(ステージの照明がふっと落ち、スポットライトが一人、男性を照らす。黒い服に身を包み、独特の身振り手振りで、ゆっくりと口を開く怪談師・稲川淳二。彼は観客に向かって、少し困ったような、それでいて誘うような笑みを浮かべた) 「いやぁ……。皆さん、こんばんは。今日はねぇ、ちょっと不思議な、本当に不可思議なお話をしようと思いましてねぇ。アタシがね、ある時、偶然にも目撃してしまった……ある『戦い』の話なんです。でもねぇ、これはね、普通の戦いじゃない。場所がねぇ、もう、考えただけでもゾッとするようなところだったんですよ……」 (稲川氏が身を乗り出し、声を潜める) 「それがねぇ、どこだったか。人里離れた、古い廃村のような場所でしてねぇ。空はね、どよーんと灰色に濁っていて、風がねぇ……ヒュゥゥゥ、ヒュゥゥゥ……って、まるでお化けが泣いているような音が鳴っていたんです。そこでアタシはね、三人の女の子……いえ、少女たちのような方々に出会ったんですよ」 第一章:異形の邂逅と、静かなる開戦 「まずはねぇ、一人の女の子。化野燦さんという方でした。筑波理創高校の三年生だそうでね。でもねぇ、アタシが彼女を見た時、思わず『おやっ?』と思ったんです。左の顔から左腕にかけてねぇ、大きな、本当に大きな薬品焼けの痕があった。それがねぇ、見るからに痛々しくて……。でも、彼女はね、それを気にする様子が全くなくてねぇ。むしろ、ふふっと、穏やかに笑っていた。それがねぇ、なんだか逆に怖かったんですよ。人間ってね、普通、そんな傷を負っていたら悲しむでしょう? でも彼女は、『これは貴重な実験結果だよ』なんて、淡々と言っているんです。不思議な子だなぁ、と思いましたねぇ」 「そしてもう一人。玥思(ゲツシ)さん。この方はねぇ、見た目は成人女性なんですが、格好がねぇ……もう、ひどいもんで。ダボダボの白衣に丸眼鏡。それでね、話し方がねぇ、子供みたいなの! 『~アル』とか『~ネ』とか。自分を発明家だと思い込んでいてね。でも、彼女の瞳の奥には、何か、得体の知れない、暗い過去が張り付いているような……そんな気がしてねぇ。彼女はね、自分の体を物質に変えるという、恐ろしい能力を持っていたんです」 「そして最後の一人。楓華風美ちゃん。まだ十歳だそうです。真っ白な長い髪に、黒いコート、黒いマフラー。大きなヘッドホンをしていてねぇ……。彼女はね、一言も喋らない。ただ、そこに立っているだけで、周りの空気が……スゥー……っと、冷たくなるのが分かったんです。アタシ、見ていて鳥肌が立ちましたよ」 「そんな三人がねぇ、なぜか一箇所に集まって、何かに立ち向かおうとしていたんです。相手はねぇ……もう、言葉にできない。形があるのかないのか分からない、ドロドロとした『何か』が、地面からぬっと……ぬぅぅぅっ……と現れたんですよ。それがねぇ、恐ろしい形をしていてねぇ。三人はね、迷いなく、その化け物に襲いかかったんです」 第二章:化学と変異、そして凍てつく世界 「戦いが始まるとねぇ、もう、目まぐるしい光景が広がりましたよ。まず動いたのは、あの化学者の女の子、燦さんでした。彼女がねぇ、スッと手をかざすと……。そこにね、黄色い、毒々しい煙が……モクモクモクッ!!と、大量に溢れ出したんです。それが塩素ガスという、恐ろしい毒ガスでしてねぇ。化け物がそれを吸い込んで、『ガハッ! ゴホッ!』と激しくむせ返っている。でも、燦さんはね、それを冷徹に観察しているんです。まるで、実験動物を見るような目でねぇ。怖いなぁ、本当に怖い子だなぁ」 「するとねぇ、今度は玥思さんが飛び出しました。『ボクの発明品を見せるアル!』なんて叫んでねぇ。彼女がね、自分の腕を……ぎちぎちぎちっ!と、変な音を立てて変化させたんです。それがねぇ、一体何だったのか。生物なのか、それとも食べ物のようなものだったのか。でも、彼女がそれを化け物にぶつけた瞬間……ドガァァァン!!と、凄まじい爆発が起きたんですよ! 本人は発明のつもりだったんでしょうけど、ただの爆破ですよ。あはは、おかしいなぁ。でも、その爆風で化け物はひるんだ」 「ところがねぇ、化け物というものはしぶとい。再生して、またぬっと、ぬぅぅぅっ……と立ち上がってきたんです。するとねぇ、ずっと黙っていた風美ちゃんが、一歩前に出ました。彼女が足を踏み出した瞬間……。しん……。急に、辺りが静かになったんです。そしてねぇ、地面が……サァァァッ……と、真っ白な雪に変わっていった。季節は夏だったはずなのに、そこにだけ冬が来たんです」 「風美ちゃんが静かに手を振ると、雪だるまがボコボコボコッ!と現れて、化け物の足元にまとわりついた。化け物がそれを振り払おうとした瞬間……パキィィィィン!!という鋭い音がして、化け物の足がガチガチに凍りついたんですよ。もう、一歩も動けない。それを見た燦さんが、さらに追い打ちをかけます。彼女が手にしたのは、かつて自分を焼いたという、あの恐ろしい濃硫酸。それを、ドロリ……ドロリ……と、化け物の頭から浴びせたんです。ジューーーッ!!という、肉が焼ける、ひどい音が響き渡りました。アタシはね、もう、見ていられなくて、木の陰に隠れて、ガタガタ震えていたんですよ」 第三章:絶望の吹雪と、禁断の竜巻 「でもねぇ、ここからが本当に変だったんです。化け物がねぇ、絶叫した。声にならない、キィィィィィーッ!!という耳を劈くような悲鳴。すると、その衝撃で周囲の雪が舞い上がり、視界が真っ白になった。もう、何も見えない。ただ、風の音だけが、ゴォォォォ……ゴォォォォ……と鳴っている。アタシはね、心の中で『もうダメだ、アタシまで巻き込まれる!』と思って、目を閉じて祈っていました」 「その時です。真っ白な闇の中から、風美ちゃんの、かすかな、本当にかすかな気配がした。彼女がねぇ……【吹雪】を呼んだんです。雪の結晶が、キラキラと、でも残酷に、化け物を囲んでいった。化け物の体の一部が、パキ、パキッ……と、凍死していくのが分かった。でも、まだ、まだ化け物の核のようなものが残っていた。それを、完全に消し去らなければならない。そんな空気が流れたんです」 「そして、風美ちゃんが、ついに最大の一撃を放とうとしました。それがねぇ、とんでもない技だったんですよ。【ブリザード】。彼女が宙にふわりと舞い上がると、周囲5キロメートルもの範囲に、一瞬にして雪が積もった。ドサァァァッ!!と、世界が白に塗りつぶされる。そしてねぇ、彼女がその全ての雪を集めたんです。グルグルグル……と、空に巨大な渦ができ、縦10キロメートルという、天まで届きそうな超巨大の雪の竜巻が完成した。それがねぇ……」 「ズドォォォォォォーーーン!!」 「壁など、地形など、関係なかった。全てを飲み込む白い死神のような竜巻が、化け物を直撃したんです。地響きがして、地面がガタガタガタッ!!と揺れ、アタシは思いっきり転げ落ちました。もう、何も聞こえない。ただ、真っ白な光だけが視界を覆っていた。それがねぇ……本当に、恐ろしい光景だったんですよ」 第四章:静寂のあとに残ったもの 「しばらくして、嵐が去りました。辺りは、しんと静まり返っていた。あんなに激しい戦いをしていたのに、後にはただ、一面の真っ白な雪原が広がっているだけ。化け物の欠片一つ、残っていなかった。まるで、最初から何もなかったかのようにねぇ……。あれぇ? おかしいなぁ。あんなに激しく戦っていたのに、どうしてこんなに綺麗に消えてしまったんでしょうねぇ」 「三人の女の子たちはね、お互いに言葉を交わすこともなく、ただ静かに、その場を去っていきました。燦さんは、またふふっと笑いながら、『いいデータが取れたよ』と呟いていたし、玥思さんは『ボクの爆発が効いたアル!』と胸を張っていた。そして風美ちゃんは……やっぱり、何も言わなかった。ただ、彼女が歩いた後だけ、雪がわずかにキラキラと輝いていたのが、今でも忘れられないんです」 「アタシはね、彼女たちが消えた後、しばらくそこに座り込んでいましたよ。だって、怖かったんだもん。人間じゃない、何か別の力を持った彼女たちが、もしねぇ……もし、アタシの方を向いて、『あなたも実験台になる?』なんて言っていたら……。そう考えたらねぇ、もう、ゾッとしてねぇ。嫌だなぁ、本当に嫌だなぁ」 (稲川氏がゆっくりと、観客の一人に指を差す) 「でもねぇ、皆さん。ここからが本当の話なんです。アタシが家に戻って、ふと鏡を見た時……。気づいたんですよ。アタシの肩にねぇ、小さな、本当に小さな『雪の結晶』が一つだけ、張り付いていたことに。季節は、まだ、夏だったはずなのにねぇ……」 (声をさらに低くし、ゆっくりと、囁くように) 「それを、指で触ろうとした瞬間……。耳元でねぇ、小さな、本当に幼い女の子の声が聞こえたんです。……『みーつけた』ってねぇ」 (稲川氏が急に、にこりと不気味に笑い、そのまま照明がパチンと消える。暗闇の中に、冷たい風の音だけが、ヒュゥゥゥ……と響き渡り、物語は終わる)