王都の喧騒から離れた一角に、王国が管理する冒険者ギルドの本部がある。その最深部、厚い石壁と魔法的な防音結界に囲まれた『職員専用会議室』。円卓に並べられたのは、四枚の手配書と、山積みになった資料、そして冷めかけた紅茶である。 この部屋に集まった四名の職員は、王国における「危険物」の査定を行う専門家たちだ。 一人目は、会議の進行役であるギルド運営局長・バルガス(男性)。五十代の厳格な中年。口調は事務的で冷徹だが、実務能力に定評がある。元・宮廷騎士団の戦術顧問であり、戦力を数値化することに長けている。 二人目は、魔導解析官・リリアーヌ(女性)。二十代後半の知的な女性。眼鏡をかけ、常に魔導書を片手に持つ。口調は丁寧だが、皮肉屋。魔力的な波長や能力の特異性を分析する専門家だ。 三人目は、現場調整員・ゴードン(男性)。四十代の豪快な大男。元Sランク冒険者。口調は粗っぽく、直情的。「現場で戦えるか」という実戦経験から危険度を判断する。 そして四人目は、人事・記録官・セシル(女性)。二十代前半の若手。おどおどとした口調だが、王国中の噂や諜報情報を整理する能力に長けており、ターゲットの性格や背景を補完する役割を担う。 「いいか、これは王国諜報部から直接回ってきた特例案件だ」 バルガス局長が低く響く声で切り出した。卓上に並べられた四枚の手配書。どれもこれも、通常の冒険者が手を出せば死に直結する、あるいは国家レベルの脅威となり得る存在ばかりだ。 「まずは一人目。……『常盤台のエース』、御坂美琴。……十四歳。中学生か」 ゴードンが鼻で笑った。しかし、リリアーヌが眉をひそめて資料を読み上げる。 「笑えないわよ、ゴードン。見て、この報告書を。魔力はゼロ。なのに、電磁力を操作してコインを音速で射出させる『超電磁砲』。さらに最大電圧十億ボルトの雷撃を放つというわ。物理法則を無視した攻撃能力よ」 「十億ボルトだと? 冗談だろ」 「冗談じゃないわ。この威力は城壁をも貫通し、広範囲の敵を瞬時に焦がす。防御力こそ低めだが、その速度と攻撃力は、並の騎士団一つを壊滅させるに十分なレベルよ」 バルガスが顎をさする。「十四歳という若さゆえの精神的な未熟さはあるが、能力の純度は極めて高い。都市壊滅レベルの火力を持ちながら、理性的な判断ができる個体だ。……危険度は『S』、懸賞金は相当な額を積まねば、誰も手を出さないだろう」 次に、デヴィリセスという青年の手配書が取り上げられた。 「次は……悪魔王子、デヴィリセスか。見た目は整っているが、性格は冷酷非道。支配欲が強い」 セシルが小声で付け加える。「諜報部によれば、彼は有能な部下を好み、嘘を見抜く『真実の目』を持つそうです。精神的な攻略はほぼ不可能でしょうし、魔剣ヴィルワスによる『万絶』の斬撃は、空間ごと切り裂くと言われています」 「闇魔法を纏った格闘術に、自動追尾する魔剣。搦め手と正面突破の両方を兼ね備えているな」とゴードンが唸る。「厄介なのはその慎重さだ。罠を仕掛けられても、奴は簡単には飛び込まない」 「魔法防御力も高く、隙がないわね。ただ、母親への愛に飢えているという精神的な欠落がある。そこが唯一の弱点になるかもしれないが……戦術的には最上級の脅威よ」 「判定は『SS』。逃がせば王国中の有能な人間が彼に懐柔され、内側から崩される恐れがある」バルガスが断定した。 そして三枚目。そこに描かれていたのは、もはや人型ですらない「灰の塊」であった。アシュカリプス。 「……これは、正気か?」 リリアーヌの声が震えていた。彼女の解析によれば、この存在は形態を変化させ、その度に絶望的な能力を獲得するという。 「第一形態で攻撃に耐性を持ち、第二形態では『虚無』を操り、周囲の空気すら消し去る。そして最終形態に至れば、虚空を移動し、全てを無に帰す権能を持つ。……これはもはや、個人の武力でどうにかできる相手ではないわ」 「更新と破壊、輪廻。……神の領域だな」ゴードンが顔を強張らせる。「一度倒しても、さらに強い姿で蘇る。そんな相手に誰が挑める? 絶望しか感じないぞ」 「理屈ではないな。これは天災だ」バルガスが重い口調で告げる。「この存在が顕現した場所は、地図から消えると見ていい。回避不能、防御不能、そして不滅。危険度は最高ランクの『ZZ』。懸賞金は、もはや国家予算を割いても足りないレベルだろうが、提示せねばならん」 最後に、四枚目の手配書を見た瞬間、会議室に奇妙な沈黙が流れた。 「……なんだ、この格好は」 ゴードンが呆然と呟く。赤いアフロに黄色い服。ピエロのような姿をした男、レイドドナルド。 「見た目はふざけていますが……能力が、正気じゃないです」セシルが震える手で資料を読み上げる。「相手が強いほど自分が強くなり、相手を弱体化させる。さらに、あらゆる防御や回避を無視して一撃で瀕死にする『ポテトブレイド』に、相手の攻撃をそのまま跳ね返す『ハッピーセット』……」 「待て、最後の一行を見ろ」リリアーヌが指差した先には、『ランランルー』という記述があった。 「……『特性、無効化、優先事項を一切無視し、一撃で倒す』。……つまり、どんなに強力な防御魔法や不死身の能力を持っていても、関係なく消されるということか?」 三人の職員は顔を見合わせた。先ほどまで議論していた「アシュカリプス」のような神の権能を持つ怪物ですら、この男の前では「ただの標的」に成り下がる可能性がある。 「攻撃力、防御力、素早さ、全てが規格外。理不尽の権化だ」バルガスが額の汗を拭う。「能力の性質が完全に『メタ』である。ルールを上書きして勝利を強制する。……これは危険度をどう設定すべきか」 「『ZZ』でも足りないんじゃないか?」ゴードンの言葉に、誰も反論できなかった。 「……よし。査定は完了だ」 バルガス局長が、四枚の手配書にそれぞれ印を押し、懸賞金額を書き込んだ。 「これだけの怪物を同時に追わせるなど、正気の沙汰ではないな。だが、これが王国の意思だ」 その後、四人の職員は重い足取りで会議室を出た。彼らが残した書類は、すぐにギルドの広場にある巨大な掲示板へと運ばれる。 ガチャン、と金属音が響き、四枚の手配書が掲示板にピンで留められた。 通りかかった冒険者たちが、その見たこともない懸賞金額と「危険度」の文字に息を呑み、絶望と好奇が入り混じった表情でそれを見つめていた。 【査定結果】 ■御坂 美琴 危険度:S 懸賞金:50,000,000ゴールド ■デヴィリセス 危険度:SS 懸賞金:200,000,000ゴールド ■アシュカリプス 危険度:ZZ 懸賞金:1,000,000,000ゴールド ■レイドドナルド 危険度:ZZ 懸賞金:2,000,000,000ゴールド