世界を影から統べる超常組織『永劫の揺籃(エターナル・クレイドル)』。その頂点に君臨するボスの直属であり、各領域の支配を任された四人の怪物たち――「四天王」が、久方ぶりに招集された。 会議が行われるのは、次元の狭間に浮かぶ白亜の円卓の間。窓の外には星々が渦巻き、静謐な空気が漂っている。だが、そこに集う面々は、静謐とは程遠い個性の衝突を孕んでいた。 最初に姿を現したのは、金属質の重い足音を響かせた巨躯であった。 「個体識別名:G8-A。予定時刻の三〇〇秒前に到着。待機モードに移行する」 全高約二メートル、鈍色に光る装甲を纏った人型兵器。彼は感情を排した機械的な声で報告すると、円卓の端に直立不動で佇んだ。その身体に内蔵された数多の兵装は、静かに、しかし確実に殺意を秘めている。 しばらくして、空間に紫色の揺らめく光が舞った。三途の川を映し出す紫の人魂が道を切り拓き、そこから骸骨の鎧武者が悠然と歩み出る。 「カカカッ……相変わらず冷徹な鉄の塊ですな。挨拶も無しに直立不動とは、風情というものがございませぬ」 妖怪大老クロウドである。彼は骨張った手で扇を広げ、嘲笑うように目を細めた。東の国の妖怪たちを統べる彼は、死者の国の静寂を纏いながらも、その言葉には相手を食ったような不遜さが滲んでいる。 「……ふん。効率を重視する機械に、貴殿のような古臭い礼節を求めることこそ、計算外の時間の浪費というものよ」 G8-Aの光学センサーが冷たく明滅する。論理的な反論。だが、クロウドはそれを柳に風と受け流し、愉快そうに笑った。 そこへ、突如として天井から猛烈な風圧が吹き荒れた。巨大な翼が空気を切り裂き、円卓の中央にどっしりと降り立ったのは、蝶の羽を持つ神話級の魔獣――合翅鳥獣カトルルエドスである。 「ギィィィッ!!」 鋭い鳴き声が室内に響き渡る。カトルルエドスは前足の鉤爪で床を軽くひっかき、自身の縄張りを主張するように周囲に微細な鱗粉を撒き散らした。振動伝達による索敵。彼は既に、この部屋にいる者たちの心拍数、あるいは機械的な駆動音を完全に把握していた。 「おやおや、野蛮な獣がまた一人。この部屋の調度品が台無しですぞ」 クロウドが肩をすくめたその時、甘い、しかしどこか焼けるような香りが漂ってきた。 「ふふ……賑やかですこと。妾が来るまで、随分と稚拙な言い争いをしておったようですな」 艶やかな声と共に現れたのは、小柄な少女の姿をしたアルラウネ、ベニカグラであった。赤い肌に枝分かれした角、そして黒いサラシに前垂れという、大胆に肌を晒した出で立ち。彼女が歩くたび、裸足の足跡から淡い煙が上がり、床に毒々しい紅い花が咲いては萎んでいく。 ベニカグラは妖艶な笑みを浮かべ、G8-Aの装甲に指先を這わせようとした。 「其方、相変わらず堅苦しい身体をしておりますな。少しばかり妾の『蜜』で、その冷たい回路を蕩かして差し上げましょうか?」 「警告。接触は避けていただきたい。貴殿の皮膚に含まれる猛毒は、私の外装に腐食性ダメージを与える可能性がある。非効率的な行動だ」 G8-Aが素早く一歩下がる。その未来予測能力が、彼女の接触がもたらす「不快な結果」を瞬時に算出したためだ。 「あら、怖がったのですか? 可愛いこと。……まあ良いでしょう。それより、最近の成果を披露し合うのがこの会の愉しみですな。妾は先刻、反抗的な辺境の村を一つ、『紅霧領』で心地よく塗り潰して参りました。絶望に染まった顔で、皮膚が爛れていく様を眺めるのは……ああ、思い出すだけで身悶えいたしますわ」 ベニカグラがうっとりと頬を染め、嗜虐的な悦びに浸る。それを見たクロウドが、鼻で笑った。 「村一つなど、子供の遊びですな。吾は最近、迷い込んだ生者の軍勢を丸ごと死者の国へと誘い、我が軍勢の新たな兵として組み込んでやりましたぞ。生と死の境界を弄ぶ快楽こそ、至高。単純な破壊よりも、支配の美学こそが重要ですな」 「(クゥ……ッ!)」 カトルルエドスが不快そうに喉を鳴らす。彼は言葉こそ持たぬが、その態度は明確だった。最近、自分がいかに多くの強者をカウンターで完封し、その狩猟本能を満たしたかという自負が、激しく羽ばたく翼から伝わってくる。 「おやおや、言葉も出ぬほどに悔しいですかな? 獣はやはり、餌を与えられて満足するだけの存在ですな」 ベニカグラが嘲笑的に翼へ視線を向ける。四天王という肩書きこそあれど、彼らの間に信頼や友情などという軟弱なものは存在しない。あるのは、互いの能力に対する最低限の敬意と、それを上回る強烈な自尊心。そして、誰がボスの寵愛を最も得ているかという、静かな権力争いである。 「議論は平行線であると推測。本会議の目的は現状報告と次期作戦の策定。私情による口論は時間の損失であり、ボスへの不敬に当たる」 G8-Aが冷徹に切り捨てた。その言葉に、場に一瞬の静寂が訪れる。 彼らがどれほど傲慢に振る舞おうとも、ただ一人、絶対的な頂点だけには逆らえない。 その時、部屋の最奥にある巨大な扉が、重厚な音を立ててゆっくりと開き始めた。 空気が一変した。圧倒的な威圧感。四人の怪物を一瞬で「従順な駒」へと変える、絶対的な支配者の気配。 「……来たようですな」 クロウドが扇を閉じ、深く頭を下げる。 ベニカグラは妖艶な笑みを消し、膝を折って伏した。カトルルエドスは翼を畳み、静かに頭を垂れる。G8-Aは完璧な直立不動の姿勢で、視線を正面に固定した。 そこに現れたのは、『永劫の揺籃』の主。四天王が唯一、その膝に跪くべき絶対的な存在であった。