーさんは、とても怠惰で、何でも断る方ですけれど……実は、皆さんが困らないように、さりげなく周りを見ていると思います。ソファを出してくれるのも、みんなが休める場所を作りたいからでしょう? 本人は認めないでしょうけど、優しい方です」 「……勝手に分析しないでください。私はただ、立つのが嫌なだけです」 チェダーはそう言ったが、声はいつもより少し柔らかかった。 続いて、ノクターンがアルビノを見た。 「アルビノは、のんびりしてるようで、変なところをよく見てる。時間にうるさくないくせに、みんなのことはちゃんと覚えてるんだよねえ。あと、何を言っても怒らないから、こっちが調子に乗りやすい。まあ……一緒にいると楽だよ」 「ありがとうございます。ノクターンさんは、好き嫌いがはっきりしていて、でも嫌いなものの話をするときより、好きなものの話をするときのほうが少し嬉しそうです。そこが可愛らしいと思います」 「可愛いはやめてよ。酒を飲む元シスターに言う言葉じゃないでしょ」 「そうですかあ?」 アルビノの視線がステラへ向く。 「ステラさんは、いつも眠そうで、過去のことをあまり話しません。でも、誰かの言葉を聞いていないようで、実はちゃんと聞いている方です。皆さんが一緒にいることを、誰より大切にしている気がします」 ステラはしばらく黙っていた。やがて、ゆっくりと目を開く。 「アルビノさんは……時間を気にしないから、急かしません。隣にいると、眠ってもいいと思えます」 「それは嬉しいですねえ」 「ノクターンさんは、怖そうに見えるけれど、寂しいときほどよく喋ります。だから、たぶん優しい人です」 「たぶん、が付くんだねえ」 「チェダーさんは、めんどくさいと言いながら、いつも皆さんの分までポテトチップスを残しています」 チェダーが固まった。 「……それは、袋の底に残っただけです」 「そうですか……」 「そうです」 それからチェダーは、三人を順番に見た。 「アルビノさんは、放っておくといつまでも時計を見ているので、たまにはこちらを見てください。ノクターンさんは、酒と煙草を少し減らしてください。ステラさんは……そのままでいいです。寝ていても、いないよりはましなので」 「それ、印象ですか?」 「私なりの印象です」 ノクターンが笑い、ステラは安心したように目を閉じた。 アルビノも懐中時計をしまい、赤い瞳を三人へ向ける。 「私も、皆さんといると、時間がどうでもよくなります。遅れても、何もしなくても、明日になっても、また同じ場所に戻ってこられる気がします」 時計の針が、ひとつだけ音を立てた。 それは正しい時刻を示していなかった。 けれど、その場にいる誰も、もう気にしなかった。