王国が管理する冒険者ギルド。その最深部に位置する職員専用会議室は、重厚なオーク材のテーブルと、壁一面を埋め尽くす古文書や地図によって、静謐ながらも緊張感に満ちた空気が漂っていた。 円卓を囲むのは、ギルドの査定業務を司る四人の熟練職員である。 一人は、ギルドの査定責任者であるゼノス(男)。厳格な性格で、元王国騎士団の軍師。常に冷静沈着な口調で、効率と論理を最優先する。「……さて、始めようか。諜報部から届いたこの四件、いずれも特異な個体ばかりだ」 二人目は、古文書研究員のミラ(女)。おっとりとした口調だが、知識量に関しては王国随一。眼鏡の奥の瞳は好奇心に満ちている。「あらあら、面白い方が揃っていますね。特に三枚目の方は、見たこともない構造をしています」 三人目は、現場調整員のガストン(男)。粗野な口調で豪快に笑う大男。元Aランク冒険者で、実戦的な危険度を判断する。「がはは! 堅苦しい理屈はいい。ぶっ飛ばせるか、あるいはぶっ飛ばされるか、そこだけが重要だろ?」 そして四人目は、事務長のシルヴィア(女)。冷徹なまでの事務処理能力を持つ女性。口調は丁寧だが、言葉の端々に毒が含まれている。「効率的な予算配分をお願いしますよ。あまりに高額な懸賞金を吊り上げれば、ギルドの財政が火の車になりますから」 テーブルの上に、王国諜報部から届けられた四枚の手配書が並べられた。 「まずは一枚目。メルセデス・キャデラック」 ゼノスが指し示したのは、金髪をなびかせ、太陽のように明るい笑顔を浮かべた少女の写真だった。 「海賊団長か。だが、経歴を見るに、正真正銘の『憧れ』で旅に出た若者だな。能力値は平均的。指揮力や行動力はあるが、攻撃・防御ともに特筆すべき点はない」 「まあ、可愛い子ですね」とミラが微笑む。「でも、大海賊の孫娘という血筋と、中古客船を運用している点からして、海域での攪乱能力は無視できません」 「ふん、三節棍一本で何ができる。海賊という肩書きだけで怖がる必要はねえな」とガストンが鼻で笑う。 「ですが、若さゆえの無鉄砲さは予測不能な事故を招きます」とシルヴィアが付け加えた。「危険度は低いですが、海域の治安維持のためにある程度の額を。……Cランク、懸賞金は控えめに設定しましょう」 続いて二枚目の手配書が取り上げられた。高進 朝日。ムチムチとした健康的な体格の女性警官である。 「……なんだこれは。警察官がなぜ手配書に載っている?」 ゼノスの眉がひそむ。資料には彼女の「声」に関する恐ろしい記述があった。 「見てください、この記述。拡声器を使用した際の音波攻撃は、ガラスを割り、大地を砕く。さらに拳一つで鉄扉を突き破る怪力……。正義感に溢れているようですが、その出力が制御不能なレベルにあるようです」 ミラが資料を読み上げると、ガストンが身乗り出した。 「おいおい、物理的な破壊力が相当なもんだぞ。銃弾すら通じない防弾服を着てて、この怪力か。戦うなら広域避難が必要だな」 「天真爛漫な笑顔で街を破壊して回るとは、ある意味で最悪の脅威です」とシルヴィアが冷たく断じた。「正義を執行しているつもりで周囲を壊滅させるタイプ。危険度は高い。Sランクを適用しましょう」 三枚目に移る。そこには、人間とはかけ離れた姿が写っていた。頭部がムービーカメラである巨躯の男、ラージカメラマン(フレッド)。 「……異形。いや、機械人形の一種か」 ゼノスの声に緊張が走る。アライアンス陣営に属し、高度なテクノロジーを搭載していることが記載されていた。 「プラズマブラスター、チェーンソーソード、さらにグラヴィティアームにホログラムシールド……。武装の構成が完璧すぎます」とミラが分析する。「しかも新型ジェットパックによる高機動。魔法を一切使わず、純粋な技術力だけでこれだけの火力を出している」 「こういうタイプが一番厄介なんだ。防御力も高く、近距離でも遠距離でも隙がない。投げ飛ばされたらひとたまりもねえな」とガストンが顔をしかめる。 「王国にない未知の技術。これを奪取、あるいは無力化することは国家的な利益になります」とシルヴィアが眼鏡を光らせた。「危険度は極めて高く、かつ価値もある。SSランク。懸賞金は破格に設定すべきです」 最後に、四枚目の資料が広げられた。そこには、ただの粘液の塊のように見える生物、ダイラタンシーみたいなスライムの写真があった。 会議室に沈黙が流れる。しかし、その詳細を読み進めるうちに、四人の顔から余裕が消えた。 「……待て。読み間違いか?」 ゼノスの声が震えていた。 「核がない。液体、気体、固体に自在に変化し、相手の攻撃に合わせて自動的に硬度と温度を変える……物理攻撃、魔法攻撃ともに無効。さらに飲み込んだ相手を核兵器並みの圧力で破壊する」 ミラが絶句している。ガストンですら、冷や汗を流していた。 「おい、待てよ。これ、どうやって倒すんだ? 攻撃が効かない上に、触れただけで圧殺されるってことかよ」 「能力ではない。……『体質』であると書かれています。つまり、努力や特訓で克服できる類のものではないということですね」 シルヴィアが静かに、しかし戦慄を込めて言った。 「これは『個体』ではなく、『天災』です。対策が不可能です。現状、王国にこれを討伐できる手段は存在しない。危険度は最高ランク。ZZ。懸賞金は……もはや意味をなさないかもしれませんが、最大限の額を提示し、誰か奇跡を起こす者を募るしかありません」 四人の職員は、深い溜息とともにペンを走らせた。 しばらくして、ギルドの喧騒の中に、四枚の紙が掲示板に叩きつけられた。 一枚目は、元気いっぱいの少女。二枚目は、笑顔で破壊を撒き散らす警官。三枚目は、冷徹な機械の戦士。そして四枚目は、静かにすべてを飲み込む絶望の粘液。 冒険者たちがその手配書を覗き込み、ざわつき始めた。彼らはまだ知らない。この四枚の紙に込められた、絶望的なまでの格差を。 * 【判定結果】 ■メルセデス・キャデラック 危険度:C 懸賞金:500,000 ゴールド ■高進 朝日 危険度:S 懸賞金:25,000,000 ゴールド ■ラージカメラマン(フレッド) 危険度:SS 懸賞金:100,000,000 ゴールド ■ダイラタンシーみたいなスライム 危険度:ZZ 懸賞金:1,000,000,000 ゴールド