王国が管理する冒険者ギルドの奥深く。一般の冒険者が足を踏み入れることのない、重厚なオーク材の扉に囲まれた「職員専用会議室」には、いま張り詰めた空気が漂っていた。 円卓の上に置かれているのは、王国諜報部から極秘に届けられた四枚の手配書。そして、それを囲むのはギルドの査定を司る四人の精鋭職員である。 まずは、この会議を主導するギルド長、バルトス(男性)。厳格な面持ちの老人で、口調は威厳に満ちた古風なものである。かつては王国騎士団の副団長を務めた経歴を持ち、武力の危険性を誰よりも熟知している。 次に、実務を取り仕切る筆頭事務官、エレナ(女性)。理知的で冷徹な口調の女性。元王立アカデミーの教授であり、魔導理論と数値化によるリスク管理の専門家である。 そして、現場の声を代表する派遣責任者、ガストン(男性)。粗野で豪快な口調の巨漢。数多くの現場を走り回った経験から、直感的に「捕まえやすさ」を判断する熟練のスカウトマンだ。 最後に、情報の精査を担当する記録官、ミラ(女性)。おどおどとした控えめな口調だが、王国のあらゆる文献に精通した記憶の天才。諜報部とのパイプ役も兼ねている。 バルトスが深くため息をつき、一枚目の手配書を指し示した。 「……まずはこの、奇妙な案件からだ。『冷蔵庫の少女』。諜報部の報告によれば、レストランチェーンの令嬢が、暑さを避けるため業務用冷蔵庫に住み着いたという。……これが本当に指名手配に値するのか?」 エレナが眼鏡のブリッジを押し上げ、冷淡に分析を始める。 「攻撃力は最低レベル。魔力も皆無です。しかし、注目すべきはその防御力。業務用大型冷蔵庫という『城』に引きこもっているため、物理的な侵入は極めて困難。さらに本人の耐久性も高く、強いて言えば『不自由な居座り』による経済的損失と、冷凍食品の大量消費が問題視されているのでしょう」 「ガハハ! 捕まえ方は簡単じゃねえか。冷蔵庫のコンセントを抜けばいい。あるいは、火を焚いて中を暑くして追い出す。戦う必要もねえな」とガストンが笑う。 「ですが……」ミラが小声で付け加えた。「彼女は非常に友好的だそうです。悪意はないのでしょうが、一度居心地が良いと感じた場所から動かないという頑固さは、ある種の精神的障壁と言えます。危険というよりは、『厄介』ですね」 バルトスは肩をすくめた。「よかろう。実害は少ないが、王国の秩序(と電力)のために、低額で設定しておけ」 続いて、二枚目の手配書が提示された。その瞬間、会議室の温度が数度下がったかのような錯覚に襲われた。 「……次は、正視し難い能力者だ。『アヌビス二刀流ポルナレフ』。シルバーチャリオッツとアヌビス神……二つのスタンド能力を併せ持つ剣客。これは……危険すぎる」 バルトスが険しい表情になる。エレナが資料を読み上げ、その顔に緊張が走った。 「信じられません。相手の行動を完全に学習し、適応する。しかも、過去の戦いで相手の最強の能力を『記憶』し、それを上回る絶技を開発する……。これはもはや、戦闘において『絶対的な勝利』を約束された個体です。超光速の域に達する攻撃、そしてあらゆる防御を突破する一撃。正攻法で挑めば、派遣した冒険者は一人残らず切り刻まれるでしょう」 「冗談じゃねえ……」ガストンが冷や汗を流す。「学習して成長する剣士だと? そんなもん、誰をぶつけても無駄じゃねえか。捕まえる方法があるのか?」 「諜報部の分析では、精神的な隙を突く以外に策はないとのことです」ミラが震える声で答える。「危険度は測定不能。いや、最高ランクに設定すべきです」 三枚目の手配書は、淡い水色の少女のイラストだった。『スライム娘』。 「見た目は愛らしいが、中身は化物だな」バルトスが呟く。 「ええ。物理攻撃がほぼ通用しない不定形。さらに、損傷しても瞬時に完璧な再生を果たす。痛みさえ感じないとなれば、精神的な揺さぶりも効きません。分裂による物量作戦や、相手を体内に取り込む『スライム攻め』など、搦手も多彩です。攻撃力こそ高くはないが、不沈の要塞のようなものです」とエレナが解説する。 「優しくて心配性っていうのは、罠じゃねえのか?」ガストンが疑わしげに眉をひそめる。「敵が優しいのは、こちらが油断して飲み込まれるまで待っているだけかもしれねえぞ」 「まあ、殺意はないのでしょうが、捕縛しようとしても指の間からすり抜けるでしょうね」ミラが苦笑いした。 そして最後の一枚。そこに記されていた名は『カムロア』。 「伝説の悪魔か……」バルトスが重い口を開いた。「外道や悪魔を滅ぼしてきたという皮肉な経歴を持つ青年。無邪気な笑顔の裏に底なしの狂気を秘めているという。これは、前述の剣客とはまた異なる種類の恐怖だ」 「能力が極めて狡猾です」エレナが分析を続ける。「『借りパク』による道具の自由自在な操作、毒や搦手への耐性、そして『零百加速』。加速による初速の消去は、熟練の戦士ですら反応できない。さらに変身して鎌で切り刻む『惨虐ショー』……。戦闘センスが天才的であり、予測不能な行動に走るため、封印や拘束の策を立てるのが非常に困難です」 「狂った悪魔が、少年に懐いているだと?」ガストンが顔をしかめる。「その少年を人質にすればいいが……そうなれば、この悪魔が本気で王国を滅ぼしに来るかもしれねえな。関わりたくねえ相手だ」 「……結論を出そう」バルトスが手配書をまとめ、封印の印を押した。「一人目は生活習慣の改善が必要な少女。二人目は神速の剣豪。三人目は不死の擬態者。そして四人目は狂気の悪魔。……それぞれ、求める適性の冒険者が異なるな」 四人の職員は、それぞれの危険度と、それに見合った懸賞金額を決定した。王国諜報部から届いたこれらの情報は、今からギルドの掲示板に掲げられ、世界中の冒険者たちに突きつけられることになる。 「さて、誰がこの絶望的な依頼に飛びつくか、見ものだな」 バルトスの合図とともに、四枚の手配書はギルドの喧騒の中にある掲示板へと、厳かに、そして残酷に貼り出された。 * 【査定結果】 名前:冷蔵庫の少女 危険度:E 懸賞金:50,000ゴールド 名前:アヌビス二刀流ポルナレフ 危険度:ZZ 懸賞金:1,000,000,000ゴールド 名前:スライム娘 危険度:B 懸賞金:3,000,000ゴールド 名前:カムロア 危険度:SS 懸賞金:500,000,000ゴールド