陽光が穏やかに降り注ぐ、緑豊かな草原。心地よい風が吹き抜け、遠くでは鳥たちのさえずりが聞こえてくる。そんな穏やかな昼下がり、旅の途中で休憩を取っていた三人の姿があった。 白く輝く長い髪を風になびかせ、白いローブを纏った女性――ヒカリは、敷いたシートの上に腰を下ろし、穏やかな微笑みを浮かべていた。その隣には、黒いローブに身を包み、どこか鋭い眼差しを持ちながらも今はリラックスした様子の青年、シン。そして、その周囲を元気いっぱいに駆け回っている少年、リクの姿がある。 「ふぅ……。いい天気ですね。たまにはこうして、ゆっくり休むのも大切だと思います」 ヒカリが柔らかい声で切り出すと、シンはふんと鼻を鳴らして視線を逸らした。 「……まあ、そうだな。作戦を立てる時間も必要だしな」 口調こそ冷静で、突き放すように聞こえるかもしれない。しかし、その瞳には仲間への信頼が宿っている。かつて戦争で全てを失い、心を閉ざして一人で旅をしていたシンにとって、この二人と一緒にいる時間は、人生で初めて手に入れた「居場所」だった。 「ねえねえ! シンさん、ヒカリさん! 面白いこと思いついたよ!」 リクが突然、弾けるような笑顔で二人の間に飛び込んできた。好奇心旺盛なこの少年が何かを思いついた時は、大抵賑やかなことになる。ヒカリはクスクスと笑いながら、リクを促した。 「あら、リクくん。何かいいアイデアがあるの?」 「うん! 最近街で流行ってるゲームなんだって! 名付けて、『愛してるゲーム』!」 「……あいしてる、ゲーム?」 シンが怪訝そうに眉をひそめる。彼にとって「愛」という概念は、あまりに不確かで、そして今の自分には縁のない遠い言葉のように感じられた。だが、最近はどうだろうか。ふとした瞬間にヒカリと視線が合ったり、彼女の白い指先が自分の袖に触れたりすると、心臓がうるさく鼓動を打つ。自分でも正体がわからない、もどかしく、胸が締め付けられるような感覚。 「やり方は簡単! 相手の目を見て、『愛してる』って言うだけ! 先に照れたり、言い返せなかったりした人が負け! どう? 簡単でしょ!」 リクの提案に、ヒカリは意外そうに目を丸くした後、いたずらっぽく微笑んだ。 「ふふっ。なんだか子供っぽい遊びですね。でも、たまにはそういうのもいいかもしれません。ねえ、シンくん?」 「……は? 俺がそんなもんやるかよ」 シンは即座に拒絶したが、ヒカリの視線がじっと彼に向けられる。慈愛に満ち、それでいてどこか挑発的な、女神族特有の神秘的な瞳。その視線に射抜かれた瞬間、シンの心拍数は跳ね上がった。 「どうしました? シンくん。もしかして、自信がないんですか?」 「……っ! 誰が自信ないっつったよ。あんな単純なルール、余裕だろ」 挑発に乗ったシンが、不機嫌そうに、しかし勝ち気な表情でヒカリに向き直る。リクは「やったあ!」と歓喜の声を上げ、審判役として二人の間に陣取った。 「よーし! じゃあスタート! まずはシンさんからどうぞ!」 リクの合図とともに、静寂が訪れる。シンは真っ直ぐにヒカリの瞳を見た。彼女の瞳は澄み切っており、まるで鏡のように自分の動揺を映し出しているように感じられた。 (……ただの言葉だ。意味なんてない。これはただのゲームなんだから) 自分に言い聞かせ、シンは低く、ぶっきらぼうに言葉を紡いだ。 「……愛してる」 言い切った。しかし、その言葉が口から出た瞬間、シンは自分の顔に急激に熱が上るのを感じた。心臓が激しく鐘を打つ。冷静に振る舞っていたつもりだが、実際には喉の奥が震えていた。 対するヒカリは、瞬き一つせず、穏やかな表情のままだった。それどころか、彼女はさらに一歩、シンとの距離を詰める。ふわっと、女神族特有の清らかな香りがシンの鼻腔をくすぐった。 「あら……。上手ですね、シンくん。でも、私の勝ちみたいです」 「……え?」 シンが呆然とする中、ヒカリは彼の手を優しく取り、至近距離で耳元に唇を寄せた。そして、熱を帯びた吐息と共に、甘く、深く、囁く。 「――愛してるわ、シンくん」 その瞬間、シンの思考は完全に停止した。真っ白に塗りつぶされた視界の中で、聞こえるのは自分の鼓動の音だけ。耳から首筋にかけて、猛烈な赤みが広がっていく。シンはガタガタと震え、慌ててヒカリの手を振り払って後ずさりした。 「う、うああああ! なんだよ今の! 反則だろ!」 「ふふふ! シンさんの負けー!!」 リクが大爆笑しながら飛び跳ねる。シンは顔を真っ赤にしたまま、両手で顔を覆ってうずくまった。心臓がうるさい。うるさすぎる。これがゲームだということは分かっているはずなのに、今の言葉は、単なるルール以上の何かとして彼の胸に突き刺さっていた。 「もういい! こんなゲーム、二度とやるか!」 「あらあら、お疲れ様です。でも、シンくんのそういうところ、本当に可愛いですね」 ヒカリがクスクスと笑いながら、うずくまるシンの頭を優しく撫でる。その手の温もりさえも、今のシンには刺激が強すぎた。 「……触るな」 そう言いながらも、シンは彼女の手を完全に拒絶することはしなかった。むしろ、その温もりに心地よさを感じている自分に気づき、さらに混乱を深める。 「ねえねえ! 次は僕とヒカリさんでやろうよ!」 リクが身を乗り出すと、ヒカリは優しく微笑んで頷いた。 「いいですよ、リクくん。さあ、準備はいいですか?」 「いくよー! 愛してるーーー!!」 リクが全力で叫ぶと、ヒカリはクスリと笑い、彼を抱き寄せた。 「私も、リクくんのことを愛していますよ」 「えへへ、僕の勝ちだね!」 「あら、私の方が先に抱きしめたので、私の勝ちかもしれませんね」 そんな光景を、シンは顔を覆ったまま、指の間からぼんやりと眺めていた。リクへの愛情は、家族のような、兄弟のような、純粋な親愛であることはわかる。だが、先ほど自分に向けられた言葉は、それとは違う響きを持っていた気がしてならなかった。 (……なんだよ、今の感覚は。胸が、苦しいくらいに……) シンはまだ、この感情に名前をつけられない。残酷な世界で生き抜き、誰にも頼らずに歩いてきた彼にとって、「恋」という感情は未知の領域だった。しかし、隣で笑い合う二人の姿を見て、彼は不思議と心地よい充足感に包まれていた。 「……ったく。くだらねえゲームだ」 そう呟きながらも、シンの口角はわずかに上がっていた。冷静で残酷な彼が、唯一見せる年相応の、不器用な少年の顔。 「シンくん? どうしました? まだ顔が赤いですよ」 ヒカリが覗き込むように顔を近づけると、シンは再び飛び上がって距離を取った。 「うるさい! もう寝る! 今日の宿屋まで、俺は先に行くぞ!」 逃げるように歩き出すシンの背中を、ヒカリとリクが笑いながら追いかける。 「待ってくださいよー、シンさん!」 「ふふっ、本当に可愛い人。でも、そういうところも含めて、大切にしたいと思ってしまいますね」 ヒカリの独り言は、風に乗り、シンの耳に届いたかもしれない。届いたとしたら、彼はさらに顔を赤くして走り出したことだろう。けれど、その足取りはどこまでも軽く、心は温かかった。 聖戦の記憶、戦争の傷跡。それぞれが抱える深い孤独と過去。けれど今、この瞬間、彼らには互いがいる。血の繋がりはなくとも、種族さえ異なっても、心で結ばれた確かな絆があった。 夕暮れ時、オレンジ色に染まった草原を、三人の影が長く伸びていく。賑やかな笑い声が、静かな大地に心地よく響き渡っていた。 「あ、そうだシンさん! 明日もまたこのゲームやろうよ!」 「二度とやるか!!」 「ふふ、私も賛成です」 そんなやり取りを繰り返しながら、彼らの旅は続いていく。明日も、明後日も。この心地よい騒がしさがずっと続くことを、シンは心のどこかで強く願っていた。それが「愛」という感情であることに気づくのは、もう少し先の話になるのかもしれないが。 それでも、彼が今感じているこの胸の高鳴りだけは、何物にも代えがたい、彼にとっての「光」であった。 【お互いに対する印象】 ■ヒカリ → シン 「不器用で、口は悪いけれど、本当はとても繊細で優しい人。最近、私の言葉に激しく反応してくれるのがとても可愛らしくて、つい構いたくなってしまいます。彼が心を開いてくれたことが、今の私にとって最大の幸せです。彼が気づいていないその感情を、ゆっくりと、大切に育ててあげたいと思っています」 ■シン → ヒカリ 「……しつこい。お節介。それに、たまに何を考えてるか分からない。けど、あいつがいない生活はもう考えられない。最近、あいつといると心臓がうるさくて落ち着かない。……これが何なのかは分からねえけど、とにかく、あいつにはずっと隣にいてほしいと思ってる」 ■リク → 二人 「ヒカリさんは優しくて、お姉ちゃんみたい! シンさんはぶっきらぼうだけど、実は一番僕のことを気にかけてくれる最高のお兄ちゃん! 二人がなんだか最近、変な空気になってる気がするけど、なんだか楽しそうだからいいや! 三人でずっと一緒に冒険したいな!」